第38話 作戦フェイズ2
時刻は0200 午前2時【アリの巣コロリ作戦】はセカンドフェイズに移行。
バグラム基地から約100kmほど北東部の山岳地帯の一角。中継地点の廃村から南方へ、フェイズ2作戦部隊は各車両にてセクター1に進入移動。
途中からは各隊チームは徒歩にて移動し、トールたちリーコン隊とレンジャー隊は4マンセルの6チームに分かれ、各セクターの予定ポイントに配置していた。
セクター1は、最終目的地点である敵拠点要塞から直線距離にして、10から4km圏内の北西部の荒涼地域。
セクター2は、敵拠点を含めたその北部、荒涼の入り混じった、6km圏内から直接、敵要塞拠点周辺までの森林地域。
この区間は、敵テロリストらも移動しやすくする為か、わりと広めの車道が敵拠点要塞に向けて通っている。
だが、侵入者への対策も怠らず、途中に前哨を兼ねた防衛拠点を置き、そこから哨戒部隊を要所要所に展開させている。
更に軍事衛星や、上空を飛ぶ哨戒観測機への対策のカモフラージュに、所々に無人の家屋を設置して、哨戒部隊や歩哨組の一時的な休息地点にもしている。
今回強襲する要塞拠点や、他の地域に点在する各拠点の規模から鑑みて、その総規模は数千人単位に及ぶことが推測される。
尚、この情報を得る為にトールとリディが、でかいバックパックを背負ったまま昼夜問わず、愚痴を零しつつ駆けずり回っていた事は言うまでも無かろう。
作戦フェイズ2の標的は、この前哨拠点までの道中及び、その周囲に展開している深夜帯担当の分隊規模の哨戒部隊3部隊と、それらに付随する歩哨6チームの排除。
これらには、一切悟られずに何もさせずに排除という、確実なサイレントキルが要されている。
それを踏まえて、銃器を使用する際はサプレッサー付きのものが当然推奨される。
余談だが、銃器の消音装置を「サイレンサー」「マフラー」「サプレッサー」などの呼び名があるが、果たしてどれが正しい呼び名なのか?
歴史的起源と法的な呼び名は「サイレンサー」もしくは「マフラー」である。
1903年、この消音装置はアメリカの「ハイラム.パーシー.マキシム氏」によって発明されたもの。その申請資料では「マキシム.サイレンサー」とされており、これが単語の起源となっている。
だが、1980年代その名称に異を唱える者が現れた。
サイレンサーの動詞であるサイレンスの意味は「静けさ」「音がしないこと」であるが、実際には完全に音を消すことはできず、結構な発砲音が生じる。
つまりは、消音するのではなく「音を抑制する」という意味の「サプレス」から「サプレッサー」が正しいと言うのが、サプレッサー派側の主張である。
よって、技術的な意味合いでは「サプレッサー」が正しく、軍関係、銃愛好家の間では「サプレッサー」の呼び名が使用されているのが今の現状だ。
閑話休題。
この作戦フェイズ2の流れは、巡回している敵歩哨組をリーコン隊各チームが排除。レンジャー夜襲専門チームは、敵の各哨戒部隊の排除に当たるのが主な内容である。
この際、リーコン隊は歩哨組をキル後、即座に敵哨戒部隊の許へと向かい、レンジャーチームの狙撃支援に当たる流れである。これには綿密かつ緊密な連携が要求される。
フェイズ1の移動中の車内では、壮大な無駄話を繰り広げていた彼らも、フェイズ2の移動中には短時間であるものの、真面目に打ち合わせを行っていた。
セクター1荒涼地域、敵哨戒隊「
「ウルフ1」はチーム2名ずつに分かれ、
狙うのは「Obj1」付随の歩哨2組。現在、ラーナーと部下の一人がスコープで捉えてるのは、その一組の4名。
その歩哨組は、車道を臨む小高い丘の小道をハンドライトで照らしながら、呑気に談笑しながらのゆるゆる巡回。
その距離は凡そ150m。彼らには容易い必中の距離ではあるが1人2名ずつ。素早い連続での狙撃となる為、難易度は多少上がる。
使用しているのは、セミオート式スナイパーライフル 海兵隊モデル。
『Mk11Mod2』
「こっちは準備オーケイだ大尉」
「了解、タイミング合わせろよ。3、2、1」
タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!
「クリア」
サプレッサーにより減音された、鈍く乾いた発砲音が、ほぼ同時で4回響き、敵歩哨の4名は、何も気づくことなく倒れる。
「
『1-2より1-1へ。こっちもクリアね。鼻ほじりながらでもイケたよ』ガッ
もう一方の敵歩哨組を担当したのは、黒ブロッコリーら2名。こちらも問題なく片付いた。
「……そうか。では、速やかにオブジェ1へと移動。コヨーテ2の支援に回れ 。
ブレイクオーバー」ガッ
『はいよー。1-2アウト』ガッ
続けて、ラーナーは通信チャンネルを変え、標的の偵察を行っているレンジャー隊コールサイン「コヨーテ2」チームへと通信を始める。
「ウルフ1-1よりコヨーテ2へ、こちらは全てクリア。これからオブジェ1予定ポイントへ移動を始める オーバー」ガッ
『コヨーテ2-1だ。了解ウルフ1-1。現在オブジェ1を確認。あいつらくっちゃべってるだけで、仕事をサボってるようだぜオーバー』ガッ
「ハハ、呑気でいいことだ。こっちの仕事がやりやすくなるだけだ。では、こちらもオブジェ1を確認次第 連絡する オーバー」ガッ
『了解。暇でしょうがないから早く来てくれよ ラジャーアウト』ガッ
セクター2。こちらも山間いの遮蔽するものが少ない荒涼地域。
第二リーコンチーム コールサイン「ウルフ2」を率いるのは、ヒスパニック系のバルセロ中尉。
ここの敵哨戒隊「Оbj2」の排除に当たる急襲部隊のレンジャーチームは、コールサイン「コヨーテ3」。
すでに、オブジェ2付随の歩哨組の排除はクリア。ウルフ2チームは、コヨーテ3チームの狙撃支援に当たっている。
遮蔽するものが少ないと言っても、所々に身を隠せる岩や、雑草などが生えている。しかも、夜襲には打ってつけの月の無い曇天の闇夜。
それらを利用して「Obj2」12名の許へ、腰を落としながら距離を縮めるコヨーテ3の4名。
コヨーテチームが使用しているのは、FNハースタル社製『
この銃は、アメリカ特殊作戦軍向けに開発されたアサルトライフル。コンパクトで扱いやすく、多くのパーツと互換性を持たせて汎用性に優れているなど、実際に使用した特殊部隊の間でも高い評価を得ている。
敵はいずれも、武装ピックアップトラック、RV車2台の合計3台の車両そばで、大分気の抜けた様子で談笑を交え寛いでいる。
注意すべきは、急襲側がもたついて、この車両をバリケード代わりにされることだ。
その場合すぐ様、敵は各所へと連絡し、作戦状況は大きく変わり果てるだろう。これは作戦失敗に近い由々しき状況である。
それを踏まえてウルフ2チームは、その車両の周りをどこからでも狙撃できるよう分散し展開している。
攻撃の合図は、ウルフ2の4名同時による狙撃からだ。
狙うのは、コヨーテ3の位置から最も離れた場所に位置する各敵4名。
狙う標的は各自決まり、スコープにて照準を各敵の頭部に合わせる。
「ウルフ2-1より、各自OR(作戦可能体勢)オーケイか?オーバー」ガッ
『2-2オーケイ』ガッ
『2-3いつでもいいぜ』ガッ
『2-4問題無い』ガッ
『コヨーテ3-1。こっちもORオーケイ。タイミングはそっちに任せる』ガッ
コヨーテ3チーム側もすでに各自最初の標的が決まっている。全員が自らのターゲットを見定める。
「カウントスリー。3、2、1」
タン!タン!タン!タン!
タタタ!タタタ!タタタ!タタタ!
一瞬である。
ウルフ2チームの狙撃で敵4名が倒れた。サプレッサー付きとは言えその鈍い発砲音に気づくも、続いてコヨーテ3チームが瞬時に他の4名を排除。
残りはたった4名。造作も無い数だ。
タタタ!タタタ!タタタ!タタタ!
コヨーテチームは、無駄の無い機敏な動きで間髪入れず、呆気に取られている残りの4名を、何もさせずにあっさりと排除に成功する。
「クリア。状況終了。みんなお疲れさん」
因みに、第75レンジャー連隊のモットーは「レンジャーが道を拓く」。
リーコンチームの支援があったもの、そのモットーを体現し道を切り拓いていくレンジャーチームであった。
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