第34話 壮大な無駄話
「君にはなんとなくだが、日本人…‶縄文系人種の強い血‶の流れを感じるな」
「ジョ…ジョウモン?…なんだそれ?」
日本人の血が流れているものの、日本の歴史関連に疎いトールにとっては、それは初めて耳にする言葉。
「フッ、ええっとだな。日本人の起源は、主に「縄文人」と「弥生人」に分けられており、古代日本が大陸と陸続きだった時代、最初に日本列島に渡り文化を築いたのが「縄文人」。後に渡来し文化を築いたのが「弥生人」と言われている」
「へぇー、それが日本人のルーツか…で、なんで俺にそのジョウモンの血を感じると?」
「まぁ、縄文系の顔の特徴も僅かにあるが、特に昼間の‶格闘試合〟と今話した感じでの印象だけどな」
「ふむふむ」
「うんうん…それで?」
周囲の精鋭たちも身を乗り出し、好奇心に満ちた反応。もしや、トールの常軌を逸した、力のルーツを知ることができるのではと、興味津々の様子だ。
目標地点到着まで、時間はまだたっぷりある。暇を持て余していた兵士らにとっては好都合のネタ話であろう。
「……で、まぁ弥生人の祖先の方だが、主に農耕を営む民族。こうした生活形態から秩序立った集団行動を好み、尚且つ計画的で慎重なんだ」
「なるほど、それは如何にも日本人っぽいな。彼らは慎重で、秩序を重んじる国民性だからな」
「対して、縄文人の祖先は狩猟を基本とした少数精鋭。人間関係も対等を好む傾向の性分なんだ」
「確かに、クレインはそんな感じの印象だな、まぁ俺たちも似たようなもんだけどな」
「狩猟は基本的に、その時に必要な分だけ手に入れればいいだろう?そのせいもあるのか、縄文人は場当たりな行動的。小さなことは気にしない、大らかな性格が多いんだ」
「ハハ!それ、まるっきりトールの性格そのものだね!結構適当なところあるからね!トールはアハハ!」
「うるせーよ、黙れダドリー!お前、元はマサイ族だろ!?もろに狩猟&戦闘民族じゃねーか!いい加減だし人の事言えねーからな…ってか聞けよ!鼻ほじってんじゃねーよ!」
「けど、イナバ。そのジョウモン人?の性格だが、俺たち欧米でも特に珍しくも無い、よくある性格じゃないのか?」
「確かにラーナーの言うとおりだ。古代で狩猟を営んでいた民族は、腐るほどいたはずだよな。むしろそっちの方が多いだろ?クレインのクレイジーなパワーとは関係ないと思うんだがな」
「だよね、それだとワタシたちの中にも、トールのようなヘンテコな力持った奴がめったクソにいてもおかしくないからね」
「あんだよヘンテコって?つうか、何シレっと人の服に折り返しで鼻クソ擦り付けてんだよ、この黒ブロッコリーは」
縄文人の性格は日本に限らず、海外で見られる極々ありふれた人当たりのいい欧米寄りの性格。トールの異常な力との関連性は全く見られない。
「まぁ、慌てるな。今まで話したことは、あくまで性格だけの話だ。本題はここからだ。これはクレインに聞きたかったことにも繋がることなんだ」
「ほうほう、続きの話があるってことだな。実に興味深いな」
イナバは苦笑を零し結論を急ぐなと、両掌の手振りで生徒、もとい、精鋭たちに落ち着くよう促し話を続ける。
「まず、そのルーツに謎が多い縄文人は、どのように生まれたかなんだが、元々は、アフリカからアジア東部に到達したホモサピエンスの中でも最古級の系統に属する種族のようなんだ」
「ああ、人類発祥はアフリカからって聞くからね」
「これまで発見された人骨からの類似性から、縄文人の祖先は「港川人」とされていたんだが、X線CTとデジタル解析の結果、誤って復元されていたようなんだ」
「その「ミナトガワ人」の事は分からんが、別もんなら放っておこう」
「意外なのは、オーストラリア南東部で見つかった「キーロ人」と呼ばれる人骨が、ミトコンドリアやDNAの解析で最も縄文人に近く、様々な地域にルーツを持つ多様な集団なのが明らかになったんだ」
「ずいぶん日本と離れているな…まぁなるほど、それで俺たち欧米人にも通じるものがあるわけなのか」
技術の発展と共に、推論の域であったものが現代では、次々と明らかになってきているが、今だ解明されていないものも多々あるのも事実である。
「そして、その遺伝学の研究で、縄文人の核DNA解析の結果、縄文人は独自に進化したアジアの‶特異集団〟であったことが分かったんだ」
「特異集団?」
日本人の起源の一つの縄文人は、極めて古い時代に他アジア人集団から別れ、独自の進化発展した特異な集団であったのは、国立遺伝学研究所にてのDNA解析によって解明されたことだ。
現在では、純粋な縄文人の血筋の日本人は存在せず、遺伝情報の約12%を縄文人から受け継いでいることが明らかになっている。
「それで、これはどの文献にも記されてないことなんだが、彼ら狩猟民族の縄文人は、なぜ日本列島に渡ったというか、元を辿れば危険を冒してまで、なぜ新天地を求める必要があったのか?」
「うーん、まぁ普通に考えれば、元生活していた場所で、食料が確保できなくなったからだろうな。あとはフロンティアスピリッツ的なやつとか?冒険野郎魂?」
「寒冷化の影響とか考えられるからね。後は、部族間で何かいざこざがあって、それで追われるはめになったとか?」
「まぁ、現代の観点から見れば、そんなところが妥当だろうな。では、彼らは‶何を‶狩猟して捕食していたのだろう?」
「そりゃ、猪やら鹿やら小動物に昆虫、山菜、魚介類、いくらでも考えられるだろうな」
「……そういえば、太古の人類は【マンモス】とかの‶大型獣‶も狩猟していたんじゃなかったか?」
「そう!
「は?」
「どういうことだ?」
「新天地を求めるのと、マンモスを狩猟していたことが、なんの関係があるんだ?」
トールたちは、なんとも、的を得ないイナバの問いかけの答えに、さっぱり分からんと、疑問露わの表情で再び問い直す。
「ハハ、マンモスもだが、それより他の‶危険な大型の獣‶だ。代表的な種で言えば【サーベルタイガー】とかな」
「それらを追って、捕食の為に日本に辿り着いたと?」
「いや、捕食の為とは限らない。危険の排除の為に狩猟していたとも考えられるが、もしかしたら、それ以上に‶何かヤバイもの”に、住んでいた地を追われたかもしれない」
「まぁ、現代でも、人に危害を与えるような危険動物が出没したら、速攻で討伐隊が組まれ狩られるからな」
「それで、ネパールの方だったかな?ベンガルトラ一頭に、国軍まで出動したらしいからな」
「それ【チャンパーワットの人食い虎】だろ?あれはヤバイな、ギネスに認定されてるだろ?」
【チャンパーワットの人食い虎】は、19世紀末から20世紀初め、インドとネパールで確認されているだけで、436人を殺害したと言われる一頭のベンガルトラである。
この犠牲者の数は、単独の猛獣による獣害事件として、ギネス記録にも認定されており、ネパール国軍が投入されるも仕留めることはできず、1907年イギリス人のハンターによって射殺された。
「トラもだけど、というか、そのサーベルタイガーより‶ヤバイもの‶って何なのね?」
「それが何かは分からないが、あの時代の獣は、非常に大型なもの多く生息してらしいからな。特に獣種は環境に適応できれば、寒冷地の方が大型化しやすい傾向にある」
「確かに、ホッキョクグマやグリズリーとかの熊種は大きいし、寒冷地に生息しているしね。あと、ヘラジカとかもそうね、あれも大きいね」
「太古で言えば、日本にも【ナウマンゾウ】や【ヤベオオツノジカ】とかの大型の獣が生息していたようだからな」
やはりどこの国でも、太古の生態系に浪漫を抱く者が多いようで、みな、少年のように一様に目を輝かせて、各々遥か古の地球に思いを馳せているようである。
「他にも生物史にも確認されていないような、未発見の大型猛獣がいたかもしれない、知られている種で例えるならば【アンドリューサルクス】みたいなやつとかな」
「うわ…、確かにあんなのが実際に目の前にいたら、マジでヤバイな」
【アンドリューサルクス】は、約4500万年から3500万年前、ユーラシア大陸東部に生息していた、史上最大の陸生肉食哺乳類とされている。
体長は推定約4m、体重は180から450kgの巨躯と、特徴的なのはその大きな顎であり、例えるなら毛の生えたワニのようなものだ。
「他にも、最近って言っても18世紀ごろだが、フランスに現れた【ジェヴォーダンの獣】のような凶悪な未確認生物の例もあるし、それらが太古の当時は、そこら辺に群れを成していたかもしれないな」
「ジェヴォーダンの獣って、牛サイズのオオカミに似た未確認動物だっけ?
確か当時、100人くらい襲われたとかってやつだろ?」
「そんなの群れでいたらオシッコちびっちゃうよ、怖いね!」
【ジェヴォーダンの獣】は、1764年から1767年にかけ、フランスのジェヴォーダン地方、マルジュリド山地周辺に出現した狼に似た生物である。
その外見は牛ほどの大きさ。全身が赤い毛で覆われており、黒い縞模様にグレイハウンドのような頭部に、巨大な犬歯が生えていた。
獣は家畜などは襲わず、人のみを標的として、その犠牲者は60から100人とされており、その獣が何であったかは現在でも議論されている。
「脅威はそれだけじゃない。【ギガントピテクス】のような大型霊長類や、それより恐るべきなのは〝巨人〟の存在だ」
「は? 進撃のか?」
「……いや、待て!巨人って2002年、ここ、アフガンでのやつか!?」
「何それ、どういうことよ、ラーナー大尉?」
「まぁ、俺も新兵のころに聞いた話だ。どうせ与太話だと思って、鵜吞みにせずに聞いていたんだが、その話は、合衆国軍がアフガン侵攻を始めた翌年、砂漠地帯のカルダハールで、偵察部隊が小高い山の麓に、大きな開口部の洞窟を発見したんだ」
「うんうん」
「その洞窟の付近には、動物の骨が散乱していてな、それでその部隊は、肉食動物か敵兵が潜んでいるのではと、洞窟に近づいたら…‶それ〟が現れたんだ…」
精鋭たちは、更に身を乗り出しラーナーの話に耳を傾ける。
「そのサイズは、12から15フィート(3.6から4.5m)肩にかかる長い赤髪の巨人の怪物だったそうだ。槍を持ったな……」
「マジか…まさに怪物だな……」
「おちんちんのサイズはどうだったのよ?」
「やかましい ダドリー!黙ってろ!」
「その余りにも非現実的な光景に呆然として、全員動け無かったが一人が発砲。
そこから、全員で撃ちまくったらしい」
ラーナーが語るこの信じがたい逸話に、一同の背に戦慄が走り出す。
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