第23話 作戦ブリーフィング


「厄介そうだな……」


「尚、この拠点には、奴らの資金源の一つでもある大量のコカインが運び込まれているとの情報だ。最低でも、末端価格1億ドル以上相当の量が推測されている」


「ピュゥー! ヤバいなそりゃ、そんだけありゃ……」


「おい、良からぬことは考えるなよ! 見つけたら即刻ケツの穴にぶち込んで、そのまま土に埋めてやるからな!やるなら、バレずにやれ!」


「「「イエッサー! ハハハハハハ!!」」」

 

 緊張を和らげる為であろう、こう言うノリは如何にも自由の国アメリカらしい。


「まぁ、冗談は兎も角、我々の標的はこの拠点とそれに潜伏する武装勢力、並びに奴らの資金源を一片も残らず、徹底的に容赦なく燼滅じんめつすることである!! いいな!!」


「「「イエッサー!!!」」」

 

 ここに集まっているのは、いずれも歴戦の精鋭。すでに臨戦態勢と言わんばかりに、その眼に強い決意と覚悟の光を灯す。


「尚、万全を期する作戦の為、こちらも前線の部隊は約300名の大隊規模。戦力で言えば、群規模以上の布陣で挑むことになる! そして、この作戦の陣頭指揮を執ってもらうのは、前線司令としてコンロン中佐に委任する! よろしいな!」


「イエッサー! 任せて下さい!」

 

 本作戦を指揮するのは、40代半ばで短髪ダークブラウンヘア。例え、私服姿であったとしても、いかにも職業軍人に見えるであろう、いかつい風貌のコンロン中佐に任命された。

 

 大隊の規模は現代において、人員数で言えば概ね500から600名ほどになるが、兵科、装備や作戦によっては大きく増減する。

 それと、全員でまとめて急襲と言うわけでなく、前線で確保した陣地防衛や哨戒、各戦術通信、負傷者の救護など他支援にと、大規模作戦では攻撃部隊以外にも多くの人員が動員される。



「それで、作戦概要であるが、作戦開始時刻は本日2100時とし、各隊、順次戦闘車両にて基地を出発。サリチェ道を通り、目指すのは敵拠点から20kmほど北に当たるこの地だ。到着予定時刻は0000から0100時の間だ。まずはここを中継地点とする」


 基地から北に進み、そこから北東部に向けて多少歪ながらも、ほぼ直線の幹線道路が通っている。

 幹線道路と言っても、山間いを通る未舗装路。最初の目的地点は、その通りを100kmほど進んだ所にある廃村。


「この道中では、極力戦闘は避けたいのもあるが、何よりこの大目立ちの大行列を敵に悟られたくは無い! よって、別働の作戦部隊がすでに出払っており、これらの対処に動いてもらっている!」


 本格的な作戦の開始まで、まずは安全路の確保である。目的はあくまで敵の拠点であり、それまでの余計な時間と兵力の消費は極力避けたいところだ。


「そこから先は、敵にこちらの動向を気取られないことにあるが、その為に最初に狙う標的は、道中展開している歩哨と哨戒部隊だ! こいつらの各配備位置、巡回ルートは、綿密な調査によってすでに把握済み。 この任務の担当チームには、後ほど地図情報を渡しておく」

 

 戦闘においての基本は、攻撃対象である敵に自分らの動きを悟られないことが重要な第一ルールだ。

 過去の戦のような大軍同士向かい合って「さあ、やったりましょう!バチ来ーい!!」など、先進諸国の現代戦ではありえない。


 勿論、当時の技術体系や武器、兵器類の特性もあるのだが、近代においては情報伝達や兵器のハイテク化もあり、人命&人権が強く尊重される。例え兵士であってもその命が尊ばれ、如何に犠牲を出さずに勝利するかが、現代の戦闘の在り方である。


 その人命、人権尊重の面、その他にも色々と怪しいお国が日本の近隣国にも存在するようだが、それはまた別の問題だ。


「その作戦時刻は、最も敵の動きが消極的な、深夜から早朝の合間の時間帯。

0200から0300とする。 この時間帯の標的の展開範囲は、このセクター1からセクター2に絞られる。 分隊規模の10人前後の哨戒部隊が3部隊。その各分隊に付随する1組4マンセルの歩哨6組が、1時間交代で各ルートを巡回」

 

 スライド映像は切り替わり、敵拠点周辺を中心に半径10kmほどの範囲、山あいを通る道や地形に沿った形で、4分割にエリア分けされている。


「この作戦フェイズ2の任に当たってもらうのは、リーコン隊とレンジャー隊。

銃器は全てサプレッサーを使用。決して悟られずに、一切何もさせずに速やかに確実に全員排除しろ! 尚、セクター3と4にも敵部隊は配備されているが、こちらは進入コースから離れており、数も少数だ。場合にもよるが無視して構わない!」


 トオルたちが最初に命じられたのは、作戦の指標を担う重要任務であり、失敗は許されない。闇に紛れての確実なサイレントキルが要求される。

 第75レンジャー連隊からは、対ゲリラの夜間急襲専門のチームが参加している。

 

「続いての作戦フェイズ3だが、哨戒部隊を排除後はフォースリーコン隊は、そのまま最終目的地点を目指し、敵拠点の偵察。レンジャー隊はデルタフォースと合流。次に狙うのは、ここLZポイントアルファだ」


 指し示されたのは、敵拠点から北2kmに位置する一角、幾つかの建物付近。


「ここは、敵の前哨拠点となっており、約30人前後の小隊規模の敵勢力が配置されている。デルタとレンジャーには、ここを速やかに叩いて確保してもらう! 勿論悟られずに音も立てずにだ! できるな?」

 

「余裕だろ。こちらのメンツも揃っていることだしな」

「問題無い。その為に必要な訓練も実戦経験も積んでいる。30人程度では、むしろ足りないくらいだ」


「通り掛けに、軽くランチタイムを楽しむ程度の話さ。うちの女房の方が遥かに手強いぜ! まぁ、それも娘にはかなわないけどな」

「ハハ、そりゃあ、うちでも同じだよ! かなうわけがないだろ!」

「だな!」


「「「ハハハハハハ!!」」」

 

「よろしい、 では安心して任せるとしよう! だが、過剰な慢心は命取りだ。

決して油断はするなよ!」


 武装した約30人を、音も立てずに排除しろと言うのだ、普通ならばかなりの無茶振りだが、そこは精鋭中の精鋭のコマンドー部隊。いずれも頷き軽口を入れつつ、事も無げにあっさりと承諾する。


 アメリカ陸軍「第一特殊部隊デルタ作戦分遣隊」通称「デルタフォース」は、大体が元「第75レンジャー連隊」か「グリーンベレー(陸軍特殊部隊群)」から構成されている。レンジャー隊の海外での作戦任務では、このデルタなどの特殊任務部隊の支援を行うことがたまにある。


 尚、デルタフォースは、他特殊部隊と比べて自由度が高く、頭髪、服装は任務の性質によっては軍服を着るとは限らないので、いずれも私服姿。一見PCM(民間軍事会社)の警備要員にも見える。


「このLZポイント アルファを制圧確保後は、レイダーと海兵隊各隊はここに集結し、我々の前線司令拠点として活用する。尚、この時点でシールズ、デブグル、グリーベレーを含めた追加の部隊は、各輸送用ヘリにて合流してもらう」


 次々と登場、万全を期した精鋭部隊が勢揃い。ここまで陸軍、海軍、海兵隊の各特殊部隊が連携して行う作戦など、中々見られるものではない。


 まさに最強浪漫陣営。どうやら、この作戦は米軍が保有する、錚々そうそうたるネームドコマンド部隊が、中心となって行われる大規模な特殊作戦。これを超えるものとなると、一国に対しての侵攻や大規模な鎮圧作戦ぐらいであろう。

 

 通常、特殊部隊は少数にて強襲するのが一般的な印象だが、その強襲するのが、幾つも出入り口がある複雑で狭隘の坑道、自然洞窟で構成された自然要塞。敵は大隊規模で不確定要素が高い。

 即ち、未知数の各状況に合わせた臨機応変な対応が必要だ。これには一般海兵隊だけでは荷が重い。非常に厳しい作戦の為、高度な戦術能力が多数必要になってくる。


「まぁ、こんだけ揃えりゃ、どうにでも対処できるだろう」と、アヴェンジャーズ的なノリで発足された作戦のようだ。

 日本のちびっ子風に例えれば、戦隊ヒーロー大集結的なもの。

 

「そして、作戦最終フェイズ4だが、各コマンド部隊は戦闘車両にて、敵拠点500m手前まで移動。各自暗視装置使用にて、リーコン隊の偵察情報を基に問題が無ければ、そこから徒歩にて各進入ポイントへと移動」


 スライドは切り替わり、敵拠点周辺が映し出された。複数の出入り口が見られ、各ポイントに印が付けられている。


「道は広いがこの辺りは森林地帯でもあり、見通しが悪く、こちらとしては好都合!侵入ポイントはこの中心のものが最も広く、ここが玄関口的なものになっている。他の小さいのも含めて合計6か所。いずれも内部で繋がっていると思われる! 各隊の進入ポイントの振り分けだが、後ほど地図情報と共に、書類にて確認してもらうので、しっかりと把握しておくように!」


 各進入ポイントは、中心から遠くても約200mの範囲に散らばっており、不測の事態が起きても、即座に応援が可能な距離のようだ。


「内部は狭隘きょうあいの為、急襲は各隊4マンセル単位。30秒置きに分けて随時突入。リーコン隊はこの際に進入口周辺、特に高所にいる哨兵など、狙撃支援にて露払いを頼む! その後は、君たちにも弾薬等補充後に急襲部隊へと参加してもらう」


 トオル達リーコン隊は、中々に忙しい役回りが要求されているが、トオルに至っては「オラ、わーくわくしてきたぞぉぉ!」と、某戦闘民族ばりに高揚感を抱いていた。


「CSTを含めた他の海兵隊は、戦闘が始まり次第、前線司令拠点の防衛と攻撃部隊とその支援に分かれ、攻撃部隊は、このLZポイントベータに戦闘車両やヘリにて集結。状況に合わせて各進入ポイントへ随時投入。もしくは、他からの敵応援に備えて臨戦態勢で待機」


 ここに集められた錚々たる精鋭たちの中に、僅かながらも女性兵士の姿も見られた。

 CST(文化支援部隊)とは、女性だけで構成されるレンジャーに付帯する特殊部隊。辺境の地域では宗教上、男性兵が接触できない女性を隠れ蓑にして逃亡する男性ゲリラが続発し、それに対応する為に発足された特殊部隊である。

 今作戦においても、そういった類の面倒くさい宗教事情が発生した場合に備えて、支援で参加している。

 

 以前であれば、例え訓練課程を修了しても、女性が特殊部隊に加入はおろか、戦闘に参加すら認められなかった。現在では、あのタフな訓練課程を修了できれば、女性でも加入が認められ、地上戦などの直接戦闘にも参加が可能になっている。

 他国でも女性だけの特殊部隊が複数活躍しているようであるが、その中には、ISが恐れるほどの、女性特殊部隊が存在するという。 

 

 この戦闘は多くの敵味方が入り乱れる複雑な洞窟。ファンタジー風に言えば、まさにダンジョン内でのレイドバトル。内部構造も視界も不明瞭で何かと未知数の多い戦闘となる。

 当然懸念されるのは同士討ちの可能性だが、その危険を防ぐために各員、戦闘服に赤外線チップなどが施されており、それによって味方の認識が可能となっている。


「尚、戦闘開始後は、現地で得た情報を基に各自の判断に任せるが、くれぐれもフレンドリーファイアには十分に注意してくれ。 そして、不測の事態に備えて、常時MQ-9無人攻撃機リーパーを即座にスクランブル可能な状態にしておくので、必要があれば迷わず要請してくれ!」


 この場合の不測の事態とは、他からの大規模な敵応援部隊である。敵武装勢力は複雑で複数の勢力によって構成されている為、他多数の拠点から応援に駆け付けられる可能性が非常に高い。


「以上が、主な作戦概要である!」


 これだけのメンツを揃えるだけあって、かなり大規模な強襲作戦である。

 精鋭たちは静かながらも、相貌に獰猛な光を灯し、その内に劫火の如き戦意を滾らせるのであった。

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