第2章 激動のアフガン編

第22話 アフガニスタン



 アフガニスタン.イスラム首長国。


 アフガニスタンは、中央アジアと南アジアが交差する、山岳地帯に位置する内陸国。

 東と南にパキスタン、西にイラン、北にトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、北東はワハン回廊で中国との国境に接している多民族国家だ。

 

 2021年まで、正式国名はアフガニスタン.イスラム共和国であったが、この国号を使用する政府は、同年8月15日にタリバンの攻勢により事実上崩壊した。

 そして、同年8月19日にタリバンのスポークスマンによって、「アフガニスタン.イスラム首長国」が成立することを宣言している。


 ここに至るまでは、余りにも多くの悲劇に見舞われており、アフガニスタンは、近年において、最も波乱と戦乱に満ちた国であると言っても過言ではない。


 そもそもの原因とも言える、この長きに渡る混乱を招き巻き起こしたのは、超やらかした大国「旧ソビエト連邦」。クッソやらかした国だ。


 時は遡ること1948年から続いた冷戦時代、1979年に旧ソ連がアフガニスタン侵攻を始めたのが事の発端である。

 目的は当時対立していたアメリカや西欧諸国に対して、当時の旧ソ連指導者たちが、位置的にそれらの国々に楔を打つべく、最重要地点と判断したアフガニスタンを衛星国にする為であった。


 当時のソ連の指導者は「世界革命を推進することが我らのモラル」と、何やらおかしな宣言を宣っている。

 

 すでに当時のアフガン政府はソ連に掌握されており、そして、ソ連侵攻に対抗したアフガン勢力との戦闘が首都カブール市内で始まった。

 反政府勢力の鎮圧の為、お得意の大戦車部隊や武装ヘリが投入され、戦闘は更に激化していった。


 この侵攻により1985年までに、約6年間で延べ100万人のアフガン人が殺害され、約150万人が負傷、100万人がイランへ、200万人がパキスタンへと亡命している。

 当時の人口、約1300万人の内、3分の一が死亡か、負傷及び亡命を余儀無くされていたのだ。


 後に国の名が変わり、この数十年後に全く似たような事をやらかしているようだが、それはこの世界とは別の地球での、非常にけしからんお話である。


 そして、旧ソ連の侵攻から国を救おうと立ち上がったのは、イスラム教徒である「ムジャー.ヒディーン」であった。

 ムジャーヒディーンは、亡国を救うべく「聖戦ジハード」を宣言した。

「ジハードは教徒の義務である!」と世界中のムスリム(イスラム教徒)に闘おうと呼びかけたのだ。

 

 ジハードとは、本格的に迫害独裁、権威主義やイスラム領土を侵害する、非ムスリムへの抵抗のことだ。

 ソ連が存在することは「自由と独立への脅威だ」と人々は思った。世界の国々、イランやパキスタン、欧米西欧諸国もそれを非常に脅威だと感じていた。


 そして1988年、聖戦ジハードの御旗のもとに、多様な国々から続々とアラブ人青年らが戦闘に参加し始めた。その中に少人数の若いアラブ人のグループが加わった。前哨部隊が一つか二つの小規模のグループだ。


 彼らは「アルカイダ」と名乗った。


 それから、アメリカらの物資援助等もあり、反政府勢力の激しい抵抗によって、急激に大きくソ連は苦戦を強いられることになる。

 当時の反政府勢力の所持する武器はエンフィールド銃など、旧式なものばかりであったがアメリカから得られたのは、戦闘訓練に銃器類だけでなく無反動砲やスティンガー対空ミサイルランチャーなど非常に強力なものであった。

 

 1989年、結局ソ連は、散々アフガンを搔き回すだけ搔き回した後に、撤退するはめになった。成果を得るどころかむしろ大損害である。

 尚、この戦いで約1万5千人のソ連兵、アフガン反政府軍、市民らが死亡した。


 そして、色々なやらかしの報いを受けるべくが如く、その当時のソ連国内ではペレストロイカやら何んやかんやで、1991年、当時の連邦共産党の解散を受け、全ての連邦構成共和国の主権国家の独立。

 並びに、当時の大統領「ミハイル.ゴルバチョフ」の辞任に伴い連邦の解体。

 とどのつまりは、事実上ソビエト連邦の崩壊。


 ソ連撤退後と共にアメリカも介入するだけしておいて、後処理も適当に早々に手を引いたのだ。

 冷戦期のガッツリ思考で、ソ連が絡まなきゃ後はどうでもいい、と言わんばかりの撤収だ。ここはアメリカの大変な超やらかしである。

 結果、アフガニスタンは乱れに乱れて有利な地位を求め、幾つもの勢力がバチバチにやり合い争い始めた。

 

 その渦中に新しい勢力が生まれていた。多くの勢力が対立する中、そのグループは非常に強かった。


 その勢力は「タリバン」と呼ばれた。


 タリバンは、アフガニスタンに平和を齎す勢力として台頭し、加えて非常に残酷かつ屈強であった。

 そうして幾多の勢力を押し退け、タリバン政権が誕生したのだ。


 その最中さなかに1990年、イラクによるクウェート侵攻事件だ。後にこの侵攻は「湾岸戦争」に発展した。

 イスラム教指導者の一人「ムジャー.ヒディーン」への支援と、イラクのクウェート侵攻にアメリカが介入したことにより、アルカイダ指導者「ウサマ.ビン.ラディン」はこう考えた。

 

「アメリカは石油とムスリムの富を盗むつもりだ」と。


 アルカイダは、アメリカはムスリムの富を奪い、聖地を汚す神の敵であると認識と位置付けをし、徹底抗戦の構えを決意するのであった。


 そうして年数を掛け、慎重かつ綿密な計画を基に、後の「9.11アメリカ同時多発テロ事件」に繋がる運びとなったのだ。

 

 そして、多くのテロ組織を庇護し、その温床となっているアフガニスタンへと侵攻が始まり、約20年に及ぶ長きに渡る戦争が続いた。

 その飛び火はIS国の誕生などシリア周辺も含め、中東地域全般の情勢から世界情勢にも大きく影響を与えることになった。

 

 元々は、その教えを基に霊験あらたかな、あつい信仰心を持つ温厚従順な教徒たちであったはずだが、その眠れる竜の逆鱗を引きちぎって、ぐるぐる巻きにして、どこかあさっての方向に放り投げてしまったのである。

 

 果たして、パンドラの箱を開け散らかした旧ソ連のやらかしは、いったい、どれだけの被害と犠牲を生み出したのであろうか……。


 まぁアメリカもガッツリとやらかし、開け散らかされたパンドラの箱と、ぐるぐる巻きにされた竜の逆鱗を「なんやこれ?」と弄繰り回して、このような次第となっているのだが……。



 そんな、波乱に満ちた地へともう何度目か、武装偵察部隊フォースリーコンの一員としてトオルは、とある作戦の為に派兵されてきたのだ。


 

 201X年 10月某日 バグラム空軍基地。


 バグラム空軍基地は、アフガニスタン東部のパルヴァーン州、首都カブールから20kmほど北に位置するバグラムにある、アフガニスタンにおける最大規模のアメリカ軍基地となっている。


 ソ連撤退後、この基地は北部同盟とタリバンとで奪い合っていたが、アメリカ同時多発テロ事件後からアフガニスタン侵攻において、イギリス海兵隊特殊部隊SBSによって確保された。

 尚、後の2021年7月には、アメリカ軍はこの基地から完全撤退しており、以後は新タリバン政府の管轄下に収められている。


 その基地司令施設内の一室のブリーフィングルームに、各隊の指揮官や下士官などが集められていた。各自、整然と並べられたアーミーチェアに座り、作戦内容の説明を受けている。

 説明する指揮官、背後の壁に備え付けられたホワイトボードには、スライド映写機によって、アフガニスタン北東部、山岳地帯の地図が投影されている。


「CIAからの情報によると、このバグラム基地から約100kmほど北東、山岳地帯の一角にその規模は300名以上、大隊規模の武装勢力が潜伏していると見られている。尚、この拠点に至る道中にも、小規模の斥候部隊や哨兵が幾つも展開しており、衛星映像でも確認されている」 


 その兵士たちの中には、トオルの姿も見られ肘掛けに頬杖を突きながら、ぼんやりとしつつも、その琥珀色の眼は鋭い光を放ち、作戦説明に耳を傾けていた。

 すでに、20代後半に差し掛かっているのだが、見た目的には20代前半の若さを維持しつつも、その泰然として威風堂々とした姿は、歴戦の圧倒的な風格を醸し出している。


「この辺りは、古くからラピスラズリが産出される鉱山地域であり、採掘用の坑道と自然洞窟からなる、混成洞窟がこの周辺に広がっている。この複雑な地形を利用した自然要塞に、奴らは拠点を構えている!よって、空爆による攻撃は効果が薄いであろうと見られる!」


 ラピスラズリ(和名では瑠璃)は深い青から藍色で、しばしば黄鉄鉱の粒を含み、夜空のような輝きを持つ美しい鉱石である。装飾品やパワーストーンなどに利用されており、アフガニスタンは、その原産地として世界各地に輸出している。


 そして、作戦説明をするのは、いつの間にかバグラム基地に配属されたようで、イラクでも世話になった、ナイスダンディズム「砂漠のホオジロザメ」の二つ名を持つ基地最高司令「アーノルド.ボーマン大佐」。


「この人工と自然の連結洞窟内の地図は、旧ソ連の侵攻時に紛失しており、詳細は不明だが、非常に広大で入り組んでいるとの事だ。更に進入の際に、下手な攻撃をすれば味方諸共、崩落の危険の可能性が高い為、十分な注意が必要である!」


 つまりは、爆発系のグレネード類は使えないと言う事であり、戦術の一手が封印された事になる。

 場には緊張感が漂い、説明を聞いていた各兵士らはいずれも眉を顰め、険しい表情を浮かべ思うのは……。


「厄介そうだな……」


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