第15話 GPAG
「エイメン!!」
ドン!!
祈りの詞の終いと同時に、急激に爆発したかのように大地を蹴りだす。仲間の許を抜け、轟々と降り注ぐ銃弾の暴風雨の中を疾風迅雷、雷光の閃きが如く、トオルは駆け出し疾走する。
敵要塞に向けて、極めて強力な戦術兵器が発射された。
これから、刮目することになるであろう。
後に、アメリカ軍やNATO同盟軍の兵士達の間で、その名が示すように、味方からは「雷神」と讃えられ、敵兵からはアラビア語で「イブリース(悪魔)」と恐れられ莫大な懸賞金が掛けられた、一人の兵士の秘められたその力の片鱗を……。
さあ、いざ征こうか。
「オーマイガッ!マジか!?何んだ、あのあり得ない速さは!?」
明らかに人間の限界を超えた速度に、激しく驚愕する味方兵らを後に置き去り、トオルは標的地点に向けて、スモークグレネードにより立ち込める煙幕の中に消えていく。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!
「(なんか、異常に速い奴が出て来たぞ! 奴は煙の中だ!撃て撃て!撃ちまくって、ハチの巣にしてやれ!!)」
「(バカが!姿は見えなくても、これだけの数の攻撃を躱せるものか!身の程とその愚かさを教えてやれ!!)」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!
「お前ら、クレインを援護しろ!!何としても死なすんじゃないぞ!!」
「ああ、ったく、スモークが晴れたら、燻製死体が転がってるとかのオチは勘弁してくれよ!!」
「あんた、そんな不吉なこと言ってんじゃないわよ!けど、これが明るみになったら、軍法会議ものよ大尉!!」
「そりゃ、俺らが生きて帰れたらの話だろ!あークソ!即応隊はまだかよ!
スモークグレネードの、煙幕に向けて乱射する敵兵に対して、それをさせじと援護射撃をする味方兵。戦火は更なる激しさを増していく。
だが、敵兵らはおろか、味方兵たちも気づいて無かった。
トオルはすでに煙幕の中にはいなかったのだ。
「あんなスモーク、わざわざこの中にいますって、教えてるようなものだろ」
トオルは煙幕に紛れ、素早く左側に建ち並ぶ、まだ壁が残る家屋跡の一つに飛び込んでいたのだ。
瓦礫の障害物があろうが知ったことかと、ここは過去にパルクールで培ったアクロバティック技が光る。
崩れて塀のような壁など側宙で乗り越え、複雑に重なる瓦礫なども、右や左やと重力を無視した動きで鮮やかに越えて行き、一早く裏側の通りに出ていたのだ。
新兵訓練時にも、様々な障害物を越える訓練を受けたが、その際にも、類まれな身体能力を活かした変幻自在のその動きに、教官ら、他の新兵らも眼を皿のように見開きクッソ驚いていたようだ。
そして、目標建物に向けて超速で移動。すでに標的手前、二人の敵伏兵が潜む家屋跡の裏手まで達していた。
そこは、倒壊して屋根は無く、丁度大人一人が隠れる程度の高さの壁を残す家屋跡。
壁の無い部分は、おそらく入口跡であろう、そこから左右に分かれ、その敵兵2人は待ち構えていた。
標的建物の裏手側の方を見ると、武装組織が移動用に使用しているのであろう、何台もの車両が駐車しており、全員出払ってるようで一人も残ってはいない。
「それじゃあ、ちょいとパニクってもらおうか」
ブン!
すかさず、二つ所持していたうちの一つ、М67
ドオオオオオン!!バンバン!!バンバン!!
直後に爆音と共に、他の車両も巻き込んで誘爆し、派手な爆発を起こす。
ワンチャン、敵要塞モドキも巻き込んで欲しかったが、若干距離もあって直撃は免れたようだ。多少破壊はできたものの、結構頑丈なセメント造りなのだろう、被害は微々たるもの。
そして、爆音と同時に家屋跡に素早く入り、こちらに背を向けていた伏兵の一人の後頭部に2発。ベレッタМ9の9mmパラベラム弾をぶち込む。
外の爆音と同時に、突然倒れた仲間に何が起きたかと、呆然としているもう一人の伏兵の頭部に、気づかれる事無く2発のキルショット。
「GPAG……アイハヴァ ガン アイハヴァ アッポー……あー、アイハヴァ ガンナッポー?」
ブン!バン!ドオオオン!!
続けざまに表通り、反対側の家屋跡、こちらにも伏兵が潜んでいた。透かさず、もう一つの「アップル」を投げ込み、丁度伏兵が潜む壁を越えた辺りで、9mm弾を当て起爆させる。
M67
その殺傷範囲には3人潜んでいた。断末魔の叫びを上げる間もなく、周りの壁を吹き飛ばし爆散する。
更に、その数件右側の家屋跡から、味方兵らにグレネードを投擲しようとしている敵兵が目に入った。
この辺りはスモークの影響は少ない。その手に見えるグレネードはマークⅡ手榴弾、通称「パイナップル」。
「アイハヴァ ガン ユーハヴァ パイナッポー……あー、ウイハヴァ ガンパイナッポー?」
バン!! ドオオオオオオオオオン!!
「あー、ガンパイナッポー アッポーガン?……なんのこっちゃ」
こちらは、キルショットを狙う必要は無い。撃たれたパラベラム弾は、敵兵の肩口付近に当たり、ポロリとパイナップルを落とし、その場で爆死する。
尚、この時トオルが、エンドルフィンの副作用なのか、妙なノリで唱えた文言に非常に似た歌詞のミュージック動画が、何年後か先に日本のお笑い芸人により配信され、世界中で
「(なんだ!?どうなっているんだ!?どこからの爆発だ!?)」
「(わからない!!突然、裏に止めてある車が爆発したんだ!!)」
「(表でも、すぐ傍で爆発が起きたぞ!!アメリカのドローンからの空爆か!?)」
「おいおい!なんかあっちこっちで爆発してるけど、どういうことだ!?」
「これって、クレインの仕業なの!?あいつは、スモークの中で一体何をやってるのよ!?」
まるで、雷雲のようなスモークが立ち込めてる中、降り注ぐ雷撃が如く至る所で爆発が起き、敵、味方共に混乱、状況の把握が全くできない状態だ。
この混沌を生みだしているのが、初任務、初の実戦のたった一人の新兵によるものだとは、敵からしてみたら夢にも思わないだろう。
後に語られ【雷神】と称されたのも、この時の戦術が一つの要因にもなっている。
「──めぼしい障害はこれで排除した。残りはこの巣穴のみ」
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