第13話 THE戦場
「クソっ撃ってきやがった!!
応戦しろ!!」
「敵の数はどれぐらいだー!?」
「少なく見ても30、いや40以上よ!!」
攻撃してきた武装勢力に対して、ハンヴィー2台は道路を塞ぐように止める。
その間に、味方兵士らは飛び出し、左右の攻撃に対しては車両ドアを防壁にして応戦する。
敵兵らは、倒壊した家屋の僅かに残った壁裏や、まだ無事な建物の窓部から嵐のような包囲射撃をしてくる。
余談だが、映画等でも見られるアメリカ兵が作戦開始時などに唱える「ロックンロール」とは、ベトナム戦争時に兵たちが銃のセーフティを解除する仕草が、エレキギターを弾く仕草に似ていることが由来となっている。
こちらは、М4と、M249にハンヴィー銃座のМ2重機関銃で応戦。
多少の壁など12.7mm弾の嵐が貫通。壁裏の敵兵を薙ぎ払っていくが、いかんせん敵の数が多い。
敵は旧式の武器とは言え、地の利を利用している。更にその戦力差は少なく見ても3倍以上と、非常に危機的状況に陥っている。
辛うじて幸いなのは、周囲の形が残ってる建物は、高くとも2階建て程度。高所からの攻撃が無いくらいである。
「ああクソ!やっぱ俺を狙ってくるよなー!!あぶなっ!!」
一応、М2銃座は防弾プレートに囲われているが、チュンチュン、カンカンとめっさ狙われている為、銃座兵士は生きた心地がしない。
「RPGと敵の
「ったく、そんなにがっつき過ぎるとモテないわよ!ほら、グレネードあげるわ!!」
「ファック!クソがぁ!!喰らっちまったぁあ!!」
「あああ、クソっ!ヤッベ!!こっちも足に喰らった!!」
「大尉!!ジョブスとエンリケが被弾しちまった!!」
「おい、バックス!!ジョブスとエンリケを診てやってくれ!!」
地の利も有り敵側が有利、こちらはかなり不利な状況だ。
それに加え、味方にも負傷者が出て衛生兵も応急処置で大忙しだ。
被弾した2名の負傷者の状態は、一人は右肩に近い胸上部。もう一人は左足大腿部への貫通射創が見られ出血も多い。
こちらは袋のネズミ、もしRPGやグレネードを放り込まれたら一巻の終わり。全員纏めて木端微塵である。
その手の敵の動きと距離には、特に注意しなければならない。
味方側も必死に撃ちまくり、グレネードなども使用。複数の敵兵を爆散させるなど多少数は減っているも、まだまだ盛り沢山。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!
ヒュン!!ヒュウン!!チュン!!カン!カン!カン!!
バババババババババババババババババババッバッババ!!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
ドオン!!!ドオオン!!!ドオオオン!!!!!
「メーデー、メーデー、メーデー!!フォックストロッド1よりHQ!現在、敵の奇襲を受け交戦中!かなり数が多い!!至急即応部隊の応援要請を求む!!」
「ひい!!あっぶっ!!女の顔を狙うなんて最低ね!!!!」
「これ、即応来るまで持つのか!?けっこうヤバそうだぞ!!」
「クソがぁ!次から次へと、ゾンビ映画じゃねぇんだぞ!!」
「ヤベえっ!! グレネードだ!!伏せろー!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
「うわ!!ギリセーフ、ハンヴィー手前だ!!つうか、こっちのハンヴィー、もうアウトだろ!こいつに乗って撤退はもう無理だ!!」
トオルにとって初の戦場での実戦となるが、想像していたより遥かに激しい戦闘。ギャング達とのいざこざとは次元が違う。剛毛強心臓のトオルでも、流石に命の危険を感じていた。
「あー、これってよくある状況なんですかー!?」
「アホか、クレイン!こんなの頻繁にあったらとっくに死んでるよ!!
だぁっクソ 熱っ!腕掠りやがった!!」
戦場の状況は流動的。緩い小競り合いから、死戦と呼ばれる苛烈な激戦までその時々で大きく変わって来る。
そんな状況を多く語れるのは、それらの全てを潜り抜けてきた一部の精鋭のみ。
故にトオルの問いは愚問であり無知とも言えるが、そんな事柄をその身に知る由もない初陣の新兵に、それを問い詰めるのは酷であろう。
「おい、テッド!テッド!!しっかしろ!!クソ!頭撃たれちまってる!!だめだ大尉!!テッドがやられちまった!!」
「なんだと!? あと二日で任期が終わりだと言うのに!なんて運が無い奴なんだ!」
「クソ!!大馬鹿野郎が、しっかりフラグ回収されてんじゃねーよ!!」
「(我々には、神の加護がある!!アメリカ人どもを、一人も逃がすな!!根絶やしにしろ!!)」
「(我らが聖地を汚す、異教徒どもに聖なる鉄槌を下すんだ!!)」
「(こちらの方が有利だ!!このまま、奴らの血肉を、一片残さず、我らが神に捧げろー!!)」
ついに、味方に戦死者が出てしまった。隊を指揮する大尉によって、司令本部へ応援部隊の要請が行われるも、到着するまでの時間を稼ぐ必要があり、非常に厳しい戦況。
やはり戦地にいる間は、終わった後の明るい先の話をしてはいけないと言う教訓であろう。戦場の死神は、その手の言葉を今や今かと喜々とし、待ち構えているに違いない。
退路側のハンヴィーも、敵兵に投擲されたグレネードの爆発によって、左フロント部が大きく破損。走行不可能になり完全に閉じ込められた状態。
味方の怒号に、激しく飛び交う相当数の銃撃音に爆音。敵のアラビア語で叫び放つ、殺意レッドゾーンの文言に加えて不利な戦況。
これぞTHE戦場。
すでに、何人かの敵兵を仕留めたトオルだが、過去にギャングらの命を正当防衛とは言え奪った経験はあるものの、慣れているわけでは無い。当時は大いに苦悩したものだ。
日本に限ったことではないが、殺人は世界一般の感覚では重大なタブーであり、最も重い犯罪の一つだ。
だが、ここはTHE戦場。しかも、最前線とも言える激戦地帯。そんな罪の意識や道徳心も「クソ喰らえ」と言わんばかりの状況。
そもそもベクトルが違う。殺らなければこちらが殺られるのが日常の世界だ。
そんな事を気にしている暇は無い。その
「あそこの建物の奴ら、どうにかならねーか!? 内側に鉄板でも仕込んでるのか、M2でも壁が貫通できねー!!」
「クソ、だめだ!あの距離じゃグレネードも届かねー!!この四方八方からの銃弾の雨ん中じゃ近づけもできない!!」
1、2階窓部、屋上からと、最も攻撃が激しい左側後方、2階建ての建物。
どうやら、ここに敵兵の数が集中しているようだ。
この建物は、あちらこちらに破損している箇所が見られる。一見、脆そうな荒いセメント造りだが、周囲の多くの家屋が倒壊、半倒壊している中、数少ない形を保っている建物だ。
加えて、М2の12,7mm弾が穴は開くもの貫通には至らない。何らかの防弾対策補強が施され、要塞化されているようであった。
おまけに、距離もあるが故にグレネードも届かず、更にその手前の倒壊した家屋跡にも敵は潜んでいる。それらの攻撃も相まって、こちら側はかなりの苦戦を強いられている。
仮に、これが「索敵哨戒」ではなく「戦闘哨戒」の任務であれば、人数も武装もかなり充実していたであろうが、ここでたらればを言ってもしょうがない。手持ちの装備でやり繰りするしかない。
「戦闘哨戒」とは、特定の敵を襲撃または待ち伏せするのに十分な規模とリソースを備えた部隊によって行われる。
今の状況は、それをまさに敵から齎されていると言うことだ。
敵からして見れば「はい、雑魚乙~!」的な造作もないライン作業であろう。
それでも、意外と持ちこたえてる方ではあるが、非常に危機的な状況であるのは変わりない
前方左右ともに瓦礫のバリケード、後方に撤退するにも退路側の車両は走行不能。更にその先にある、トーチカモドキの敵兵が楔となり、八方塞り状態で突破口が得られない。
もはや、風前の灯火。全滅するのは時間の問題である。
「はあ、はあ、はあ、……クソ…ここで終わるのか…」
今、全てが紙一重。暗く、か細いギリギリのラインを渡り歩き、その「生還」というゴールが余りにも遠いことか……。
すでに脳裏を過り始める「死」と言う名の仄暗いバッドワード。
追い打ちを掛け、ジリジリと灼熱のような真夏の日差しが、体力と精神をガリガリと削り、ライフゲージはイエローからレッドゾーンへと突入してゆく。
この絶体絶命的な盤面をひっくり返せるような、起死回生の一手は何か無いものか──。
「あー、えっと大尉、あのボロ屋に籠ってイキってる奴らを、俺がボコってもいいですか?」
「は?」
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