第12話 初任務
イラク戦争 別名第二次湾岸戦争。
この戦争は2003年3月20日、アメリカが主体のイギリス、オーストラリア、ポーランド等の有志連合によって始まったイラクへの軍事介入。
侵攻の理由は武装解除問題、イラクの大量兵器保持における進展義務違反が主となっている。
尚、この作戦名は「イラクの自由作戦」と名されている。
2003年中に正規軍同士の戦闘は終了したが、その大量破壊兵器は発見に至らず、イラク国内の治安悪化が問題となり戦闘は続行されたのだ。
2010年8月31日、当時の合衆国大統領「バラク.オバマ」により戦闘終結宣言されたが、米軍撤退後の翌日からイラク単独で治安維持に向けた作戦名「新しい夜明け作戦」が始まった。
そして、2011年12月14日、米軍の完全撤収と同時に、バラク.オバマにより正式宣言がなされ、約7年半以上に及び続いたイラク戦争はここで終結を迎える。
トオルが初派遣されたのは、まだイラク国内が治安悪化の真最中の時。
その派遣概要は、武装勢力の鎮圧に向けた前線基地にて、現地の友軍らと合流し、イラクの治安維持部隊への協力及びその支援。
トオルがイラク着任にて、まずの初任務は、防衛陣地である市街地周辺での索敵哨戒。
戦闘で荒れた市街地の道を、フル武装10名が乗る、2台のカーキ色ジープ型 軍用車両。12.7mmМ2重機関銃をルーフに搭載「ハンヴィー」にて「悪い子はいねぇがー?」とひた走る。
見るからに「哨戒してまっせー!」という絵づらだが、偵察哨戒やイラクの治安維持部隊との合同哨戒では、フル武装で前かご付きのママチャリに乗って巡回する中々シュールな米兵の姿も見られる。
この哨戒の種類の違いだが、現在トオルたちが行っている「索敵哨戒」とは、新たに制圧した防衛陣地の安全確保を目的にした哨戒行動。
「偵察哨戒」とは、情報収集が主となっており、基本は小規模で行われ、敵との接触を極力避ける傾向にある。
この偵察部隊においては、海兵隊きっての選りすぐりの少数精鋭エリート部隊が存在するという。
非常に危険と思われるエリアや重要作戦などには、このエリート偵察部隊が投入される。
トオルたち哨戒部隊、コールサイン「フォックストロッド隊」の現在の武装は、いずれも、MCCUUデザートマーパット迷彩の戦闘服にFASTヘルメット、ボディアーマーを装着し、М4カービンやМ249軽機関銃などを携帯。
時刻は午前10時に差し掛かろうか、昼前とは言え真夏、すでに40℃を超えている。イラクは、ほぼ全土に渡り砂漠気候に分類され、乾燥帯が故にカラっとはしているものの、日差しは皮膚を炙る危険な熱さとなり、真夏時期の最高気温は、実に50度を超える。
その地区は、未だに激しい戦闘跡が残り、多くの家屋などの建物が倒壊、半倒壊しており、無事と思われる建物でも夥しい数の銃撃の跡が刻まれていた。
「……これ戦闘跡ですよね?…初めてリアルで見ましたけど凄まじいものですね…」
「フフッ、やっぱり最初はそう思うわよね。ここは建物が残っているだけマシな方よ。まあこんな光景もすぐ見慣れるわよ」
「ハハ、だよな。海軍のイージス艦からトマホークぶち込まれた辺りなんて、更地状態で、敵のケツの毛1本すら残ってないものさ!残ってたら大したもんだよハハハ!」
「残るか、んなもん!」
「まぁ最初は、色々と慣れないことが多いが、気負わず油断せずだ。クレイン、いや「雷神トール」と呼んだ方がいいか?差し詰めお前のカービンは「ミョルニル」ってところか!」」
「それ、勘弁して下さいよ「トオル」ですから、イントネーションが違います!」
「ハハ!日本語の発音は難しいから、よく分からないよ!」
「「「だよな!ハハハハハハ!!」」」
映像や写真では知っていたものの、初めて目にする生の戦場跡に、驚きを隠せないトオル。しかし、気さくな先輩兵士や上官らの温かい気遣いで、気負いのようなものが和らいでいく。
隊の中には女性海兵隊員も見られ、あの過酷な新兵訓練を乗り越え幾つもの戦場を経験してきたのだろう、美形であるもの、細マッチョなアマゾネス風。
「はぁったく、相変わらずクソ暑いな。日差しの熱さがマジヤバイな」
「まぁ、夏だしなあ、この時期はしょうがないさ。今日も最高気温は50℃越えるらしいってさ」
「オーマイガッ!マジ勘弁してほしいわ。基地に戻ったら昼食よりとりあえずシャワーよね」
美アマゾネス風は、隣の座席で何やら胸元を開け、パタパタと手うちわで扇ぎながら、トオルに妙に淫靡な目線を向けるが、若干目が泳ぎつつも気づかない振りをする。
そんな暑さにも、平然と陽気な黒人兵士のドライバーは、周囲を警戒しながらも、のほほんと運転を楽しんでいる様子だ。
「つうか、テッド。お前平気そうだな…ってそうか、お前アフリカ系だったな。
親父さんがナイジェリア人だったか?そりゃ暑さに強いわけだな」
「そう?ハハ!ちょっと何言ってるか分かんないよ」
「分かれよ、おい!お前のことだろ!」
その暑さ耐性血筋について語るも、某人気お笑いコンビのコントネタ風に答え返す「テッド」と呼ばれる黒人兵士。
「まあ、分かりづらいってだけで俺だって暑いものは暑いさ。股間がムレて、かゆウマ状態だよハハハ!」
「やめなさい!何、かゆうまって!?…そんなことよりテッド、あんたもうじき任期が終わるんだったわよね?」
「ん?まあな。二日後には本国に帰還予定さ。で、帰ったら俺結婚するんだよ!
ああ、すごく楽しみだなぁハハハ!」
「おまっバカ!ここでそんなフラグ立てんじゃねーよ!俺らを巻き込むつもりか!?」
「ハハ!ちょっと何言ってるか分かんないよ」
任期終了間際の、股間がバイオハザード状態らしいテッドへの、何気ない問いかけに、良い事ではあるのだが、この場では何やら良からぬ事を言いだした。
そして、あるT字路、こちらから見れば、╣な道に差し掛かった時、前方を先行するハンヴィが徐行。後続のトオルらの車両も、それに合わせ2台は停止する。
「……道が塞がっているな」
見れば、車4台は通れそうな割と広めの道幅なのだが、倒壊した建物の瓦礫などによって前方と左折先、2方向の行く手の道が塞がれていたのだ。
「チっ、左折側の道も塞がっているな。しょうがない、戻って迂回するぞ」
「なっ!待て、敵だ!!あの野郎RPGを持ってやがる!!」
「(我らの聖地を我が物顔で踏みにじり、侵害するアメリカの犬ども!神の裁きを受けるがいい!!)」
迂回しようとステアリングを切ろうした時、突然、倒壊していた建物跡に潜んでいた敵武装勢力兵士が、旧ソ連製
ドドドドドドドドドドドドドドド!!!
「んな、物騒なもん、撃たさせてたまるかよ!!」
一早く、ハンヴィールーフの銃座席にいた味方兵士が気づき、くわえていたタバコを捨て、М2の掃射によってRPGごと敵兵の身体を四散させる。
だが直後に、他に潜んでいた旧ソ連製
いずれも頭部に、ターバンやスカーフ等を目元だけ出るよう巻き、各自思い思いの「カミース」と呼ばれる民族衣装、弾薬ポーチ付きのアーマーベストを着用している。
どうやら、完全に包囲されたようだ。前々から計画していたのであろう、哨戒任務の友軍兵を、この地に誘導するよう罠を張っていたのだ。
「ハイハイ、ですよねー!待ち伏せっすよねー!!結構いるなー!おい、テッド!てめぇが余計なこと言うから!」
「ええっ!? 何んだってーっ!? ちょっと何言ってるか分かんないよ!!」
ダダダッダダッダダダダッダダダダダダダッダダ!!!
「クソっ撃ってきやがった!!
応戦しろ!!」
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