第11話 ケイデンス
因みに、自衛隊での時刻読みで「2」を「フタ」との読みは、海上自衛隊。
陸上自衛隊と航空自衛隊では「ニー」と読む。
米軍式では、0から8までは通常英語の読み方であるが「9」だけは、
「ナイナー」と読む。
「いやいや、クソヤバイよ、あいつマジもんのバケモンだよ」
「なんか、ぶっちぎりの世界記録をバンバン叩き出しているみたいだぜ」
「教官も面白がって、色々とやらせているみたいだしな」
「あれだけの記録出しておいて、あいつ自身も何か納得してないって感じで何かブツブツ言ってるしよ」
「格闘能力も何だあれ?どこのバーチャなファイターで鉄の拳だよ!何されてるかもさっぱりなんだよ」
「気づいたらダウン取られてた感じだからなー。あいつのファミリーネームは「リー」じゃなかったよなぁ」
「入隊前にやってたのが総合だけって絶対あり得ない、日本の古武道か中国系もやってるな、間違い無いよ」
「あれで、まだ17歳って言うんだから末恐ろしいな」
「それと、あの両手の傷跡見たか?あれスティグマだよな?」
「「使徒様!」とか言って、泣いて崇めている奴もいたな(笑)おまけに名前は北欧神話の神って(笑)」
「それなら、あのアヴェンジャーズっぷりも頷けるさ(笑)」
「んで、奴は「トールじゃなく、トオルだ!」って抗議してたが「クールだからいいじゃないか」って、言ってやったら何かブツブツ言いながら諦めていたよ(笑)」
「あいつ半分は日本人だってな?どうやらニンジャの血が入ってるようだぜ。あれだよ、ホカゲヴィレッジの生まれだよ!」
「気合いを込めると髪が金色に変わるとか?最終的には身勝手なシルバーになるんじゃね?」
「きっとあいつは、今まで鬼と戦ってあの身体を作り上げてきたんだよ。戦闘時は、何かの呼吸やら色々と型があるんだろうな」
「いや、あいつはトラックにでも轢かれて異世界に転生したやつで、なんだかんだで帰ってこれたんだろ?チートだよチート!」
「お前らジャパニーズアニメの見過ぎだよ」
「この前なんか夜中に便所で「こっち来んなボケ」とか言いながら、見えない何んかをぶん殴っていたぞ」
「ああそれな。俗に言う「見える」奴らしいぜ。ここは結構‶出る〟って噂だからな」
「何それ、怖わっ!」
「あー、うっせ」
新兵の間では教官らも含めて、何やらトオルはあーだこーだと言われ放題で、娯楽話のネタにされているようだ。
こうして、新兵らの多種多様な一日の訓練課程が終わりを告げるのであった。
そんな、日々厳しい練兵の
新兵たちは、基地内の車道をランニングをしながら、教練軍曹の呼びかけに士気高らかに答辞の声を上げている。
「おいらの主砲は、М256!!」
「「「おいらの主砲は、М256!!」」」
「122mmのエグいやつー!!」
「「「122mmのエグいやつー!!」」」
「気取ったトーチカ女も、ぶち抜くぜー!!」
「「「気取ったトーチカ女も、ぶち抜くぜー!!」」」
「М4キッズは道開けろー!!」
「「「М4キッズは道開けろー!!」」」
「М2ボーイも邪魔するなー!!」
「「「М2ボーイも邪魔するなー!!」」」
「女房のジョディにゃ、内緒だぜー!!」
「「「女房のジョディにゃ、内緒だぜー!!」」」
「目標確認!!」
「「「目標確認!!」」」
「距離よし!!」
「「「距離よし!!」」」
「角度よし!!」
「「「角度よし!!」」」
「湿度よし!!」
「「「湿度よし!!」」」
「ロックオン!!」
「「「ロックオン!!」」」
「ファイア!!」
「「「ファイア!!」」」
「もらい物には、気を付けろー!!」
「「「もらい物には、気を付けろー!!」」」
「症状が出たら、レッツゴー!ドック!!」
「「「症状が出たら、レッツゴー!ドック!!」」」
「エンジョイするのも、程々にー!!」
「「「エンジョイするのも、程々にー!!」」」
「あー何だ?…やたら元気いいな、あいつら」
トオルらのクラスが基礎体力訓練が行われている中、エリア脇の車道を、一際気合いの入った、ケイデンスを唱和しているクラスがランニング。
このような軍隊のランニング中、行進、行軍中に唱和されるコール&レスポンスは「ミリタリーケイデンス」「ケイデンスコール」と呼ばれる。
ケイデンスとは本来「韻律」「リズム」の意味だが、この行動の際に発する足音がリズムを刻むことから、軍の労働歌を「ミリタリーケイデンス」と称されるようになった。
また、度々歌詞に「ジョディ」と言う架空の人物が登場することから「ジョディコール」とも呼ばれている。
ケイデンスの目的は、合唱することによって士気が上がるのと同時にチームワークや助け合いの精神、規律を高めることに有り、新兵訓練には重要な必須プログラムである。
同時に兵士達のホームシックを和らげ、軍や上官への不満を歌詞に盛り込むことで、日頃ストレスを溜める兵士達のガス抜きをするという目的もある。
中には、露骨に卑猥でピー!な歌詞も多々あるが、ガス抜きに下ネタは、古今東西、万国共通の最もベーシックな手法であろう。
「オーイェッ ヒア!ヒア!ヒア!カモン!イェア!イェア!イェア!チェケラゥ!」
ランニングから徐々にウォーキングに切り替わり、先頭をイキって歩く教練軍曹。マリンキャップをどこぞのラッパーのように斜めにかぶり、仰々に手でリズムを刻んでいる。
同時に、その後続随従する新兵らの中に、数人のヴォイスパーカッションで、ベースにリード、スクラッチ音等に加えてステップタップ、太腿等の身体を叩き、リズムを刻み始める者が現れる。
そのリズムに合わせて、他の新兵らは身体を揺らしイキり歩き始め、不敵にニヤけ顔で横行闊歩する。
更に、キレッキレのダンスパフォーマーも現れ、教練軍曹中心のどこぞのミュージックビデオ風、ヒップホップ調、謎ケイデンスが始まる。
「………んん?」
何やらおかしな雰囲気になったケイデンス組を、トオルは訝し気に見つめる。
「YEAH!俺たちの熱い迸りは誰も止められねぇ!称えよ敬礼!今日もイクのさ性地巡礼!そうさそれはいつもの恒例!それは使命!どんな暗闇でも突き進むのさ俺たちのっ」
「「「マイウエイ!!!」」」
「GO!邪魔するものは何もねぇ!道はそこにあるんだ、迷うなっ」
「「「ゴーウエイ!!!」」」
「YO!恐れることはねぇぜ!そうさ俺たちは最強っ」
「「「精鋭!!」」」
「SO!それは何にも屈しねぇ!今日も尽き果てるまでイこうぜ戦友っ」
「「「セイイェス!!!」」」
「NO!いや待てぃ!なぜそこにいるんだジョディよ!泣くな娘よ、鼻をほじるな息子よっ」
「「「ノーウエイ!!!」」」
「TO!ちょ、待てよ!これは何かの誤解だ!そんな目で見るな!聞けよ俺のストーリーっ」
「「「弁明!!!」」」
「OH!まだヤルことはあるのに旅はここで潰える!ついに終焉!俺たちのっ」
「「「運命!!!」」」
「イイヤアァアァアァアァアァアァアァアァアアア!!!」
「「「鼻クソつけるな息子よ、そして尽き果てるのさ俺たちの生命!!!」」」
「THE!!エエエエエエンッドゥッ!!」
「「「ウゥイエァアアアア!!!」」」
「…………」
「ウハハ!!よーしお前らグッジョブだ!!クールだったぜ!!キマったなー!ウハハハハ!!!」
「「「ウエエエエイ!!ヒャッハー!!!」」」
どこの新兵クラスか、一糸乱れぬヒップホップ調コール&レスポンス。メタルなシャウトも入れつつハイタッチ、グータッチと、非常に大盛り上がりで教練軍曹も実に満足気だ。
「あいつら、何の訓練に時間を費やしているんだよ……」
何を見せられたのかと、しばし呆然と佇むトオルであった。
「おい、クレイン!何をサボってるんだ!? 訓練は遊びじゃないんだぞ! とっとと動け!!ムーブ!ムーブ!!」
「………」
こうして大分割愛したが、何だかんだで滞りなくトオルは約13週間に及ぶ新兵訓練を終え、「蛆虫のクソ以下」から「便所虫」にまでと素晴らしい成長を見せた。
新兵訓練終了後、トオルの異常っぷりに何やら血液検査、MRI、DNA検査など、少々面倒な目にあっていたが、それは些細なことであった。
そして、その後にトオルが正式に海兵隊として、約13か月の任期で初派遣された国はイラクであった。
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