第3話 散らかり報道
『番組の途中ですが緊急速報です』
突如、食堂内の備え付けのテレビで放送されていた情報バラエティ番組が、報道フロアへと切り替わり、お馴染み中堅どころの男性アナウンサーが映し出される。
『たった今入った情報によりますと、現在アメリカ ニューヨーク マンハッタンにて警官隊による激しい銃撃戦が行われており、大きな爆発なども複数見られ、死傷者が多数出ているとの事です!』
バラエティ番組出演時などの、気さくでお茶目な印象と打って変わって、緊迫感を露わにした表情が、事の大きさを物語っている。
アナウンサーの後方では、各局員が慌ただしく動いていた。
「えっ? ニューヨーク? もしかしてまたテロ!?」
「リモコンどこだ? おい、ちょっと誰かテレビの音量上げてくれー!」
先ほどまでのお祭り騒ぎが、遥か昔のように緊張感が場を包み込み、各近場のテレビの周りに
『現地時間 午後8時46分頃にアメリカ ニューヨークにて、原因不明の怪音が確認され、その直後に震度4強から5弱の強い揺れが確認された模様です! 尚、同時刻、日本を含め世界各地で、同様の怪音と地震が発生しているとの事ですが、その因果関係は、まだ分かっておりません』
画面テロップには《ニューヨークで銃撃戦 謎の怪音 地震 大規模テロか!?》と、何やら情報が渋滞している。
『地震発生後から間も無く、マンハッタンにて車両などからの爆発で多数の死傷者が出ており、武装組織による犯行なのか、現在警官隊との激しい交戦が確認されているようです』
「いやいや、ニューヨークヤバすぎだろ!どんだけテロに粘着されとんねん!」
「それもだけど謎の怪音って…さっきのだよな? それと世界各地で同じ時刻で地震って? それってヤバくね?」
「奇跡的な偶然? てか、ニューヨークや世界各地で地震って、さっき言ってたことだよね? で、怪音にテロ?何だか盛りだくさんなんですけどー」
『尚、怪音や地震との関連性については現在専門家の──あっ、只今、現場近くの現地レポーターと中継が繋がっているようです! ニューヨーク支局特派員の早見さん? 早見さーん!』
そして、画面は現場ニューヨーク マンハッタンへと移り変わり、現地の茶髪ロングヘアーの若い女性レポーターが映し出され、男性アナは画面隅でワイプ化する。
現場はどこかの通り沿いのようで、車道は多くの車両が立ち往生、お手上げ状態のドライバーや避難する者、野次馬の群れなど多くの人が行き交い、騒然とした光景が刻々と映し出されていた。
レポーターの後方、数十メートル先の交差点奥側では、大型トレーラーやバスなど背の高い車両がバリケード代わりに塞いでおり、その向こう側はよく見えない。
遠くその先では、火災による炎の明かりと濃い煙が見え、タタタタタタっ!と自動小銃の発砲音に断続的にドオォォン!と、何か重機の激突音に爆発音など、紛争地帯
レポーターは、必死に何か言ってるようだが銃声、爆音、緊急車両のサイレン、お祭り好きの若者達が、放送禁止用語やら「U.S.A!!U.S.A!!」と連呼したり、周囲は混沌とした喧騒で、実況が困難な様子だ。
『早見さん? 周りの音で声がよく聞こえませんがぁ! 早見さーん!』
現場スタッフが慌ててレポーターにマイクを渡している。空の状態でレポートしていたようだ。
さもありなん。
『あっ、マイク逆さまです 早見さん』
『しっ失礼しました!現場の、はっ早見さんです! いや、早見でございまするでござるるるぅぅ!』
『早見さん落ち着いて下さい。現在いる場所をお伝えできますか?』
『はっはいぃ? 今、私がいます場所は…えーっとマンハッタン区ミッドタウン?
タイムズスクエア ブロードウェイ?の繁華街を南北に通る?7thアベニュー沿いどす!?』
色々と散らかった、某有名キー局ニューヨーク支局特派員、早見レポーター。クールビューティに見えて実は天然系。一部に需要がありそうなキャラだ。
「……ほお、これはなかなか……だぜぇぇい…」
早速釣られる黒縁眼鏡が怪しく光る、鼻息ブーストのぽっちゃり系。
『普段でしゅと、ここタイムズスクエアは、ニューヨーク中心の繫華街ともあって、へんたい? な賑わいを見せる街並みなのですが、現在はご覧の通り、異様とも言える雰囲気に包まれていまそ?』
『早見さん「へんたい」では無く「たいへん」の事ですね。それで、現在の状況をお伝え頂けますか?』
『はいぃ、私の後ろに見えますこの通りは、南側への一方通行の道路?で、現在多くの車が立ち往生しており、大勢の人でわーわーです。 その先ではNYPDニューヨーク市警察? SWAT対テヘペロ特殊部隊?なども出動し、現在も激しい戦闘が行われていまして、クっソやっベぇ状況ざます!』
『早見さん言い方。それと「対テヘペロ」ではなく「対テロ」ですね。それで、謎の怪音が確認されているようですが、それはどう言った
『はっはいぃ?えっとその怪音と言うのは『終末の音』?と呼ばれる現象でして、
「ぶぉおおおっ!」と、めっちゃクソでかいチューバ?で吹き鳴らしているような音ですた!でした?』
『……分かりました。それと言い方!…そ、その現象後に地震が発生したとの事ですが、震源や被害状況の方は確認できているのでしょうか?』
『は、はいぃ? わ、わだすもここニューヨークで地震を体験しゅるのは初めての事で、震源の方はまだ分かっておりゅませんが、一部建物や怪我人などの被害が 多数出ているとのことでやんす!』
『……分かりました。それで、武装勢力との激しい戦闘が行われているとの事ですがどう言った勢力なのか犯行声明などは発表されているのか、その辺りの情報は入っているのでしょうか?』
『はっはいぃ?ええーっと、現時点ではその辺りの情報はこちらにはまだ入っておるりゃ?…えっ?少々お待ちくだせい!』
状況に何か変化があったのか新たな情報が入ったようで、現場スタッフから早見レポーターに何か伝えられている。
早見レポーターは、スタッフからの情報に何度か頷き、眉間にしわを寄せ、片眉が下がりもう片方が上がる。何やら訝しげな内容である事が窺える。
『ワツァハープン?…ヤー…ヤー…ホワッツ? ハッ? ハァ? ナゥ? ヒァ? マジマジマジマジ!? それマジで言ってるの!?…………オーマイ ガッ!ノーウェイ! ありえない!!』
『何か進展があった模様です!どうしました? 早見さん? 生放送ですよ! 説明をお願いします! 早見さーん! おいこのクソ早見ー!!』
互いに報道では、あるまじきリアクション。男性アナも身を乗り出し、ぶちギレぎみの様子。
学食の方でも、その一部始終を見逃してたまるものかと学生、一般客らはその報道映像に釘付け。新たに入って来た学生らも「何か大事か」と人集りは絶賛増量中。
周りの状況には一切目もくれず、明鏡止水のガバご老人は超振動で茶のおかわりをしており「ええの~」と、何やらご満悦。
『え、えっと?何と言っていいものでしょうか…この壮絶とも言える戦場さながらの武力衝突ですが……どうやら、武装勢力による犯行では無いようざます』
『んっ? えっ? どう言った事でしょうか? 話の筋が見えませんがもう少し具体的にお願いします!』
『わっわだすも前代未聞の全く信じられない状況ですて、でして……果たしてこのままお伝えしてもいいものか…どう説明していいものか迷っていまそ?』
『んー、よく分かりませんがこちら側で整理しますので、今入った情報をそのままお伝えできますか?』
どうにも要点を得ない早見レポーターに業を煮やした報道アナは「御託はいいからとっととそのまま話せ」と思いつつ、ていよく促す。
『…は、はい……こ、この状況の原因は……』
よほど言い辛い内容なのであろうか、早見は
『い…いの…し…』
『はっ? よく聞こえませんがはっきりとお伝えください』
そして早見は、どうにでもなれと意を決して言い放つ。
『へい!この騒動の原因は、‶猪〟でごぜぇます!!』
『あ!?』
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