幻覚
*本作は「幻覚」という作品の再掲載です。
驚くかもしれないけど、俺は最近、ゲイの男子中学生と同居するようになった。
血のつながらない赤の他人。しかも、好きだと言われてとても困っている。
もともと彼は親と合わなくて、俺の家に入り浸るようになっていた。
先月学校が休校の日があって、その数日前に連絡があった。
「今度、学校休みだから、江田さんの家の掃除とか夕飯の支度をしてあげたいんだけど・・・行ってもいい?」と聞かれた。俺は彼が日ごろのお礼に家事をやってくれるんだと軽く考えていて、すぐに承諾した。
そしたら、そいつは、前の晩に大きな旅行用トランクとボストンバッグを持ってやって来た。
「随分、荷物多いね。何で?」
「あの・・・ちょっと勉強しようかなって思ってテキスト持ってきた」
「あ、そう・・・」
時々、異常に荷物が多い人がいる。前の会社に通勤に旅行用のトランクを使っている人がいた。整理整頓ができなくて、何でも持ち歩かないと忘れ物をしてしまうらしい。会社の備品(ミネラルウォーターやティッシュなど)を持って帰っているという噂もあったけど、真偽のほどはわからない。
俺は彼のお母さんにLineで連絡した。
『怜君がうちを掃除してくれるみたいなんで、お言葉に甘えさせていただきます』
すると、意外な返事が戻って来た。
『実は怜が江田さんの家から学校に通うと言って出て行ってしまったんです』
俺は発狂する。
「君、家出してきたの?」
「うん」
「俺も困るよ。会社あるし」
「大丈夫・・・江田さんがいる時しか家に入らないから」
「え、だって君まだ13才だろ?」
「うん」
「とりあえず明日の夜には帰ってくれない?」
「帰りたくない」
こうなると、どうしても動かないのがわかっている。
こだわりが強い子だからだ。
俺は説明する。
「君が家にいると、俺が警察に捕まるかもしれない・・・」
「ちゃんと言うよ。何もされてないって。それに、江田さんの所から通ってるって誰にも言わないから」
「何でそんなに家が嫌なわけ?」
「何をやっても怒られるし、もう嫌になっちゃって・・・。パパもママもお姉ちゃんも僕のことが嫌いだから、目の敵にしてるんだよ」
目に敵にしているというのはともかく、家族は疲れ果ているのは確かだった。カサンドラ症候群というやつだ。発達障害の家族に振り回されて、心を病んでしまう症状だ。発達障害の人とコミュニケーションをとるのは非常に難しい。この特性のある人は、思いやりのない行動や発言をすることが度々あり、周囲の人は理解しようと努力して、病んでしまう。深刻なケースになると、うつ病になってしまう。
「俺と一緒に暮らしても、俺のことが嫌いになるかもしれないだろ?人間誰でも嫌なところや合わないところがある。それを、諦めないと一緒にいられないよ」
「僕は江田さんのこと好きだし、嫌いにならないよ」
「でも、俺は困るよ・・・だって、他人が24時間家にいたら気が休まらないし」
「僕、1階にいるから」
「じゃあ、飯を食ったら1階で勉強する。あとは俺の寝室に来ないこと」
「うん。でも、たまには一緒に寝たい」
「じゃあ、土日だけ」
「わかったよ」
「夜は早く寝て、学校に遅刻しないこと。最近、遅刻が多いって聞いてるよ」
「うん」
「夕飯食ったら、スマホ没収」
「うん」
「俺は目の前にいるし、もう電話もしないんだから・・・」
俺は中学生に合鍵を渡した。その時から、完璧同棲していることになっている。
「友達を連れて来ないでほしいんだけど」
「大丈夫。いないから」
それから、親からは食費や生活費として毎月3万円渡されている。俺は取り合えず受け取る。俺としては3万払うから出て行ってほしい。怜は掃除、洗濯、料理をしてくれるのだけど、助かるというよりも、俺の負担は増えている。
◇◇◇
彼は精神科に通院していて、自閉症スペクトラム障害ということだが、割とコミュニケーションは取れているし、俺の発達障害の友達Aさんのように、話していておかしいという感じはほとんどしない。強いて言うなら、同世代とのコミュニケーションが苦手で、友達がまったくいないこと。彼が知的すぎる気もするけど、進学校に通っているから知的な子は他にもいるだろうと思う。
でも、進学校ほどそういう性格の子が多いらしく、彼は意外と浮いていないらしい。クラスに1人でいる男子が何人かいて、何か班を作ったり、グループで何かやる時はそういう陰キャの子たちとつるむらしい。だから、行きづらいというほどでもないようだ。
俺といる時は、完全に普通の子どもだ。俺自身が発達障害で、年上だからかもしれない。
安定しているのかと思っていたが、最近、気になることがある。
ここ数か月の話だけど、彼は幻覚が見えると訴えている。
学校で霊が見えるらしい。
授業中に先生の後ろに人が立っていたり、黒板の辺りに人の顔が浮かんでいるとか。
それに、廊下に人影がいることもあるそうだ。
ちょっと離れたところに立っているから、怖くはないそうだ。
しかも、他の人には見えていないということを本人も自覚している。
確かに学校からそれほど遠くないところに、やばそうな心霊スポットがある。
俺は霊感のある人と同居することになって、ワクワクしているが、一方で怖くもある。統合失調症の症状である可能性もあるからだ。統合失調症の場合は、それを現実だと思ってしまって区別がつかないらしい。
以前から、陰口を言われているような幻聴が聞こえたこともあるようだ。
俺が一緒にいた時に、他の小学生に笑われていると言ってきたことがあった。
俺には何も聞こえなかった。
そんなの気にせいだと思うと言ったが、本人は絶対言われたということだった。統合失調症は幻聴が主らしい。将来、どんどん悪化していくんだろうか。
だから、彼のことはすごく心配している。
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