二重生活

*本作は、別建てで書いている「二重生活」の再掲載です。


 俺は中学生男子と同居する変態男だ。

 でも、実際は何もしてないし、すごく健全に暮らしている。


 一方で家庭を持ちながら、実はロリコンで獲物を探し続けている人がいる。

 社会的にはこういう人がまともと言われて、俺は落伍者扱いだから、納得がいかない。


 夕飯を食べている時、同居人の中学生が言った。

「今日、サラリーマンにナンパされちゃった」

 彼は精神疾患があるが、勉強はできて、有名中学に通っている。

「え?何それ」

 俺は世の中には色んな変態がいるもんだと思った。

「今日、駅を歩いてたら、〇〇中学?って聞かれて・・・。制服着てるから、『はい』って言ったら、〇〇先生まだいる?って聞かれて、色々喋ってたら、連絡先聞かれた」

「で?教えた?」

「うん」

「なんで?そんなイケメンだった?』

「うん。すごくかっこよくて、いい人そうだった」

「中学生をナンパしてるようなのに、いい人なんていないよ」

「そうかなぁ」

「今すぐ連絡先消せ」

「え。でも、、、」

「でもじゃない!そいつと付き合いたいなら、出てけ。ブロックするんじゃなくて、早く消せ!俺の目の前で!」

 俺は腹が立った。当然じゃないか?

「なんでそんなに怒るの?」

「お前が知らない男に話しかけられて、そいつと喋って、連絡先教えたからだよ。ゲイなんて所詮、やることしか考えてないんだ」

「でも、学校の先輩なんだよ」 

「本当かわからないだろ?そんなの、ネットでいくらでも調べられる」

 中学生はなぜ怒られるのかわからないようだった。渋々連絡先を消した。

「君にはがっかりしたよ」


 俺は腹が立ったから、飯を食ってすぐ3階に上がってしまった。中学生は1階を使っている。一緒に寝ているわけではない。色々事情があって預かっているけど、もう実家に戻そうかなと思っていた。俺のことを好きだと言いながら、他所で浮気しているようなクソ野郎を家に置いてやる筋合いはない。


 そしたら、しばらくして中学生が謝って来た。

「さっきはごめん。もう、知らない人に連絡先教えたりしないから」

「俺は別にいいよ。君がしたいようにすれば。その代わり出て行ってもらうけど」

 そしたら、静かになった。階段を下りていないし、まだ廊下にいる気配はあったが、何も言わない。俺は気になってドアを開けると、そいつが泣いていた。

「泣くなよ」

「ごめんなさい」

「もう、知らない人に話しかけられてもついて行くなよ。公園かトイレで掘られるだけだ。君がやりたいならいいけど」

「僕のこと嫌い?」

「いや・・・別に。不用心だと言ってるんだよ。君はそんなにやりたいの?」

「違うよ・・・」

 中学生は泣いた。言い過ぎだと思うかもしれないけど、この子はそういう子なんだ。


***


 それから、1週間後くらいだった。


「この間のサラリーマンにまた話しかけられた」と、中学生が言う。

「えぇ!何で?」

「連絡来ないねって」

「それでまた喋ってたのか・・・」

「いや・・・でも、怪しい人じゃないよ。FacebookのURL教えてくれた。ほら、〇〇高校卒って書いてる」

 中学生はスマホの画面を見せてきた。

「えぇ。変だってそいつ」

「でも、奥さんと子どももいるよ」


 よくよく見てみたら、まだ30代で大企業に勤めていて、家は文京区だった。

 悔しいほどのイケメン。勤務先は泣く子も黙る大企業だ。

 俺は完敗だった。

「こんなイケメンだったら君がセックスしてみたいのもわかるよ」

「そんなことないよ。僕は江田さんの方がタイプだよ」

「いいよ。変な気を遣わなくて・・・でも、奥さんと子どもいても気にならない?」

「嫌だ」

「じゃあ、連絡取るのやめなよ」

「でも、大学は〇〇だし・・・」

「俺と同じ大学じゃねぇか!くそ・・・!」


 俺は悔しかった。後輩に負けたことに。

 俺はそいつに復讐してやろうと思った。お前の性癖を世間に晒してやる!


 俺は大学のコネと、勤務先の伝手の両方を使って、男を特定した。名前はA氏。お前の家庭を滅茶苦茶にしてやると、俺は決めていた。幸せそうな仮面の下で、男子中学生を手玉に取っている変態野郎だ。同情はしない。

 

 俺は早速、そいつを尾行することにした。同居人によると、彼は、学校が終わる頃に駅にいるという。俺は半休を取って男の家の前で張り込んだ。


 彼の家は、人から住所を教えてもらっていたから、すぐにわかった。3LDKの一戸建てだった。玄関には子乗せ自転車が置いてあった。子供は2歳と5歳の2人のようだ。父親が性犯罪者とは知らずに生活している家族を想像すると、痛々しい。A氏も今は在宅勤務らしいが、仕事の合間に駅に行って中学生をナンパしてるようだ・・・確かに、そいつの家から近いのだけど、奇妙だった。


 ・・・なぜ?そんなに中学生にこだわるのかが。


 もし、中学生と付き合いたかったら、サマーキャンプに行くとか、ボーイスカウトの指導者になるとか、塾でバイトするか、自分の息子が中学生になるまで待てばいいんだ。


 あ、そうか既婚者で子供がいるから、俺みたいに自由になる時間がないんだ・・・。俺は納得した。中学生と言えば、反抗期、面倒くさい、邪魔という三拍子そろった、一番手に負えない世代だ。そうでない中学生もいるだろうが、俺にその良さはわからない。

 

 あんなイケメンがなぜ男子中学生なんかを・・・。しかも、ジャニーズJr.とかにいそうなイケメンでもなく、普通の子を・・・。


 しかし、1日目であっけなくやつは出て来た。性犯罪者というのは毎日でも、獲物を求めて探しに行くものなんだ。一人で黙っていると、中学生男子がチラチラ目の前に浮かんで来て、じっとしていられないんだろう。


 俺は駅まで跡をつけた。全然、気が付いている気配はない。


 俺はPASMOで地下鉄の改札に入った。すると男は、ホームに降りてベンチに座って携帯をいじっていた。上り下りの両方のホームに電車が入って来たが、乗ろうとしない。奇妙だった。何してるんだろう・・・。男子中学生を物色しているんだろうか。

 すると、いきなりすくっと立ち上がると、〇〇方面行きの電車に乗った。俺も慌てて同じ車両に乗る。あいつが通っている〇〇中学の方角ではなかった。

 

 すると、すぐ次の駅で降りた。そして、女子高生が集団で降りた後にぴったりと張り付いていた。そして、そのままエスカレーターに乗って上に上がって行く。そして、改札に散らばっていく高校生を見送ると、自身は改札を出ないで、トイレに入って行った。俺は外で待っていた。すると、トイレから出て来たと思ったら、やつはまた電車に乗り込んだ。同じ〇〇方面行だ。


 そして、またかわいい女子高生をチラチラ目で追っていて、その子が電車を降りると後ろからついて行ったんだ・・・。そして、エスカレーターで真後ろに立つ。


 もう、わかったと思うけど、彼は多分盗撮をやってるんだ・・・。

 同じことを5回くらい繰り返していた。


 俺は警察に言おうか迷った。盗撮っていうのは、被害者がいるのか、いないのかがよくわからない犯罪だ。俺の想像だけど、今の若い子って、スカートの下にスパッツを履いてるんじゃないだろうか。俺の姪は履いていた。だから、スカートの中を見られてもそんなに困らないんじゃないかと思うんだ。


 しかし、結局、俺は警察に行った。俺が彼の跡をつけていた理由も伝えた。

「男子中学生をナンパするような男が、女子高生の盗撮をするっていうのがよくわからないんですけど、盗撮より、子どもをナンパしてどっかに連れ込んだりしてたら、そっちの方がよっぽど悪質なんで・・・。そういう性犯罪者を野放しにできないと思いまして」

 警察の人はちょっと引いていたと思う。

 俺は男のFacebookのURLや自宅の住所、勤務先などを伝えた。

 

 

 ***


 それから数週間後、ネットニュースを見ていたら、先日俺が尾行していた人が逮捕されたと報道されていた。警察に連行される映像を見たら、やっぱりイケメンだった。もったいないな~と俺は思った。コメント欄にも同じことが書かれていた。


 記事によると、駅のエスカレーターで女子高生のスカートの中を盗撮していたところを、警察に現行犯逮捕されたらしい。持っていたスマートフォンには数えきれないほどの盗撮画像が入っていたらしい。さらにJKの買春もしていたそうだ。


 俺は警察からお礼の電話をもらった。

「いえ・・・とんでもない。当然のことをしたまでです。

 ところで、買春の被害者には男子はいなかったんですか?」

「はい。本人にも聞きましたが、男子はないときっぱり否定していました」

「そうですか・・・じゃあ、本当に卒業生に声を掛けただけなんですね」

「それもやってないそうです。その駅では、何年も降りたことがないって言っていました」


 俺はようやく気が付いた。中学生は嘘をついていたんだ。

 俺の気を惹くために!

 それで、Facebookで○○中学のイケメン卒業生を見つけて来て、俺に見せたんだ・・・。俺は、男が少年をおびき出して猥褻行為をしていると思い込んでしまった。それが、たまたま盗撮魔だったということだ。とんだとばっちりだ・・・。もし、中学生がFacebookで彼を見つけていなかったら、全然違う人生になっていただろう。彼が気の毒になった。


 俺はニュース映像を、中学生に見せた。

「お前をナンパした男、逮捕されたぞ」

「あ、そう・・・何で知ってるの?」

「これ、俺が通報したんだ」

「え・・・」

 そいつは気まずそうだった。

「よかった。つかまって」

「よかったな。こいつに捕まったら、全裸で撮影会だったかもよ」

「ああ。じゃあ、よかった。そうならなくて」

 中学生は飯を食うと早々に1階に降りて行った。


 ◇◇◇


 中学生は部屋で携帯をいじっていた。

 掲示板を見る。


 恋愛相談 人間関係の悩み


『はじめまして。ノンケの彼氏(50歳)がなかなか手を出してくれません。どうしたらいいですか。13歳男子』


『ベストアンサー:彼を嫉妬させてみたらどうですか?イケメンに告られたと言って、揺さぶりをかけたら案外落ちるかも。頑張って。


 質問者からのお礼コメント:ありがとうございました。全然知らない人の写真を見せて、この人にナンパされたと言ったら激おこりしてました。何もしてきませんが、この間、寝てる時に咥えさせてもらいました。寝てるふりしてました。だから、もういいです。』


 その他の回答(25件)


 その彼氏さんは常識的な人です。中学生に手を出したらつかまります。


 13歳ならまだ彼氏はいなくていいです。


 50のおじさんが、どうしたら、中学生と出会えたのかこっちが聞きたいです。


 諦めて俺と付き合いませんか?


 自分から誘ってみたらどうですか?

 

 あなたのことをまだ子どもだと思ってるんじゃ?


 男に興味ないんだろ?


 etc....

 

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