第3話 待ち合わせ

 実は俺は前々から自殺願望があって、一番幼い頃で5歳くらいから死にたいと思っていた。今考えるとすごく知的な子供だったんじゃないかという気がするけど、そのまま、人生を通じてずっと死にたいという気持ちがあった。


 でも、今は全く死にたいとは思っていない。理由はコロナで一人の時間が増えたことと、転職して楽な仕事をしていることが大きい。前は精神疾患の人が会社にいて、対応でストレスを感じていたが、今は苦手な人に会わなくてすむようになったし、仕事も昔と比べたらずっと楽だ。俺は人間関係がストレスになるタイプだと思うが、長いことそれに気付けなかった。


 仕事に関しても、色んな会社で働いたが、中には休日が月に1日しかないとか、夜12時を過ぎないと帰れないような会社もあった。そういう会社だと具合が悪くても休めず、39℃近い熱があっても何日もそのまま働いていた。今の会社は週休2日で残業もほとんどない。あまり変な人もいない・・・。だから、会社に行くのが全く苦にならない。


 スケジュール的に忙しすぎるというのもよくないし、人間関係が過酷なのも避けた方がいいだろう。


 あとは、規則正しい生活をして、アルコールやカフェインをやめたおかげでもある。


 でも、もしまた気持ちになったら「いのちの電話」にかけてみたいと思う。そしたら、何て言われるか聞いてみたいんだ。


 さて、例のLineグループの話・・・


 夏休み、子どもたちは1日中、Lineをしてた。ゲームをしながらとか、音楽聞きながらだと思うけど。1日10時間以上やってる。俺は仕事があった・・・。朝、昼休憩、トイレの時、仕事が終わってからしかLineを見ていなったし、1日中は追えない。


 夕方に見てみたら、『じゃあ、青木ヶ原樹海で』と書いてあった。


「え?マジかよ」

 俺は思った。


『じゃあ、現地集合で。河口湖駅から西湖周遊バスで「西湖コウモリ穴前」で降りてね。疑われるといけないから、虫取りのアミとかカゴがあるといいとと思う』

 どんどん話が進んでる。

 

 その後、リーダー格の子(小6の女子)が行き方を説明していた。そしたら、何と全員が行くと返信していたんだ!

 まさか、嘘だろ!


 急いで『俺も行く』と送った。

  

 それからも、やり取りは延々と続いて、実行日は今度の水曜日になった。親には早朝に公園に行って、そのまま友達に家に行くと嘘をつくことになっていた。後は、GPS機能で追跡できないように、オフにするようにというアドバイスもされていた。何て用意周到なんだ。その労力をもっと別の所に使えばいいのに・・・。


 行き先が青木ヶ原樹海だから、もしかしたら、心霊スポット巡りかなとも思ったけど、『首つりが一番楽』と書かれていたので、やっぱり集団自殺するつもりなんだと確信した。警察に通報すべきか迷ったけど、釣りかもしれないし・・・俺自身も年を胡麻化してチャットをやってた理由を上手く説明できる気がしなかった。


 俺はその日を含めて何日か有休を取った。

 もしかしたら、永遠の有休かもしれない・・・ちょっと怖くなった。俺は今はもう死にたくない。

 

 でも、子供たちは死に向かって行進を始めたように思えた。

 灰色の影がザクザクっと虚空に向かって進んでいるような。

 もう、そのグループは暴走し始めていた。

 途中で気が変わる人がいたとしても、グループだと途中でやめることが許されない。


 当日乗る列車も指定されていた。お金がないという子には、リーダーがLine Payで送金するって書いてあった・・・。最後だから、貯金全部降ろすとその子は言っていた。


 東京駅から河口湖駅までは、特急を使っても2時間40分くらいかかる。

 青春18切符とかだと時間がかかり過ぎて、親に気付かれてしまうからだ・・・。


 俺も指定の特急に乗ったけど、座席指定だったから、参ったなと思った・・・。

 予約は各自でするから、席はバラバラだ。

 特急に乗ったら、虫取りのアミと籠を持った小学生が何人もいるだろうと俺は踏んでいた。


 俺は最後尾の電車に乗って、座席を探すふりをして電車の中を歩いて行った。

 平日だから空いていた。

 一番多いのは中高年だった。若いカップルもいた。

 その特急は長野県に行く電車でもある。帰省予定の大学生とかもいるだろう。


 しかし、意外なことに親子連れはいても、子供だけで乗っている子はほぼいなかった。あれ・・・俺はおかしいと思った。何でだろう・・・みんなやめたのかな。


 でも、たった一人いたんだ。

 それらしい子が。

 

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