第2話 ライングループ

 俺はネットで知り合った人に会ったことはあまりない気がする・・・。

 出会い系、ネットオークションでの手渡し、趣味のオフ会とかはあった・・・。男だし・・・そんなにリスクはなかったと思う。

 でも、ここ10年くらいはない。


 俺が携帯アプリで知り合った小学生たちは、家が近い者同士でライングループを作り始めた。会うことが前提なんだ・・・。随分、危なっかしいと思う。


 俺は取り敢えず、江戸川区の中学生ということにした。

 江戸川区の中学生は1万5千人くらいいる。東京23区内では上位だと思う。これは千代田区の1.8倍以上だ。


 みんな、Lineグループを始めると、不特定多数に見られていないと思ったのか、家のことを明け透けに話し始めた。

 親と仲が悪いとか、ママが弟ばっかりかわいがるとか、親に暴力を振るわれているとか、勉強についていけないとか・・・。学校に友達が全然いない子や、学校行ってない子もいた。


 俺もそういうやり取りを見ていて、自分の子供の頃のことを思い出していた。

 実家は清掃会社を経営していたけど、多額の借金があった。

 だから、いつも金がなくて、母は社長夫人なのに、毎日清掃員の仕事をしていた。

 そんな状況にも関わらず、父は会社の事務の人を長年愛人にしていた。

 母も知っていたと思う。

 家は本当に暗くて殺伐としていた。特に父と兄が険悪だった。


 それに、兄は大学進学で上京するまで、俺に暴力をふるっていた。俺は部活でも先生に殴られるし、暴力が日常になっていた。やり返したことはない。どちらも逆らえない相手だったからだ。

 

 母は常に兄と俺を比べ、俺がどんなに頑張っても絶対に褒めてくれなかった。

 だから、俺はずっと自分に自信のない子供だった。

 今考えると成績も良くて、スポーツも大体出来て、顔もまあまあだったのに、何をやっても駄目だと思っていた。

 とにかく、自分ができないことに目が行ってしまうような子供だった。

 絶対に超えられない兄という壁があったからかもしれない。

 兄は神童として近所で有名だったから、俺はずっと〇〇の弟という感じだった。


 こういうのはどこの兄弟でもあるのかもしれない。

 古いけど、渡哲也と渡瀬恒彦兄弟みたいな。

 女の子だと、浅田真央ちゃんとお姉さんみたいな・・・。舞さんだ。

 俺はお姉さんの方がタイプだ。

 色気があって美人だし・・・スタイル抜群だ。


 でも、本人は男にもてるとか、そんなのではコンプレックスを補完できないだろうなという気がする。これは俺の妄想だけど・・・。俺だって兄より稼いでいた時でさえ、ずっと自分が劣っていると感じていた。


 とにかく・・・誰でも何かしら、コンプレックスや悩みはあるとは思う。


 そのうち、メンバーの1人が「もう、生きててもいいことないし、死んじゃおうかな」と言い出した。すると他の子も「私も同じことを思ってた」と書き始めた。

 そして、みんなが「死ぬ」、「死ぬ」とそれに呼応しだした。

 こういう負の感情は伝播しやすい。

 あっと言う間に「死にたい」というのが、そのライングループの共通の話題になっていた。俺もライングループから外されないように「死にたい」と書いて送った。


 それからは、毎日ハラハラしながらそのライングループのやり取りを見ていた。普段は学校のことや趣味のこと、TikTokやゲーム、YouTubeなどの話題で何時間もやり取りをしていた。恐ろしくどうでもいい話ばかりだった。その子たちは、膨大な時間を無駄に費やしていた。塾に行っている子がいる傍らで、そんな風に過ごしていたら、将来は貧困層に落ちてしまうだろう・・・と、他人事ながら思った。

 まあ、俺には関係ないけど・・・。


 でも、時々、死にたいという話になっていた。

 やっぱり、そんな風に過ごしてると将来がないというのに、本人たちも気が付いていたんだろうか。


 そのうちみんながどっかで待ち合わせて一緒に・・・って風になるんじゃないかとハラハラしていた。その中に、俺みたいな、大人が混じっているかもしれないからだ。俺は良心的なおじさんだが、猥褻目的の人がいるかもしれない。

 でも、意外と具体的に会うという話にはならなかった。


 いつもいるメンバーは9人だった。

 小学生8人と偽中学生の俺。小学生のうち女の子4人、男4人。

 いい感じで合コンができる。

 みんな高学年だった。そのくらいが、親がスマホを買い与える時期だからだろう。

 

 俺はそのLineを3ヶ月くらいやってたと思う。

 その中に、特に深刻な子がいて、両親に暴力をふるわれていたらしい。

 なぜ、そうなってしまったのか、理由はここには書けない。


 俺はどうしていいかわからなかった。

 事実かわからないからだ。

 人の気を惹きたいだけかもしれないし、親もやばそうな人たちだったから。

 殴られてケガして何度か病院に行っていた。

 そしたら、病院が警察に通報しないだろうか・・・。

 そのままっておかしくないか?


 そして、そのうち「一緒に死ねる人いない?」となった。

 


 





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