第2話 冤罪と理不尽な罰

看守から面会に来ると聞いたのは、ギルドセーバー2番街総括のクリスティーナ、ギルド本部長のラインバルド、そして俺を裏切り、パーティーを危険にさらしたジルク・カルフォスの三人だ。

ジルクの名前が出たときは腸が煮えくり返る思いだった。騒動の首謀者がのうのうと街を闊歩していて俺はパーティーメンバーの殺人未遂容疑で拘束中というのがやっぱり納得いかない。

すでに拘束から10日経っているし、今日こそこの拘束に見合った話が聞きたいものだ。


最初に面会に来たのはギルドセーバーのクリスティーナだった。

この牢屋には魔力障壁が張り巡らせれ、分厚く重い枷もスキルの発動を妨害する仕掛けが施されている。そのため面会といっても専用の部屋などは無く、牢屋の鉄格子を挟んで対面となる。

クリスティーナは立っている俺にくつろぐように手を挙げた。


「ギルドセーバーのクリスティーナ・ブランシュタングだ。10日ぶりだな。」

「ああ、もう待ちくたびれていたよ。枷や鎖で行動は制限されるし、硬い床で寝るのは辛いし……。」

「ハハ、そうか。それはすまないな。しかし減らず口が叩く元気があるなら大丈夫なのだろう。今日は君の取調べとジルク・カルフォスの聴取をもとに、明らかになった事実などを話したいと思う。」


クリスティーナを前に思わず軽口を叩いてしまったが、どうやら気にしてはいないようだった。

ジルクがギルドセーバーにどう話したのか気になるところだ。助けを要請した時にはすでに虚偽を話しているようだったし、まともなことは話していないだろう。

しかし話の腰を折っても先には進まないし、ここはクリスティーナの話をしっかり聞くことにしよう。

俺が静かに頷くとクリスティーナも話し始めた。


「まずは今回の騒動は片足にケガを負ったジルク・カルフォスがギルドに助けを求めたことがきっかけだった。助けを求める際にジルク・カルフォスは迷宮内でパーティーリーダーのリオンが突然襲ってきたと話をしてる。また彼が貴族を名を出して助けを求めたため、大勢のギルドセーバーを動員するに至った。これが君が迷宮を出てくるまでの経緯だ。」 


あれだけのギルドセーバーを集結させるのはよほど大きな力が働かないと無理だ。その理由が貴族の名を出したことに由来していたのだ。

そもそも貴族とは迷宮塔国が興ったときに、功績を挙げた者の末裔たちのことを言う。総じてこの国では貴族派とも呼ばれ強大な権力を有している。

要請をしたのはカルフォス家だがその裏で貴族派が圧力をかけたのかもしれないな。

次にクリスティーナはジルクの事情聴取の内容や様子について詳しく話してくれた。


〜〜〜〜〜〜〜


~ジルク・カルフォスの事情聴取~

「事情聴取にご協力いただきありがとうございます。ジルク・カルフォス殿。」

「いや、こちらこそ先日は要請に応じてくれて感謝している。生命の危機を感じていたのでな。」

「では先日の騒動について状況をお聞かせ願えますか?襲われた状況なども詳しく。」

「わかった……先日私はパーティーのメンバーと共に迷宮探索をしていた。経験値稼ぎに適した迷宮があると酒場で聞いてな、私が提案して探索に行ったんだ。まさかあんなことが起ころうとは、全く思いもよらなかった。」

「ふむぅ…あんなこととは?」

「それは……リオンによるパーティーメンバーへの急襲だ。奴は階層をつなぐ階段で突然襲ってきた。不意打ちに近い攻撃だった。私は間一髪のところで避けれたが、レオナとミーナは攻撃を受けてしまい瀕死の重傷を負ってしまった。私も必死に応戦したが、足場の悪い場所での戦闘で近接攻撃職に勝てるわけもない。リオンが抜き放った斧の攻撃によって片足の腱を切られてしまったのだ。しかしそれでも何とか奴を階層に追いやることができ、アイテムで二人を転移させた後、命からがらギルドに助けを求めに行ったのだ。」

「なるほど。しかしそれだとリオンの取調べの供述と食い違う点がいくつかありますね。リオンの話だと不意打ちで襲ってきたのはジルク・カルフォス殿で負傷した二人を転移させたのは自分だと話していましたが…」

「フッ、それは奴の虚言だ。まさか貴族である私ではなく、容疑がかかっている奴の言い分を聞き入れるわけではあるまいな。そんなことが許されると思うなよ。」

「現時点で、立場上どちらかの意見も鵜呑みにするようなことはできません。ご理解ください。」

「チッ、気分が悪い。私は所用を思い出したのでこれにて失礼させてもらう。」

「ご協力ありがとうございました。取調べ等の内容などと照らし合わせながら検証していきますので、結果が分かり次第ご連絡致します。」

「フン、好きにしろ。」


〜〜〜〜〜〜〜〜


というのがジルクの事情聴取の内容だという。最初から最後まで嘘を吐き続けられる、その胆力だけは認めてやらんでもないが嘘は嘘。

本当に腹立たしい。壁やら鉄格子やら殴りつけたい気分だが、クリスティーナの手前自重した。


「以上がジルク・カルフォスが話した内容だ。この聴取と君の取調べの内容から今回の騒動での真偽を検証し、以下の三つのことが証明された。」


〜〜〜〜〜〜〜〜


〜検証結果〜


一つ、ジルク・カルフォスが片足に受けたケガについて。このケガは検証の結果、斧のような形状の刃物によってつけられたことが判明した。

ジルク・カルフォスの証言ではリオンにつけられたとのことだが、それを裏付ける証拠は出てきていない。またリオンの証言のジルク・カルフォスが、偽装工作のために自傷行為をしたということも証明できていない。よってどちらにも犯行が可能。


二つ、リオンのパーティーメンバーへの急襲について。ジルク・カルフォスの証言ではリオンがパーティーメンバーを急襲し、レオナ、ミーナの両名が重症を負ったとのことだった。しかし医療所での診断によると、今回一番深刻なのはケガより魔力枯渇とのことだ。またケガも剣や斧などによると切傷などは見られなかったとのことだ。

この時点でリオンの急襲にてレオナ、ミーナの両名が重症を負ったとの証言が虚言であったことの証明となった。


三つ、レオナ、ミーナの両名をアイテムで転移させた人物について。この証明は簡単だ。冒険者専用の医療所には転移させられた者が、どのような経緯で転移させられたか履歴がつく仕組みになっている。そこには誰がどのアイテムで誰を転移させたかが履歴として残る。これによりリオンが【緊急転移の巻物】で転移させたことが判明し、ジルク・カルフォスの証言が虚言であることが証明された。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「この三つがギルドセーバーによって証明された真実となる。本来であるならば、いまだ意識を完全に取り戻していない二人の証言も参考にするのが普通なのだが、……貴族派から事態の早期収拾の声が上がっており、圧力もかけてきている。」


貴族派からの圧力か。そういう話はよく聞くのものだが、自分のこととなると鬱陶しい限りだ。しかし貴族派にもメンツというものがあり、多分引き下がりはしないだろうな。


「なるほどな。と…いうことは二人の証言を待たずに罰が確定になるってことか?」


「そうだな。可能性があるという話だが、おそらくそうなるだろう。しかしこれ以上の話はギルドセーバーの領分から逸脱する。ここから先は次に来所となるギルド長から伺うといい。」


クリスティーナは不服そうな顔をしていた。初めて相見えたときから思っていたが、彼女は本当に公正で真面目な人柄をしている。俺が言うのもなんだが、容疑者にここまで親身になる必要はない。ギルドセーバーとして見たら、今回みたいな騒動はよくあると言えばよくあることなのだ。よくあることほど慣れが生じ、対応も雑になるものだ。それなのにクリスティーナは俺の話を親身に聞いて、今も貴族派の圧力を不服に感じてくれている。俺は素直な気持ちになり、気付けば自然に頭を下げていた。


「クリスティーナ、あんたの心遣いに感謝する。俺の中でまだ色々と納得いかなくて処理できていない感情はあるが、あんたが親身になってくれたおかげで少しは気が楽になったよ。ここから先はあんたが言う通り、ラインバルドを問い詰めるとしよう。」


クリスティーナは少し驚いたという表情を見せたがそのあと表情を緩ませる。


「ああ、ありがとう。そう言ってもらえると私としても気が楽になる。だがギルド本部長を問い詰めるのは勘弁してくれ。多忙で何かと責任が多い方なのだ。」

「あぁ冗談だよ、真面目だなぁ。問い詰めはしないさ。ちゃんと話を聞いておくよ。」

「そうか、では私はこの辺でお暇しようと思う。ギルド本部長は正午前の到着となる見込みだ。それまで時間が空くが、少しの辛抱だ。待っていてくれ。」


そう言うとクリスティーナは手を挙げ、踵を返す。出ていく間際に一言「君の未来に幸多からんことを」とつぶやいていたのがかすかに聞こえた。


~~~~~~~~


そのあとのことだが、ラインバルドがなかなか来ない。クリスティーナが言っていた時間はとっくに過ぎている。牢屋には時計はないが高所に窓が取り付けられているため、そこから差し込む光の加減で大体の時間はわかる。

午後のティータイムの頃合いだろう。

牢屋に入れられて10日間。時間が過ぎるのがこんなに長く感じられたことはない。変に待ち人などいるからだろうか。クリスティーナにああ言った手前どうかとも思うが、問い詰めてやるからさっさと来いラインバルド!

そこから更に時間が過ぎた。気づけばかなり日が陰っている。気づけばと言うのは、あのあと待ってるのが面倒になって結局居眠りをしてしまったのだ。

俺があくびをし、頭をかき、寝ぼけ眼を擦っていると目の前に大男が現れた。ラインバルドである。元1番街序列250位の冒険者、限りなく頂点に近づいた男は、冒険者を引退した今でもその肉体に衰えを知らず、スーツもぴっちぴち。

この国一スーツが似合わない男代表。もっとラフな格好をすればいいのに。暑苦しい。


「やっと起きたか。」

「いや、それ俺のセリフだから。」

「あ?お前なぁ、今の自分の立場わかってるのか?確かに半日遅れは悪かったが、あるだろ?態度というもんがよぉ。」


ラインバルドは腕組みをしてため息をつく。そうだった、俺今一応罪人だったんだった。クリスティーナと話して気が落ち着き、居眠りして気が抜けていた。俺は不貞腐れるのをやめて姿勢を正す。


「まったく…じゃあ本題に入るぞ。貴族派と協議してお前への罰を決めてきた。苦労したんだぞ、これでも。」

「あぁ、貴族派か。わかったよ。ここからちゃんと聞くからよろしく。」

「よろしい。聞く姿勢も取れたようだな。ちょっとショックが大きい話になるから心して聞くように。」


いつも単刀直入に話をするラインバルドらしくない言い回しだ。俺に気を遣ってくれているようだ。疲れているように見えるし、貴族派との協議も結構厳しかったのだろうな。

ちゃんと聞かないと失礼にあたるだろう。


「今回の騒動は貴族派からの介入が特に多かった。ギルドやギルドセーバーへの圧力やジルク・カルフォスの保護。あとお前のこの長い拘束期間も貴族派からの要望だ。」

「通りで。普通より長いんじゃないかと思ってたんだよ。それにレオナとミーナの話を聞かないのもおかしいだろ。」

「それも貴族派からの圧力が原因だ。そもそも何故こんなに介入が多いのかというのもひとえにジルク・カルフォスの存在だ。」

「それはどういうことだ?カルフォス家ってそんなに権力があるのか?」

「いや、カルフォス家自体は重要ではない。ジルク・カルフォスが重要なんだ。」


ジルクが重要?俺は首をひねる。


「実はな、いま三番街以上の冒険者の中に、貴族派から排出した冒険者は5人しかいないんだ。一番街に1人、二番街に1人、三番街に3人。この内情はギルドの上層部しか知らない情報だ。他言するな。これは貴族派が巧妙に情報操作して、表沙汰にならないようにしてるからだ。」


確かに聞いたことはないな。貴族派は偉そうなやつばかりだから、てっきり上の番街は貴族派ばかりだと思い込んでいたな。


「言われてみれば見るからに貴族ってやつはあまり見たことないな。まぁでも、ここまで結構な駆け足で来たし、そんな気にしたこともないけど…。」

「まぁそうだろうな。貴族の連中も冒険者家業は多少肩身が狭い思いもしてるだろうから、表立って自分が貴族だと明かすやつも少ない。貴族派も隠してるし、そうそう気づくやつはいないだろう。」

「なるほどな。」

「ジルク・カルフォスは二番街序列1420位、貴族派にとって、一番街昇格に大手をかけてる最重要人物というわけだ。だからこの騒動、全てリオンに押し付ける気でいたらしい。」


一番街に上がった時点で勝ち組確定なわけだし、現時点ではジルクは正しくうってつけってわけだ。それにしても俺にすべて押し付けるか。嫌な予感しかしないな。


「それで今日の貴族派との協議、最初に言われたのは容疑者リオンの無期限の懲役か死刑の二択だった。耳を疑ったぜ、そこまでするかとな。」

「はぁ?ふざけるな!冤罪で死刑になんてされてたまるか!」

「ああ、そこは突っぱねたさ。それこそふざけんな!ってな。お前たちは俺としても、ギルドにとっても期待しているパーティーだったからな。そんなことは何が何でもさせはしない。だがギルドセーバーの検証の通り、お前を無罪放免にするには証拠が足らなかった。」


レオナとミーナの話が聞ければその証拠も揃うだろうに、本当に面倒だな。


「というわけで今日の協議は苛烈を極めたわけだ。連中の話をバッサバッサ切りながら俺の話をねじ込んでいったんだが、正直なところ最低ラインしか守れなかった。」

「いやまあ、その最低ラインっていうのが気になるが本当に気苦労かけたみたいだな。話し合い、折れないでくれてありがとな。」

「悪いな。それで協議の結果だが、ジルクへの補償、リオンへの罰と譲歩の三つの視点で結論が出たから説明するぞ」 


〜〜〜〜〜〜〜〜


〜協議の結果〜


一つ、ジルク・カルフォスへの補償について。今回の騒動で片足に受けたケガのせいで冒険者活動ができない期間の序列の自動降格はケガが完治するまで無効とすること。


二つ、容疑者リオンへの罰について。まず序列を剥奪。剥奪した序列はジルク・カルフォスのものとなる。序列剥奪により冒険者の権利を一時剥奪。

またジルク・カルフォスの損失の補填としてリオンは現在保有している金銭類の半額分をジルク・カルフォスへ寄付すること。これには一部装備品なども該当する。


三つ、リオンへの譲歩について。前述で冒険者の権利を一時剥奪しているが、今後も冒険者として活動するのであれば新規の冒険者登録となり、10番街序列最下位から始めることを許す。また今までに獲得したジョブは今まで通りの使用を特別に許可する。


〜〜〜〜〜〜〜〜


「以上が協議で決定したことだ。とても良い条件とは言えないができる限りのことはしたつもりだ。」


頭を下げようとするラインバルドを俺は片手を上げることで制す。ラインバルドは無能ではない。そのラインバルドが手を尽くしたってことは、貴族派が提示した内容がとても容認できるものではなかったってことだ。

死刑がダメなら無期限の懲役、それがダメなら冒険者の資格の剥奪。貴族派はなんとしても俺を表舞台から葬り去りたかったんだろう。理由はジルクを害されるのを恐れたためか。身勝手な考えだ。納得なんてできるか!ふざけるな!


「なぁラインバルド、この決定ってのはもう覆らないのか。」

「そうだな。覆すのは無理だろうな。行政区もこの決定を承認してるからな。」


行政区と言うのは一番街にある国の行政を担う者たちのことだ。ギルドや貴族派が出した案件を最終的に承認する役割も担っている。


「はぁー、じゃあこれ以上の食い下がってもいいことはない…か。」

「悪いな。納得は行かんだろうが、我慢してくもらうしかない。」


ラインバルドは拳を握りしめる。ぴっちぴちのスーツの腕が更にぴっちぴちになる。至らぬ点を悔いているようだった。ラインバルドはギルド本部長、一番街から十番街までのギルドを仕切っている。そんなラインバルドでも手を尽くしてもどうにもならないことがあるということだ。


「わかったよ。納得は到底できないが決定したことには従うよ。」

「そうか、ありがとな。じゃあこの場にて罰を執行するからギルドカードを預からせてくれ。」


俺がギルドカードを渡すとラインバルドは何やら操作し始めた。


「ギルド本部長特権を使用、先程話した通り、まず冒険者の序列の剥奪とジルク・カルフォスへの譲渡。リオンの序列が二番街682位から十番街最下位103058位に降格。ジルク・カルフォスの序列が二番街1476位から二番街682位に昇格。」


ラインバルド持っている俺のギルドカードの色が変化し、裏面にあったニという数字が十に変化した。本当に十番街からの再スタートなんだな。実際に目の当たりにすると結構キツいものがあるな。


「次にジルク・カルフォスの損害への補填についてだが、リオンが所有している金銭の半額分を補填とする。また所有している装備品の中から一つだけ損害への補填として接収することとなる。装備品の名は炎竜魔杖マグナ・イグニート。アイテムボックスから出して装備品をこちらへ渡してくれ。」


「やっぱりこの武器を要求したか。ウォーロックの装備にはうってつけな武器だし、前々から譲ってくれないかと言われて、何度も断っていたからな。」


この武器は三番街にいたときに俺がパーティーに内緒で入った迷宮で手に入れた正真正銘の迷宮産だ。あのときは予期せぬ階層主の出現に戸惑いながらも必死で倒し切って、レアドロップで手に入れたんだよな。

普通に売っても金貨数百枚、オークションなら白金貨で値がつく代物だ。また魔法職のジョブを扱うときに重宝するだろうと保管していたんだけど、ジルクに渡す事なるくらいならいっそのこと売り払って冒険資金にしておけばよかった。

損害補填の金額吊り上げでなんとかならないかな。俺はアイテムボックスから炎竜魔杖マグナ・イグニート取り出してラインバルドを見やる。


「なぁラインバルド、武器の代わりに損害補填の金額上乗せとかでなんとかできない?」

「いやー、無理だろうなー。もともとジルグの要求はその杖だけだったんだよ。金のことは二の次だったんだ。金銭要求は貴族派が追加しているんだ。」

「はあー?何だよそれ!絶対金銭は貴族派が懐に入れるつもりだろ!そんなの許されないだろ!」

「そうは言ってもなぁ、この内容で行政区がGOサインを出したんだ。覆らんし、これ以上の面倒はごめんだぞ!迷宮産ならもう一度ドロップがある可能性もあるだろうし、観念して杖を渡せ。」


「ドロップあるだろって、これレアドロップだぞ!そう簡単にあってたまるか!……はぁ〜、無理か。」


言ってみたけどやっぱり無理だったか。それにラインバルドあの反応は、これ以上に面倒な罰が来るかもしれないということだろう。本当に不服だけど、ラインバルドの顔をつぶすと味方がいなくなる。俺は渋々牢屋の鉄格子の間から杖を出し、ラインバルドに渡した。


「よし。これで終わりだな。リオン、ご苦労だったな。尚、貴族派からはお前の序列の降格に際して刑罰を執行したときから48時間以内に二番街から十番街に移動するようにと要求があったがそこは突っぱねておいた。それでも猶予は1週間程度だ。有効に使うように!以上!今日はもう遅いからここで過ごし、明日の朝釈放となる。」

「ふぅ~、了解した。」


長い一日だったなぁ。気づけばもう夜の10時過ぎという時間帯だ。ここには時計はないがラインバルドの腕時計が遠目に見えた。ん?でも確かにラインバルドのあとはジルクが来るんじゃなかったか?今日の朝に看守から聞いた中にジルクの名前は確かにあったはずだ。まあ最後の最後にジルクに会ったらまた怒りがぶり返してきそうだから嫌なんだけど、ラインバルドに聞いて見るか。


「ん?ジルク・カルフォスの面会か?」

「そうだよ、今日の朝看守から聞いていたんだけど。」

「ああ、それは朝の時点では来る予定だったが貴族派がとの協議のときに俺から断りを入れたんだよ。ジルクがどうなろうと今となってはどうでもいいが、お前の立場が更に悪くなることは避けたいと思ったんだ。会ったらお前、多分怒りが収まらないだろ?」

「まぁ、それは否定できない。」

「だろ!だから俺に感謝して今日はここで寝てろ。」

「ああ、わかった。素直に感謝するよ。ありがとな。」

「明日の朝、釈放のときにまた来るからな。」


そう言ってラインバルドはその場をあとにした。一人残された牢屋で俺はぼぉーと宙空を見上げる。そこにはなにもないけど、脳裏には今もまだ鮮明にパーティー黄昏トワイライトとして活動した記憶が残っている。

裏切りには今でも憤りを隠せない。ジルクがいつから裏切りを企てていたのかは本人に問いただす他に知る方法はない。

でもあの頃は本当に楽しかったんだ。パーティーメンバーの三人といるのが心地よくて、頼りになって、このパーティーならどこまでも、一番街までだって行けるって本気で思ってた。でもこの夢は潰えたんだな。

ここから先、俺は降格して十番街から再スタート。ジルクは迷宮で話していた通りなら、別のパーティーに加入して二番街から冒険者継続。レオナとミーナはとりあえず療養に専念してもらう。その先、冒険者を続けるかどうかはじっくり決めてもらうとしよう。

今日は疲れたなぁ。夜も遅いし、明日に備えて寝よう。俺は硬い石畳のボロ布の上へ横になる。明日からのことはとりあえず明日考えよう。

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「ギルガメッシュ」 〜伝説のジョブ「武器士」で迷宮塔の頂点を目指す〜 花舟 @odamaki99

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