第3話 正体

 晩餐会が終わって給仕の少女達が帰る間際に声掛けた。


 少女は裏庭に入った。正確に言えば僕が連れ込んだのだ。


「この教会はどうなっているんだい?」

 

 性急な質疑の意味を少女は理解出来ているが、諦観の雰囲気が漂っていた。


「あの通りです。でも、あれでも大分善くなりました。英子さんのお陰です」

「英子さん?」


 晩餐会で唯一目立っていなかった大人しそうな女性か。書類上では輝かしい歴史を歩んでいる。この教会生まれで東京大学卒業後、米国の留学を果たしている。心理学、数学、神学の三つの博士号を取得。米国の名立たる企業に名を連ね、突如帰国。理由はよく判らないが学会から除籍されている。論文も現存していないと向こうの国立情報管理センターに確認済みだ。

 

 一風変わった人物だ。情報を聞く限り、英子さんが一番まともな人物に感じる。


 他の少女や少年達も英子さんに多大な信頼を置いているらしい。


 何かあったら英子さんとの繋がりを作って行くのが心強いかも知れない。


 今日は疲れた。会員達も部屋に戻った為に話に行く雰囲気じゃない。


 大人しく部屋で休むとしよう。


 牧師館の一室はやはり異臭が漂っていた。本当にスープの残り香か? どうにも腑に落ちない。床下を見ると異変に気付いた。


「一部が釘打ちされていない」


 しかも釘が外された跡がある。


 試しに部屋に置いてあった杓子定規で隙間を入れて持ち上げると簡単に持ち上がって。


「うっ」


 異臭が更に強くなる。何かが見える。赤黒い大きな何かが。釘の抜けている床を音も立てない様にそっと床を外した。すると中から腐敗した人間の胴体らしきものが出てきた。


 人間の胴体? しかもばらばらにされている。


 警察に通報すべきか? いや、それは出来ない。今日の晩餐会で判った。皆何処か狂信者めいた雰囲気があるのだ。まるで自分達の正義感を疑っていない。彼らの経済力が何処まで及んでいるか判らないが、地元の警察と親密過ぎでも困る。

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