第3話 不可思議な代議士

「元々は棺さんがコック長を務めていらしたのですよ」

 

 オーナーも兼任でね、と付け加えられた。


 なるほど、前回の事件を思い出す。人と調理する常軌性は逸していたが、技術に自信があったゆえかも知れない。


 中のお座敷に入ると各座席指定があり、幸いにも英知さんとは隣同士だった。英知さんの隣は代議士と秘書らしき人物が座っている。


「おお、これは英知先生。此度はお招き下さり、ありがとうございます。しかも秘書まで来賓扱いして下さる豪胆さ、今後の参考にさせて頂きます。それはそうと今日のメニューは私が持ってきたユッケがありましてな。棺さん程の腕前ではないが、直々に調理させて貰おうと思います」

「それは楽しみだ」


 奇妙な代議士だと思った。自分で調理の腕前を披露する人がいるが代議士は縁遠い話だと感じたからだ。


 祝賀会が始まり、町長の挨拶から始まり、その後は皆一様に食事を楽しんでいる。

 

 代議士は調理場に入り、ユッケの調理をしている。やがて運ばれてくる皿にはユッケがふんだんに盛り込まれていた。


「あー、あー、調理して下さった遠藤先生は何処かな?」


 すると秘書が「先生なら先ほどお手洗いに行かれました。何でも『食べ過ぎた』と仰っていました」


「ははは、先生らしいですな。ではお先に召しあがりましょうか」


 そう言われたのでユッケに手を付ける。


「美味しい……これ、教会の子供達に持って帰れないですか?」

「生ものですからね。難しいと思いますよ。遠藤先生には後で郵送して頂く様にお願いしておきますよ」

「ありがとうございます」

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