第2話 ますます深まる謎

「先生もまだ不慣れでしょう。赴任したばかりですから」

「ええ、と言うより教会員の皆さんの経歴が豪華絢爛たるもので」

「御謙遜を。先生、ご出身はハーバード大学神学部でしょう」


 疑問を持たずそのことに答えられたので少し呆気に取られた。英知さんは不思議なことなど一つもないとばかりに語り始める。


「教団の間では結構有名な噂ですよ」

「は、はあ」


 何がどう尾ひれが付いて噂が回っているか気が気でない。


「一風変わり者の牧師にして孤立主義な方と伺いましたが、実際はそうでもない様で」

「そうですそうです」


 僕がハーバード大学に入学出来たのは偶然なのだ。いや、奇跡と言っても良い。その話をすると長くなるのであまりしたくないが。とにかく学力に見合わないのに卒業まで行ってしまったのだ。


 その時、脳裏によぎったのが「人生の運全て使い切った」と言う思い。


 その後、おかしな先入観を持たれてしまい変わり者の異名を付けられたのだろう。


「ちなみに私はマサチューセッツ工科大学出身なのですよ」

「それは又凄まじいところですね。技術部門では当時世界一でしたでしょう」

「苦労しました。東京工業大学を出たのは良かったが、マサチューセッツ工科大学の高度な授業には苦戦しましたよ。やりがいは抜群でしたがね」

「それでまた何故トレーダーになったのですか?」

「ははは、単純なきっかけですよ。予測を立てるのに統計を用いる様が凄く理詰めで私にとって相性が良かった。今でいうデータサイエンティストの先駆けですな」

「はあ」


 聞けば聞くほど天才と思い知らされる。


「まあ、そんな私でも英子さんには頭が上がらんがね」

「それは……」

「それはまだ秘密ですなあ。逮捕された棺さんも英子さんのことは言わなかった。この教会のブラックボックスと言えば良いのか」


 謎がますます深まる。


「おっと、ホテルが見えてきましたね」


 何と言うか町の規模に見合わない豪奢なホテルだ。

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