探偵牧師物語 その弐
佐藤子冬
第1話 憂鬱な会合
深淵教会。ここは僕が牧会している教会だ。現住会員十二人。「しんえん」とは呼ばず「ふかぶち」と読む教会名が何ともややこしい。実際の会員数は三名だが、各々の名士で資産家であり、教会の財政を潤わせている。
実はこの教会で前に殺人事件が起きていたのだが、解決したのは一応僕と言うことになっている。その辺りから地元の警察との顔見知りになった。
今日は地元の会合に参加する羽目になった。
「見聞を広めることは素晴らしいですわ。是非とも行ってきて下さいな」
未亡人の教会員英子さんは微笑んで励ます。
英子さんはこの教会で一番信頼している人物だ。前回の事件にも一役かっている。なのだが、実は謎の経歴が多いのだ。東京大学を首席で卒業後、米国の大学に留学している筈で幾つかの博士号も取っている筈なのだが。なのだが、その卒論はどこにも残っていない。向こうの国立情報センターにも確認済みである。
「英子さんは行かれないのですか?」
「老兵は死なず去るのみ」
それはマッカーサー元帥の言葉だ。トルーマン大統領に嫌われて政界入りを果たせなかった。原因は朝鮮戦争で北爆を提案したことが大統領の逆鱗に触れたらしい。
「まあ、英知さんもいらっしゃることですから上手く人脈を使うことですね」
英子さんは英知さんを信頼なさっているご様子だ。教会員の英知さんは知る人ぞ知るカリスマ的トレーダーだったらしい。
人工知能の開発にも熱心で最近は株予測を人口知能に任せている。それは今日の会合にも関係していた。英知さんの造った新しい人工知能が株価の予測を的中させ、この町に莫大な富をもたらしたからだ。その祝賀会と言う訳だ。
と言うより英知さんも教会員である以上、僕の信頼を取り付けたいらしく来賓としてわざわざ招いたのがことの始まりだった。
「会合は苦手です」
「何事も経験ですわ。さ、行ってらっしゃいませ」
丁度、英知さんが車で迎えに来た。オープンカーとはこれまた意外な。てっきり高級車を乗り回していると思っていた。
「今日は海岸沿いのホテルで祝賀会ですからね。海風を当たるにはもってこいですよ。ささ、先生は後部座席でゆったりしていて下さい」
「いえいえ、折角なので親睦を深める為に助手席に座らせて下さい」
「ええ、構いませんよ」
そうして二人で出発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます