王妃様に延々怒られました。

「フランソワーズ、この後、少し時間があるかしら?」

不吉な笑みを浮かべた王妃様に私は固まってしまった。

これは絶対にやばいやつだ。私の頭は逃げる言い訳を考えるために必死に働いたのだ。


「いえ、王妃様、このあとはフェリシー先生の礼儀作法の授業があるのですが」

必死に考えた私の答えがこれだった。そうだ。王妃様もフェリシー先生は苦手のはずだ。


「ローランド夫人には私から言っておきます」


ガーーン!


終わった!


私の必死の答えは王妃様の一言で終わってしまったのだ。



「そうか、妃は未来の娘と話すのか。ではフランソワーズ嬢、また会おう」

陛下、待って下さい!

私の必死の叫びは無視されて陛下はサッサと行ってしまわれた。


グレースとピンク頭は面白そうに私を見て出ていったし、

ヴァンとジェドは悪そうにしながら、首を振って逃げて行った。

なんて冷たい奴らだ。


でも、まだアドがいる。彼ならば私を守ってくれるはずだ。


しかしだ。アドは私に軽く手を上げるとこれもまた、部屋を出て行こうとしたのだ。

私はそのアドの手を捕まえようとしてアドに避けられたのだ。


そんな…………


普通は自分の母親から婚約者を守るのが男の役目なのに……


アドは私を人身御供に残したのだ。


本当に許せなかった。


それに、何故か、帰ってほしいのに、そこに生意気な後輩のマドレーヌとその母親が残ったんだけど……

なんでこうなる?




「フランソワーズ、平民の相手をするのも大切ですが、あなたは今後アドルフの横に立ってこのエルグラン王国の王妃として恥ずかしくないように、各国の王侯貴族に対して接していかないといけないのです。

王妃という者はいかなる時も他の者に後ろ指を指されてはいけないのです。

あなたの礼儀作法は他国の王侯貴族と比べてまだまだです。

そのために今回は旧古代帝国より続いている由緒正しいシュタイン公国の公妃であらせられるセシール様とその御令嬢のマドレーヌ嬢にわざわざこの国に来ていただいたのです。

判っていますか? 

あなたのためですよ。


それなのに、何ですか? そのマドレーヌ嬢に、学園内では平民も貴族もないなどとお説教を垂れて。わざわざお呼びした私の身にもなってほしいのだけれど」

あっという間にお怒りモードに王妃様はなってしまった。


「判っているのですか? フランソワーズ」

ああ、これは全然よくない兆候だ。こうなったらもう王妃様は止まらない。


そこから延々王妃様のお小言が続いたのだ。


私としては別にシュタイン公国なんて、我がご先祖様のお情けで残された旧古代帝国の残滓に過ぎない。


現在力を伸ばしている帝国の足元にも及ばないし、領土の大きさでは、領地半減させられた我が公爵家の足元にも及ばないのだ。


そのような国と仲良くした所で、大した利益になるわけでもないと思うし、まあ、大陸中央部にたくさんある弱小国家と仲良くする時には多少有利になるとは思うけれど……。

それが何か役に立つことがあるのだろうか?


この大国エルグラン王国としては適当にあしらっておけば良いのではと思ったのは秘密だ。

それを言うと、また王妃様のお説教が10倍くらいになりかねないので、言わないけれど。


王妃様は何故か権威に弱いのだ。

ご自身も侯爵家出身で卑下することはないはずなのに、昔、陛下を同じく侯爵家出身のグレースの母と争って、勝ったは良いが、そのグレースの母と父の策略で伯爵家出身のヴァンの母が王妃になって、その後側妃として立てられたのだ。伯爵家出の王妃の下で。


その屈辱を忘れていないのだ。


ヴァンの母が早くして亡くなって今は王妃として立てられているけれど、その屈辱はいまだに忘れていないみたいで、未だにヴァンに対する態度は微妙だ。


そういった点から、息子のアドの婚約者にはラクロワ公爵家と争っている我がルブラン公爵家の私が当てられたというのもあるのだ。


旧帝国の権威なんて私から言わせたら吹けば飛ぶようなものなのに、王妃様にとっては大きな物に見えているのかもしれない。


それに付き合わされる私にとっては最悪なんだけど。


そもそも、私が礼儀作法マナーが令嬢としてなっていないのは判っているけれど、そんな面倒な事は適当で良いと私自身は思っているのだ。


傍若無人な母に比べれば私は十二分にマシな方だ。


そもそも、我がルブラン家は武のルブランなのだから。

小さいときから魔の森に1人で放り込まれて徹底的に鍛えられているのだ。

魔物相手に礼儀作法を言っても仕方がないではないか。

そんなの気にしていたら瞬殺されている。


眼の前の脳天気な3人は絶対に判らないと思うけれど。


礼儀作法の勉強するよりは魔術や剣術の訓練していたほうが余程国の役に立つと思うのだ。

そんなのは令嬢には必要ないと言われるけれど、母の教育方針がそれだったから仕方がないではないか。礼儀作法なんて気にしていたら死んでいるし。


それに礼儀作法とかややこしい事はアドに任せれば良いと思うし、優秀な文官も多いのだ。そう言う文官能力のある者をこの在学中に見つけて、やってもらえば良いのではないかと思っている。

メラニーとかオリーブとかノエルとかもいるし。

私が一番役に立つのは軍事力だと思うし、それ以外は別に私がやらなくて良いと思うのだが。


なのにだ。このセシールとかいう作法にばかり煩い小国の夫人、にまで、延々と

「フランソワーズは礼儀作法がなっておりませんね」

と言われる筋合いは無いはずだ。


「フランソワーズ。あなたはまだ恵まれているのよ。私なんて厳しい王太后様にどれだけ礼儀作法の事で注意されたことか」

王妃様は余程先の王太后様に礼儀作法の件でいじめられたらしい。


でも、私は王太后様にはいつもおかしをもらえてかわいがってもらった記憶しか無いのだけれど……何しろ私はお年を召した高位貴族方にはとても可愛がられていたのだ。

敵対するグレースのお祖父様にまで、「おかし頂戴」と強請り行ったのだとか。父と母には怒られたが、私の実のおじいちゃんには

「さすがフランは違う。あのラクロワにまでお菓子をもらったか」と笑って褒められたんだけど。


お菓子が絡むと私は無敵で、

「なんでフランばっかり」

とアドにもよく愚痴られていたけれど、おかしをくれる人はみんな神様だ。


私がメラニーにそう言うと

「あの気難しい王太后様に気に入られるなんてさすがフランね。皆、王太后様の前で緊張していたけれど、食い意地の張ったあんたはお菓子につられて喜んで会いに行ったから珍しかったんじゃないの」

そう言って呆れられる始末だけれど、そんな訳はないじゃない。


まあ、平気で王太后様の膝の上に乗って父とか母にも唖然と呆れられたけれど。

王太后様もそんな私を可愛がってくれたのだ。


決して図々し過ぎて可愛がられたということは無いはずだ。絶対に!


でも、このお小言、いつまで続くのだろう?


お昼も碌に食べられずにもう死にそうなんだけど。


お腹のなるのを必死に私は堪えていたのだ。


夜になってマドレーヌのお腹が鳴るまで延々と怒られ続けたんだけど。

でも、お腹の鳴る令嬢なんて礼儀作法がなっていないはずだ!



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散々な目にあったフランでした。

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