入学式でいきなり礼儀作法の先生にみんなの前で怒られました

翌日は入学式だった。

私はまた朝早くからメラニーらを叩き起こして顰蹙を買っていたが、そんなのは関係なかった。


「フラン、早いな」

食堂で私を見つけた朝練帰りのアルマンらが声をかけてきた。


「先輩って呼ばれて舞い上がっているのよ」

メラニーが目をこすりながら恨みがましそうに言う。

「さすが、フラン、そう言うところはブレないよな」

バンジャマンが言って笑ってくれたが、それは絶対に褒めていないよね。

「あんたたちもさっさと食べて手伝いに来てね」

私は食べ終わった食器を持つと立ち上った。


「えっ、フラン様、少し早いのでは」

オーレリアンが驚いて言うが、


「そんな事無いわよ。待っているからね。オーレリアン」

「えっ、いや、そんな」

慌てるオーレリアンを置いて、まだ半分寝ているメラニーとノエルを連れて私は入学式の会場の講堂に向かった。


「フラン、俺を手伝いに来てくれたんだ」

そんな私達を講堂にいたアドが喜んで迎えてくれようとした。


「ふんっ」

私はそんなアドを無視する。


「えっ、フラン、まだ怒っているのか?」

「……」

アドが慌てて聞いてきたが、私は無視した。

「いや、だからこの前は悪かったって」

アドが謝るが、私は許せなかった。

アドは悪ふざけであろうことか、礼儀作法に煩い王妃様の前で私に抱きついてきたのだ。


「フランソワーズ、公衆の面前でなんですか。あれは」

私がその後でどれだけ王妃様に怒られた事か。

でも、抱きついてきたのはアドなのだ。怒るのは自分の息子に怒ってほしい。

息子に怒るよりも私に怒るのは止めてほしいんだけど……

私も公衆の面前では恥ずかしかったのに。王妃様の周りにも多くのご婦人たちがいて


「まあ、王太子殿下と婚約者様の仲がよろしいのは良いことではありませんか」

「本当に。我が国の未来も明るいですわ」

噂好きなボンネット伯爵夫人までいたのだ。絶対にこのことが10倍くらいになって噂されるのだ。下手したら誰もいない部屋で抱き合っていたなんてハレンチな噂を流されたらどうするのだ。そんな噂流された日には、もうお嫁に行けないじゃない!

そう、メラニーに愚痴ったら

「何言っているのよ。あんたら婚約しているんだから、噂流されても問題ないでしょ。何ならそのまま結婚したら良いんだし」

白い目でメラニーに指摘されたんだけど、そう言う話じゃないし、まだ結婚は嫌だ。もっと遊びたい!

そう言うと更に白い目でメラニーに見られたんだけど、なんでだ?



ということでそれから私はアドにお冠なのだ。


「フェリシー先生。私もお手伝いしますけど」

私はアドを無視していつもなら近付きもしないフェリシー先生に聞いていた。


「まあ、フランソワーズさんが自ら手伝いを申し出てくれるなんて! あなたも先輩の自覚が出て来たんですね」

フェリシー先生は感激していたけれど、私も2年生になったのだ。いつまでも一年生のように甘えてはいられない。

私はフェリシー先生に各クラスの位置の前に掲示板を持っていくようにお願いされた。


「フラン、俺も手伝うよ」

「殿下は邪魔です。ご自身の仕事して下さい」

私はアドを邪険にして早速準備を始めた。アドもやることは山のようにあるのだ。生徒会の面々から次々に質問が来て私を構っている暇も無くなった。



「姉上!」

「義姉上!」

私が準備していると場違いな声がした。

弟のジェドと未来の義弟のヴァンだ。

「あんた達どうしたの? ここは中等部ではないわよ」

そうだ。弟らは今日から中等部の三年生のはずだった。


「僕ら飛び級してきたんです」

「飛び級?」

「そうですよ。成績優秀だと一年飛ばして高等部に入れるって聞いたので、そうしたんですよ」

「えっ?」

私は一瞬固まってしまった。

それは弟たちは優秀だから高等部に入れるのは判るけれど、そもそも王立学園は勉学するのもあるが、人脈を作るのが目的であるはずだ。特に彼ら二人は優秀なのだから飛び級出来るのは判るが、いきなり高等部に飛び級してきて良いのか? 色んな面で。


私がそう聞くと

「父上の了承は得ています」

と第二王子のヴァンが言い切ったのだ。

ええええ! 陛下もそんな事簡単に許して良いのか?


「義姉上、僕は姉上と同じE組なんです」

私の疑問は無視ししてヴァンが言ってきた。


「おい、ヴァン。元々それ考えたの俺だろうが。先に言うな」

「何言っているんだ。飛び級を考えたのは俺だろう」

「いや俺だ」

二人は私を前に喧嘩始めた。この二人が喧嘩するのはいつものことだ。

でも、この二人が私の真似て1年E組に入ったのか? 

だからそれを追って一部の貴族令嬢がE組に入ったんだと私は初めて悟ったのだ。


「ちょっとあんた達、何故ここにいるの?」

そこに一年生のクラリス・トルクレール公爵令嬢が二人に詰問してきた。


「ああ、クラリス、お久しぶりね」

「はい、フランソワーズ様。お久しぶりです」

私の挨拶に一瞬にしてクラリス嬢は笑顔で返してきたが、

「ちょっと弟君達に話して良いですか?」

「ええ、良いわよ」

私は少し驚いた。普段温厚なクラリスが何故か凄く怒っている。


「あなた達、何なのよ。あのメモは! 『後はよろしくお願いします』って三年生の私に生徒会長させるってどういう事よ!」

クラリスが完全にプッツン切れて弟たちに怒っているんだけど。この二人、ちゃんと引き継ぎもせずに私について留学していたんだ。クラリスが何の断りもなしに前年やっていた生徒会長をまた最後にさせられたらさすがに怒るのも判る。


「私がどんなに苦労したと思っているのよ。判っているの?」

「えっ、でも、クラリス先輩にしか頼めなくて」

「頼むってあんな紙切れ一枚で頼んだことになると思うの?」

「いやあ、時間がなくて」

「時間がないもクソもないわよ。いきなり相談もなしに生徒会長が留学するなんてありえないわよね。どういうことかじっくりと説明してもらいましょうか」

「いや、クラリス先輩。あれは仕方がなかったことで」

「どう仕方がないのよ」

クラリスの怒りの前に、さすがの二人もまずいと思ったみたいだ。


「だって姉上を1人でルートンなんて危なっかしくて行かせられなくて」

えっ、ちょっと待って、私が理由なの?

「確かにフランソワーズ様を1人でルートンに行かせたら、何をされ出すかわからないという心配は判るけれど」

えっ、ちょっとクラリス、そこは判るのはおかしいんじゃないの! 私はなにもしないわよ。確かに王国一つ潰してきたけど、それは頼まれたから仕方なしにしたことで……

横で頷いているメラニーもなんとか言ってほしいんだけど。

いや、駄目だ。メラニーに話させたら、絶対に頷いてもっと酷いことを言い出しかねない。


「残された私はどうなるのよ」

「いや、だってクラリス先輩ならうまくやってくれると思っていたし」

「だからってやられた方は溜まったものじゃないわよ。先生方から泣きつかれたから仕方無しにやったけれど、どうしてくれるのよ」

クラリスの剣幕は凄まじかった。それを見て、さすがの私も口をはさめないほど。


でも、私が悪いというのは断じておかしいと思うんだけど……


そう思って反論しようとしたときだ。


「はいっ、皆さん静粛に」

そこにフェリシー先生のアナウンスが入った。


「新入生の皆さん方もこの王立学園高等部に今日から入学したのですから、話していないで速やかに座りなさい。特に2年生のフランソワーズさん。一緒に騒いでいないで、一年生も揃ったみたいですから自分の席に戻りなさい」

私はフェリシー先生にいきなり注意されて真っ赤になった。

2年E組の方から笑い声が聞こえる。


「やっぱりフランね」

遠くのA組の方からはグレースの笑い声がした。

私は少しムツとして慌てて自分の席に戻った。


2年生になったのに、いきなりフェリシー先生に後輩の前で怒られるとは最悪だった。

グレースにもバカにされるし。

せっかく二年生になったのに。


でもこれだけでは終わらなかったのだ……


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