2年生になって新入生から『フラン先輩』と呼ばれて喜びました

「メラニー、おはよう!」

私はその日も元気一杯に隣のメラニーの部屋の扉を開けたのだった。


「ちょっとフラン、まだ夜が明けていないじゃない!」

目をこすりながらメラニーが文句を言った。

まあ、確かに、四月とはいえ外はまだ暗い。


「何言っているのよ、メラニー、私達今日から2年生よ。それに今日は新入生が入寮してくるじゃない」

私は周りの迷惑も考えずに元気一杯に言った。


「そんな事言ったってこんなに早く来るわけないでしょ!」

「良いじゃない。ついに私も先輩になるんだと思うと寝てなんていられなかったのよ」

「いや、それに私を付き合わせないでよ」

「まあ、そう言わずに、メラニー、食堂に行きましょうよ」

私は強引にメラニーを叩き起こしたのだった。


「もう、もう少し寝られたのに」「本当よね」

ブツブツ文句をメラニーとノエルを引き連れて私達は食堂に向かった。

先月演劇の練習がある時はメラニーが夜が明ける前に私達を叩き起こしたんだから、ブツブツ言われる筋合いはないと私は思う。


そして、今日は4月1日で今日から私も2年生なのだ。

そして、今日は新入生が入寮してくるのだ。その案内を私達2年生がメインでやる事になっていた。

私はやる気満々だったのだ。


前世では16歳で死んだので、高校の先輩なんてなったことはないのだ。もっとも病弱で学校なんてほとんど通えなかったけれど。今世、中等部では2年生を経験したが、皆、私を公爵令嬢として扱ってくれたので、先輩後輩という感じではなかった。

しかし、ここ王立学園高等部では身分差に関係なく皆平等なのだ。今度こそは純粋な先輩になれるはずだ。


「『フラン先輩』っ呼ばれたりして」

私は期待でワクワクして昨日もよく寝れなかったのだ。


「そんな事で朝早くから起こしてほしくないわ」

「本当よね」

「さあ、やるわよ」

二人はブツブツまだ言っているが、私はそんなのは全く気にしていなかった。


「フラン、その胸のバッジちょっと変じゃない?」

ノエルが聞いてきた。私の胸にはデカデカと『2年E組フラン』と名札をつけていたのだ。

「そうかな。でも、ちゃんと覚えてもらいたいから」

「そうよね。フランは見た目が幼いから下手したら一年生に間違われるかもしれないものね」

「何処が幼いのよ」

メラニーの言葉に私がムッとして言うと、

「えっ、全体的に落ち着きがなさそうだし、胸もないし」

「な、何を言うのよ、そんな訳ないでしょ」

私はメラニーの嫌味な言葉にカチンと来た。いくら胸が無いからって1年生に間違われる訳無いのだ。自分の胸があるからって言って良いことと悪いことがあるではないか。

私は朝食をやけ食いした。

ノエルが呆れた顔で見ていたけれど、そんなのは無視だ。



私達は朝食を食べると早速寮の前に机を出して準備を始めた。


「こんな朝早くから誰が来るのよ」

メラニーなんてまだブツブツ文句を言っている。


それにこの場に来ているのもまだ私達だけだった。


まあ、まだ8時前だ。流石に早いかもしれない。


今年の一年生は全部で200名。そのうち女子は約60名だ。

各クラスごとで新入生を案内するということで、我がE組の1年の女生徒は今年も去年と同じで10名だ。

10人だけを案内すれば良いのだ。


A組とかB組は女生徒も半分くらいいるので大変だがE組は10名だけなので、大したことはない。


「ああ、早くこないかな。新入生」

私は期待を込めて正門の方をみていた。

「こんな早く来るのはフランくらいよ」

メラニーがボソリと皮肉を言うが、

「何言っているのよ。去年は王妃教育を当日の夜までやってくれたから私は夜遅くにしか来れなかったのよ」

「それで前日の夜のレセプションいなかったのね」

「本来は出たかったんだけど、フェリシー先生と王妃様が中々許してくれなかったのよね」

ノエルの言葉に私はボソリと答えた。しばらく王妃教育も休みだと言うので本当にこってりと絞られたのだ。

それが終わってやっとしばらくは顔を見なくて済むと思ったのに、そのフェリシー先生が学園に先生として来るとは思ってもいなかった。


「すいません。在校生の方ですか?」

その私達の前に初々しい格好の新入生と思しき女の子が声をかけてきたのだ。


「そうよ。ほら、メラニー、やっぱり早くから新入生来たじゃない」

私は得意になって言った。


「すみません。王都に昨日着いて、迷ったら困ると思って早めに来たんですけれど、やはり早すぎましたよね」

恐縮して新入生は言った。


「ううん、全然大丈夫よ」

私はその新入生を安心させるために大きく頷いた。


「どこから来たの?」

「トゥーロンから来たんです」

「ああ、あの港町から来たの」

「トゥーロンをご存知なんですか」

私の言葉に女生徒が驚いて聞いてきた。


「私とメラニーは3学期にルートンに留学していたのよ。その時にトゥーロンに寄ったわ」

「凄い。留学できるなんて、先輩はものすごく優秀なんですね」

「ねえねえ、メラニー、聞いた、先輩ですって」

私は喜んでメラニーに自慢していた。


「えっ、先輩って呼んだらまずかったですか。ひょっとして皆さんはお貴族様なんですか?」

心配そうに後輩は聞いてきた。


「まあ、この二人は……」

「ううん、全然問題ないわ」

私はノエルの言葉を途中でぶった切っていた。

まあ、どのみち私が公爵令嬢だというのはすぐバレると思うが、バレるのは遅い方がいいのだ。


「本当に。この子ったら後輩が入ってくるって朝早くからハイテンションだったのよ。煩いから何度でも先輩って呼んであげて」

メラニーが余計なことを言ってくれるんだけど。


「で、あなた名前は」

「ヴァネッサ・ジボールと言います」

「ヴァネッサ、ヴァネッサっと、合ったわ。あなたもEクラスね」

私が喜んで言った。

「あ、先輩もそうなんですか?」

「そうよ。私はフランね。こっちはメラニーとノエル」

「よろしくね」

ノエルが挨拶する。

「よろしくお願いします」

初々しい後輩が頭を下げてきた。


「はい、これ。部屋の鍵よ」

メラニーが鍵を渡す。

「部屋にはどうやって行くんですか、フラン先輩?」

私は『フラン先輩』と言われてジーーンと来ていた。


「えっ、フラン先輩、どうしたんですか?」

「ああ、このバカは放っておいていいから」

「ちょっとメラニー、その言い方ないんじゃない」

私はムッとして言ったが、顔はにやけていた。


「私が案内してあげるわ」

「えっ、でもそれは」

「良いのよ。それが荷物ね」

私はその半分を軽々と持ち上げた。


「えっ、先輩。私が持ちますから」

「大丈夫よ。じゃあ行こうか」

私はそう言うとすたすたと先に立って歩き出した。

「す、すみません」

慌ててヴァネッサはついてきた。


「ここから階段を上がるのよ」

「あ、ありがとうございます」

私たちは階段を上がる。私はヴァネッサに合わせてゆっくりと階段を上がった。


「先輩みたいに、優しい方がいらっしゃって良かったです。王立学園は貴族の方が多いとお伺いしていたので、緊張していたんですけれど」

ヴァネッサが喜んで言ってくれた。

「この王立学園では基本は親の身分に関係なく、全て平等なのよ。この学園にいる限りは王子も公爵令嬢も関係ないから」

私は最初に大切なことを教えておいた。


「いや、それは建前だって母には言われたんですけれど」

「そんな事無いわよ。少なくとも2年E組では貴族も平民も関係なしにみんな呼び捨てでやっているわよ」

一部ジャッキーとオリーブが私を様づけで呼んでいるけれど、それは無視していいだろう。

「えっ、A組とかB組は貴族の方は多いかもしれませんけれど、E組に貴族の方がいらっしゃるんですか?」

「うーん、私の学年にはまあまあいるかな」

私は笑って誤魔化した。アドの馬鹿が色々やってくれたおかげで半分くらいは貴族だ。でも、今年は高位貴族なのに、平民クラスに入りたがる私みたいな奇特な奴はいないはずだからE組に貴族はいないはずだ。




そう、そのはずだったんだけど。

E組に来るやつは何故か、来るやつ来るやつ私が見知った中等部の後輩、すなわち貴族が多いんだけど、なんでだ?


「みんな、去年のあんたを真似てE組を選んだんじゃないの?」

メラニーの言葉に私は唖然としたんだけど。

確かにその可能性はあった。



「ちょっと、これはどういうことなの!」

そこに大声が響いた。

「私は、マドレーヌ・モラン子爵令嬢なのよ。なんで私の部屋が2階なのよ。2階は平民の部屋でしょ」

A組の方で1人の下級生が騒いでいた。

「そんな事言われても」

「あなたじゃ、話にならないわ。もっと分かる人間出しなさいよ」

A組の担当はどうやら男爵令嬢らしい。グレースは用があるとかでB組の者に頼んでいたのだ。でも、男爵令嬢じゃ、上の階位の令嬢に凄まれて対処しきれていないみたい。


私はため息をついた。

「ちょっと、そこの貴方。王立学園に在学中は全ての生徒は平等なのよ。親の爵位を傘に来て言うのを止めなさい」

仕方なしに、私は口を挟んでいた。

「はああああ、あなたE組って平民クラスじゃない。平民につべこべ言われる筋合いはないわ」

「えっ?」

私は一瞬固まってしまった。ここはエルグラン王国だ。留学先のルートン王国ではないのだ。なのに私を知らない貴族なんて、そんな奴がいたのか?

まあ、ペコペコされるよりはマシだけど。

しかし、貴族扱いされないのは良いが、この子、先輩に対する態度もなっていない。そこは私は許せなかった。


「ちょっとあの子、馬鹿じゃないの?」

「フラン様に逆らっているわよ」

「モランって北部の小さな子爵家でしょ。フラン様が息吐いたら飛んでしまうようなちっぽけな子爵家のくせに」

私の後ろの貴族の後輩共が言うのもこの子には聞こえていないみたいだ。

でも、ここは大人の対応をしなければ。私は珍しく、我慢したのだ。


どうやってこの子に理解させようか? 私が悩んでいた時だ。


「どうしたの? 平民の分際で子爵家の令嬢に楯突いたのがまずいとやっと気付いたの」

子爵家令嬢が更につけあがって来るんだけど、頭思いっきり叩いても良い?


「あなた何言っているの。そもそも、それが先輩に対する態度なの?」

私はむっとして叫んでいた。


「えっ」

私が怒ってずいっと前に出たことで流石に子爵令嬢もまずいと気付いたらしい。


「あなた、私は子爵家の令嬢で……」

「煩いわね。あなたが子爵令嬢だろうが公爵令嬢だろうが、関係ないわ。私はあなたの先輩の2年生なのよ。判っているの?」

私が凄むと

「い、いえ」

流石に私の怒りに怖気づいたみたいで、まずいと思ったみたいだ。助けてもらおうとA組の方を見るが、怒りモードの私に流石に助けようとするものはいないみたいだ。A組にはグレースもピンク頭もいないみたいだし、それ以外のものが私に逆らえるわけもない。


「判ったの?」

「はい、すみません」

私の怒り超えに子爵令嬢は思わず、謝ってきた。

「判れば良いわ」

私は微笑んで下がる。なんだか令嬢は涙目になっていたけれど、そこまできつくは言っていないのに。



「あーあ。フラン、一年生を泣かせて」

「可哀想に」

何故かメラニーとノエルらが生意気なその子に同情しているんだけど、そんなの、文句言ってきたあの子が悪いわよね。私は始祖の言葉そのままに行動しているだけなのだから。

でも、ここは、腐っても貴族社会の縮図王立学園だった。物事がこれだけで終わる訳は無かったのだ。


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ワクワクして朝早くに起きてしまったフランでした。

先輩として喜んでやっていますが、でも、最後の相手は、実は……

次話は今夜更新予定です。

お楽しみに!

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