第21話 公爵らが私が聖女を虐めると友人たちの善意を論って口撃してきたので、悪役令嬢になって反論することにしました

「どういう事だ。伯爵。フランがいじめなどするわけがないだろう!」

怒ってアドが言ってくれた。


そうだ。私は悪役令嬢になるつもりはないのだ。そもそも、ゲームでは散々フランに虐められて自殺したのは私だ。本を隠されたり破られたり落書きされたり、果ては池に後ろから突き落とされたりと散々虐められたのだ。だからそんな事を私自身がするわけはないし、そもそも、断罪されて処刑一直線は嫌なので、やるわけないのに! 伯爵は何を言い出すんだろう?


「デボア伯爵。私もフランソワーズ嬢は、もし気に入らないことがあれば本人に直接言うと思うぞ」

陛下までもがおっしゃって頂いた。そうです。もし気に入らなければ直接言います。虐めなんて辛気臭いことはやらないです。


「お言葉ですが、陛下、平民共が、『我が娘が、殿下がルブラン公爵令嬢に送られた花束をグチャグチャにした』と噂しているのです」

「事実ではないのか」

冷たい視線でアドが言う。


「滅相もございません。そのような恐れ多いこと、我が娘がするわけは無いではありませんか。そもそも我が娘は聖女なのです。そのようなことを聖女がするわけはありますまい」

私はその伯爵の言葉にはとても疑問だった。そもそも聖女たる者が男とみればベタベタくっつくのか?


「まあ、ローズ嬢は聖女だからな。聖女がそのような邪な考えを持っているのならば、聖女をおりてもらうしかなかろうな」

陛下がとんでもないことを言われた。いや、常識なんだけど。陛下の言われるとおりだと、ピンク頭は聖女失格か。


これでゲームオーバーで私は断罪されない? 


思わず私は乗り出した。


「そうです。その心の清い我が娘は平民共の心無い言葉にとても傷ついておるのです」

「まあ、でも、日頃の行動からそうしたと思われたのだと思うが」

アドが容赦なく言う。しかし、私もそう思った。大半の生徒がそう思うだろう。


「そのような殿下。娘は確かに勘違いされやすい性格でございますが、孤児院の慰問や治療を休みの日には行っておるのです」

伯爵は信じられないことを言ってくれた。本当にこのピンク頭が慰問なんてやっているのか? 絶対にパフォーマンスだけじゃないのか。私はアドと顔を見合わせた。


「少し他人に対してフレンドリーすぎる面もございますが、それはできる限り直させるようにいたしております。やってもいない事をやったと言われて日々泣いておるのです」

伯爵は目元をハンカチで押さえながら言った。なんか大げさすぎるんだけど。この伯爵が泣く事なんて絶対に無いよね。金と権力の亡者とも言われているし。それで一体何が言いたいんだろう?  この事と私とどう結びつくんだろう?


「しかし、伯爵。皆が噂するのを止めるわけにも行くまいて」

陛下がおっしゃった。そうだ。その通りなのだ。


「それで、それとフランとどう関係するのだ?」

アドが一番聞いてほしいことを聞いてくれた。そうだ。私は噂しろとは一切言っていないんだけど。


「平民共にそう噂するように示唆したのがルブラン公爵令嬢だと。親切な伯爵令嬢が教えていただきまして」

伯爵は爆弾発言をしてくれた。親切な伯爵令嬢はジャクリーヌの事だろう。私が示唆しただと、そんなのするわけ無いではないか。ただ、黙って聞いていただけで・・・・。



「そんなのフランがするわけ無いだろう。なあフラン」

アドの言葉に私は頷いた。


「平民共が皆に噂すると話している時にルブラン公爵令嬢は笑って聞いておられたと」

「笑ってなどいません」

私は言い切った。


「でも、フランソワーズ、その場にいたの?」

王妃殿下が厳しい顔を私に向けられた。


「はい」

私はやむを得ず頷いた。

んっ? そういえばその場にはいた。皆が言うのは事実だと思ったので、止める必要はないと思ったのだ。


「それは問題ではありませんか。未来の王妃様ともあろうお方が、聖女様に対して良からぬ噂が広まるのを座視してみておられたというのは」

ここまで黙っていたラクロワ公爵が話しだした。こいつこの時を待っていたのか。

私は完全にはめられたのを知った。


「フランソワーズ、公爵のおっしゃるとおりです。何故平民たちが噂するのを咎めなかったのですか」

王妃様が厳しい顔で言われた。


「しかし、母上、フランはフランが私に振り返ってもらえるように、花束を自分で教室中にばらまいて悲劇の令嬢を演じているとローズ嬢らに噂されたのですよ」

「私はそのようなことは申しておりません。そんな噂話をするわけ無いではないですか」

アドの言葉にピンク頭が否定した。こいつ心の中では絶対にほくそ笑んでいやがる。


「アドルフ。ローズ嬢がそう言っていたと確たる証拠もあるのか」

「いえ、それは」

陛下の言葉にアドは口ごもった。


そう、そう噂している証拠は無かったのだ。私達がそうだと確信しただけで。

それに対して、私は友達が真実を皆にしらしめると話しているのを確かに聞いていた。そして、それを止めさせようとしなかったのは事実だ。


私は下唇を噛んだ。


でも、今回の件は友人たちが私を庇って行動に出てくれたのだ。化け物みたいな魔力量を持っている私を、貴族でもない皆が、公爵令嬢ということではなくて、私本人を友人として一個の人間として認めてくれたのだ。その友人たちの行動を咎めることなんて出来なかった。初めて出来た友人達が私のために憤って起こしてくれた行動を止めてなんて言えなかった。未来の王妃としてはそこはやんわりと止めるべきだったのだろう。


『みんな、私のことを考えてくれてありがとう。でも私の立場としては皆が聖女様の悪口を言うのを黙って見ている訳にはいかないの』とか何とか格好をつけて言うべきだったのだ。未来の王妃としてはそう言うべきだったのだろう。


でも、私は友人たちの行動を咎めるわけにはいかなかった。皆は私のためを思って行動してくれたのだ。その義憤を貴族たちの醜い権力争いに利用されてはいけないのだ。


そう思うと私はムカムカしてきた。

この伯爵といい、ピンク頭といい、公爵といい、グレースといい、私の友達の行動を辱めるな。平民といってバカにするな。付き合いは短いけれど、彼らは性格は良いのだ。貴族みたいに権謀術数に長けてはいないが、その分単純だが良い奴らなのだ。その善意の行動をこいつらに利用されるのだけは我慢がならなかった。


もう、こうなったら悪役令嬢でも何でもやってやろうじゃないか。


私は完全にプッツン切れていた。


確か腰を手に胸を張って


「わっはっはっは!」


私はゲームの悪役令嬢フランソワーズを真似て高らかに笑いだしたのだった。

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