第22話 悪役令嬢として公爵らを論破しているところに、第二王子が乱入して私の援護射撃をしてくれました

私の高笑いに皆ドン引きした。


「『わっはっはっは』は悪役令嬢じゃなくて、どっちかと言うと魔王様の馬鹿笑いじゃない!」後で話をさせられたメラニーが発した一言が胸にグサリと突き刺さったが、私はこの時は全くおかしいとは思わなかったのだ。普通悪役令嬢の笑いはメラニーによると「オーッホッホッホ!」だそうだ。そんな事は知ったことじゃないんだけど・・・・


「確かにラクロワ公爵の言われるように、私は周りの友人たちが、私がやっていないと善意で広めてくれるように言うのを止めませんでした。しかし、それの何が悪いのですか?」

開き直ったように言うと私は公爵らをきっとして睨みつけたのだ。


「何を開き直っているのだ。平民共は『聖女様が花束をめちゃくちゃにした』と言っているのだぞ」

「平民共平民共と公爵閣下らしからぬ言い方ですね」

私は公爵を笑ってやったのだ。


「何だと」

「全国民の99.9%以上が平民の方々ではありませんか。その方々を平民共平民共と上から目線で貶めるような言い方まずは止めて頂けませんこと」

私はきっとして言った。

「な、何だと」

「平民の方々がいなくなったら公爵領も国も成り立たなくなるのです。本来平民の皆様のおっしゃるとことはこの国の本当の心なのです。それを馬鹿にしたように言うのは止めていただきたいのです」

ぐっと公爵は詰まってしまった。ふんっ、正論を言われると流石に返せまい。


「もっともこのことは私が指摘するのではなく、本来は心の清い聖女様が真っ先に注意されるべきだと思いますが、目の前の聖女様はそのようなことには考えも及ばれないのでしょうね。何しろ私のクラスメートに向けて伯爵の娘に逆らうのかと貴族の身分を笠に着て脅していらっしゃいましたから」

私はわらってピンク頭を見てやった。


「私は脅してなどしておりません」

私の言葉にピンク頭が慌てて反論してきた。


「何を言う、私もはっきりと見ていたぞ。その場で注意したよな」

アドが呆れて言った。


「そんな・・・」

ピンク頭がまた泣き出して、


「で、殿下。娘はまだ貴族というものに慣れておらず・・・・」

「威張るのに慣れておられていないのですか?」

伯爵の言い訳を私は一刀両断した。

伯爵は悔しそうな顔をしたが、みんなの冷たい視線を前にして何も言えなかった。


「ルブラン公爵家令嬢。ご高説はもっともですが、今上がっている問題点は貴方が聖女様を貶める噂するのを否定しなかった点なのですが」

立ち直った公爵が言ってきた。


「何をおっしゃっていらっしゃるのか良く判らないのですが。友人たちは私の前で私がやっていないと真実を話すと言ってくれたので、私は感謝しただけですよ。それのどこが悪いのですか?」

顎を上げて尊大なふりして言い切ってやった。


「平民達は聖女様が花束をめちゃくちゃにして教室中にばらまいたのだと噂しているのだぞ」

共を達に変えただけなんだけどまあ面倒くさいからそこはスルーしよう。


「さあ、それはどうだか知りませんが。私は皆が私が自作自演して花束を教室にばらまいたのではないと真実を話すと言ってくれたのを聞いていただけですから」

「そんな言い訳が通用するわけはないだろう」

「そうです。公爵令嬢は我が娘が貶められるのをただ笑ってみておられたのです」

公爵の言葉に伯爵がその尻馬に乗って言ってくれた。


「ほううう、とするとそちらの公爵令嬢と伯爵令嬢は『私が自作自演で王子の関心を引くために花束を教室中にまいた』と聞いた時に『フランソワーズならばやりかねないわね』と笑っておられたそうですが、それはどうなるのです?」

「私は笑ってなどいないわよ」

「そうです。ただ聞いていただけで・・・・」

言ってしまってからグレースはしまったという顔をした。聞いていただけなら私と一緒だ。


「私と何が違うんです」

私の言葉にさすがに公爵連中は黙ってしまった。折角私を貶めようとしたのに、逆襲されて悔しそうにしている。


「私がやったと平民たちに言わせるように仕向けたくせに」

ピンク頭はなおのこと言い募ってきた。こいつは本当に馬鹿なのか?


「ローズ嬢。フランがそう言った証拠があるのか?」

「伯爵令嬢は公爵令嬢がただ笑ってみていたとおっしゃいました」

「だから君と何が違うんだ」

アドの言葉に


「いや、そんな、酷い。殿下、私を信じて下さい」

ピンク頭が言うが、この場で何を信じろというのだ?

陛下も白い目でピンク頭を見ておられるし、公爵は青くなっている。


その時だ。


ドンッ


という大きな音で扉が開けられた。


「姉上、お会いしたかったです」

そして、ヴァンがいきなり入ってきたのだ。


えっ? このタイミングで何をしに来たんだ?

ヴァンが入ってきたことで私は頭を抱えたくなった。


「シルヴァン。何をしに来たのです。あなたは呼ばれていないはずです」

王妃様が氷のような冷めた声を出して注意した。


「申し訳ありません。妃殿下、でも、アドルフ様に呼ばれたのです」

ヴァンは元々王妃様には絶対に母上とは言わないが、アドに対しては兄上って呼んでいるのに、何でそう言わないんだろう。アドは驚いた顔をしているし、ヴァンは勝手に入ってきただけだ。


「姉上、2週間ぶりですね。お元気ですか?」

ヴァンは何しに来たんだろう? なにか不吉な予感がするんだけど。この笑顔は何かいたずらして私が骨を折らねばならないパターンなんだけど。


「シルヴァン。何しに来たのだ」

陛下まで呆れた顔でヴァンを見ている。


ヴァンはそれを無視してキョロキョロ周りを見渡すと、

「あああ、ピンク頭のお姉ちゃんだ」

珍しいものを見るように言った。こいつ絶対にわざとだ。


「だ、誰がピンク頭よ」

ピンク頭が怒って言った。

「そうです。公爵家の息子の分際で、陛下の前に勝手に出てくるなどどういう教育をされているのですかな公爵令嬢」

私を見て勝ち誇ったように伯爵が言った。いや、彼は私の弟でなくて王子なんだけど・・・・

私は仕方なしに陛下を見た。


「いや、すまん、伯爵。シルヴァンは私の息子だ」

陛下が苦々しそうに言う。


「えっ、これは失礼しました。第二王子殿下とはつゆ知らず」

伯爵は慌てた。完全に彼の失言だ。生まれの関係もあってかヴァンはまだ、殆ど公の場に出ていない。公爵も頭を抱えている。確かに先程の物言いは王子に対しては失礼だろう。最も私はいつもそれ以下の対応をしているが。

だが陛下にしても自分の息子が礼を失しているので強く出れない。陛下はヴァンにさっさと出ていけと目で合図された。


でもヴァンは陛下の戸惑いを全く無視して、


「まあ、いいや、僕、そのピンク頭のお姉ちゃんが、そこの公爵令嬢に校舎の影で『ジャクリーヌ。あんたのクラスで姉上がアドルフ様の気を惹くために花束を自作自演でメチャクチャにしたと噂しなさい』と言っているのを見たよ」

「ちょっと、待ってよ、私はジャクリーヌじゃないわよ」

「そうよ。私が言ったのはジャツクリーヌ伯爵令嬢よ」

言ってしまった後にピンク頭はしまったという顔をした。


「ほうら。やっぱり余計な噂流したのはお姉ちゃんたちだよね」

ニコリと笑ってヴァンが言った。


「聖女が聞いて呆れるよね」

ヴァンは白い目で見下す。

伯爵とピンク頭は青い顔をしている。


「えええ、ローズあんた、そんな事を指示していたの」

白々しくもグレースがピンク頭のせいにしていた。こいつも馬鹿だ。そんな事言ったらピンク頭がどう出るかわからないのか?


「何言っているんですか。そうするように指示したのはグレース様ですよね」

「ちょっと黙りなさいよ。私はそんな事は」

二人がいきなり言い合いを始めた。

その横では横で公爵と伯爵が青い顔をしていた。



結局ヴァンの乱入によって、グレースとピンク頭は二人で共謀して私の噂を流したと認めてしまっていたのだ。

折角、私を嵌めようとして画策した公爵と伯爵は、陛下に白い目で見られて二人の令嬢を鍛え直すと言わざるを得なくなり、二人は1週間の謹慎処分が課せられることになってしまったのだ。


ふんっ、私を嵌めようとなんかするからよ。

私は悪役令嬢の高笑いを心のなかで思いっきり奴らにしてやったのだった。


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