第14話 王子がお詫びに何時間も並ばないと買えないプリンを持ってきました。
4時間目の授業は数学だった。
前世の数学は難しくて、途中で挫折したけど、この世界の数学は簡単だった。16歳になる年ということは高1だけど、ここでは中2くらいの内容をやっている。二度目の連立方程式は簡単だった。
でも、皆には難しいみたいで、前のアルマンは頭を抱えていた。
フッフン。私はそれを見て少し優越感に浸れた。前世では数学で悩まされたけど、今世は数学が得意になるかも・・・・。私は少し嬉しかった。
「さあ、お昼お昼」
私は立ち上がった。楽しみな食事の時間だ。しかし、1日目は陛下に、2日目はアドに邪魔されて、まだまともに食べれていないのだ。今日の3日目こそ、絶対にチャンと最後まで食べるのだ。
私は食べる気満々で食堂に向かったのだ。
今日は私は肉のA定食にした。A定食はハンバーグだったのだ。私は子供の頃からハンバーグが大好物なのだ。我が家ではいろんな物がハンバーグの中に入っていた。私の好き嫌いを無くすためにそうしたと料理長は明後日の方向を見て言っていたが、絶対にコスト削減のために肉の量を減らすためにしたのではないかと疑っているのだが。だって私は好き嫌いが殆どなかったし・・・・。もっともピーマンだけは苦手で、それを千切りにしてよく中に入れられたような気もするのだが、ピーマンなんて食べなくても生きていけるのに!。
でも、ここのハンバーグはなんとちゃんと肉がはいっていた。
一口食べるとジューーっと肉汁が出てくるのだ。
「おいひい」
私は食べながら感激したやっぱり家のハンバーグと違ってまともなハンバーグは美味しい。うちのがまずいというのではないけれど、やっぱり肉がちゃんと入っている方が良い。
「あんた、本当に美味しそうに食べるわね」
メラニーが呆れて言ってきた。
「だって美味しいんだもの。それに肉が多いし、うちのハンバーグの倍以上肉が入っているわ」
「おい、フラン、お前本当に公爵家の令嬢だよな?」
驚いてアルマンが聞いてきた。
「そうだよ。でもうち貧乏だから」
「いやいや、待てよ。公爵家って言ったら普通貴族のトップだぞ。ふつう食事も豪華だろうが」
「そもそも、貴族のお屋敷でハンバーグなんて食べるのか? お貴族様から見たら捨てる肉使っていると思うんだけど」
バンジャマンまで言ってくれる。
「うちは落ちぶれているとは言わないけれど、色々あって今は貧しいのよね」
私はぽろりと言ってしまった。
「そ、そうなのか」
「なんか、フランのところよりもうちの食事のほうが豪勢のような気がしてきた」
うーん、家にいる時はそうも思わなかったけど、平民の食事よりも貧しい公爵家のテーブルってどうなんだろうと思わないでもなかった。やっぱり税金もう少し上げたほうがいいのかも・・・・
私が少し悩んでいる時だ。
「で、殿下」
私の前のアルマンが固まった。
えええ! また来たの! 今日こそは最後まで食べようと思ってきたのに。
私は無視して、ハンバーグをもう一口食べる。
しかし、皆が私と後ろを見比べているので、おちおち食べていられない。ため息をついてそれを飲み込んだ。
せっかくの私の唯一の楽しみの時間を、邪魔しないでほしい。
私は振り向いて立ち上がった。
そこにはアドがオーレリアンを従えて立っていた。
そういえば午前中オーレリアンがいなかったことを私は思い出した。
そして、アドの手の中には超有名店で発売と同時にいつも売り切れになると有名なハッピ堂の箱があったのだ。
「えっ?」
文句を言ってやろうと思っていた私の頭の中が真っ白になる。うっそーーー、この箱はまさか?
私の目がアドの抱えている箱に釘付けになる。
「フラン、朝は申し訳なかった」
アドが頭を下げてきたのだ。
「えっ?」
そうだった。思い出した。こいつは朝、人に花束渡したくせに、ピンク頭と腕組んで去って行きやがったのだ。思わず、ハッピ堂の箱に騙されるところだった。
私がぶすっとしていると
「聖女のことはよろしく頼むと父からも言われている手前、無下に出来なかったのだ。本当に申し訳なかった」
こ、こいつ、ここで国王陛下の名前を出すか。そんなの言われたら許さざるを得ないじゃないか。
「いえ、殿下、私も誤解していたようです」
「アド!」
私がやむを得ずそう言ってあげると、アドが自分の名前を言ってきた。
「えっ?」
「俺は殿下じゃなくてアドだ」
アドが繰り返す。
「凄い。第一王子殿下から名前呼びしろって言われているわ」
「あつあつなのね」
外野から声が聞こえる。
「アド・・・・」
「そう、それでいい」
「何がそれでいいよ」
「いや、申し訳なかった。お詫びにハッピ堂で並んで買ってきたのだ」
「えっ?、それってひょっとして」
私は固唾をのんだ。いつも発売と同時に無くなるものではないのだろうか。確か3時前に並ばないと買えないのでは。えええ、こいつ王子で忙しいくせに授業サボって並んでくれたってこと!
「そう、ハッピ堂のアラモードプリンだ」
「えっ!、本当に」
私は驚いた。買いに行かせたのではなくて、並んだなんてまさか。
「どうか今回の件はこれで許してほしい。クラス全員分買ってきている」
「うそーーー」
「本当に!」
うちのクラスの女子から歓声が上がった。ノエルとか目が期待にあふれている。
「でも、1人5個限定なんじゃないの?」
私は並んでも1人最高5個しか買えないと聞いていた。アドとオーレリアン合わせても10個しか買えなかったはずでは。
「まあ、護衛ついでに近衛にも並ばせた」
にこやかな笑みを浮かべてアドは言った。
「うっそ。近衛の方まで並ばせるなんて職権乱用じゃない。何しているのよ」
私がそう言うと、
「フランの喜ぶ顔を見たかったからついやってしまったんだけど。いらなかったか」
開けた箱を引っ込めようとした。
クラスの女子連中から悲鳴が上がる。こいつ、絶対にわざとしている。クラスの女子連中の反応まで判ってやっているのだ。
「いや、何もいらないとは言って無いでしょ」
「じゃあ許してくれる?」
私は後ろから凄まじい圧力を感じていた。この期待に満ちた目を裏切る訳にはいかない。
「判った。今回だけね」
私がぶすっとして言った。
「はい、じゃあフラン」
アドは一個取り出して私に渡してくれた。
「じゃあ皆も。俺も並んだんだからな、感謝してよね」
皆に恩を売りながらオーレリアンがアラモードプリンを配って歩く。
「殿下。頂きます」
ノエルがまっさきに声を出して言った。ノエルも私並に食い意地がはっているみたいだ。
「いや、みんな、これはフランに買ってきたものだから、礼ならフランに」
キザなセリフをアドが吐いてくれる。
「じゃあ、フラン。いただきます」
「ありがとうフラン。まさか、ハッピ堂のアラモードプリンが食べられるなんて思ってもいなかったわ」
「さすが、殿下の婚約者様は違うわ」
うーん、なんか、違うようなきがするけれど、皆が喜んでくれたらそれでいいだろう。
私も一口食べる。
口の中でプリンが蕩ける。
「うーん、美味しい」
私はとても幸せになった。
それをニコニコしながらアドが見ている。
なんか違うようなきがするけれど、まあ、このアラモードプリンのおいしさに免じて許してやるしか無いか、と単純な私が思った時だ。
「殿下! ここにいらっしゃったのですね」
見たくもないピンク頭が現れて、アドの腕にすがりついたのだった。
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ピンク頭来た! 次話は夜更新予定です!
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