第13話 切れた私は婚約破棄しようと思いましたが、領地の借金の事を考えて出来ませんでした

「何なのよ。あいつ。人に謝っておいてピンク頭とイチャイチャするってどういうことよ」

私は机を叩いていた。あの後私はムカムカしながら食事を自棄食いしていたのだ。


「本当に最低よね」

ノエルが頷いてくれた。


「うーん、でも、あれ見る限り無理やり連れて行かれたみたいだけど・・・・」

メラニーがボソリと言う。

「ええええ! あんた、アドの肩を持つの」

私がきっとしてみると


「いや、でも、あれは、ピンク頭が殿下に抱きついてきて」

その言葉に私は思わずスプーンを持つ手に力を入れる。スプーンがぐにゃりと曲がった。


ぎょっとしてノエルがそれを見ている。

「いや、フラン、落ち着いて」

「これが落ち着いていられる?」

私は両手を握りしめた。ボキボキ骨が鳴る音がする。


何故か、皆このテーブルを大きく避けているんだけど・・・・


「まあ、フラン、王子殿下は無理やり、連れて行かれたって感じだったじゃない」

ノエルが明るく言おうとするが、


「そんなの断ればいいよね」

私がぶすっとして言う。


「じゃあ婚約破棄するの」

メラニーがストレートに聞いてきた。


「ちょっと待って下さい」

それを聞いて、はるか遠くで見ていたオーレリアンが飛んで来た。


「何よ、あんた。私、今とても機嫌が悪いんだけど」

「ヒィィィ」

オーレリアンは私の言葉に悲鳴を上げたが、なんとか踏みとどまった。


「フランソワ嬢。絶対になんか誤解があるから。殿下は本当にあなた一筋ですから」

「はんっ! 私一筋が聞いて呆れるわ。私一筋なら何でピンク頭に抱きつかれて、ヘラヘラ笑っているのよ」

「えっ、殿下に限ってそんな事は」

「そうよ。あれは戸惑っていた顔よ」

オーレリアンの声に何故かメラニーまで、アドを援護するんだけど。


「私は軽い男は嫌いなの。浮気する男も。アドは両方ともピッタリと当たっているのよ」

私はきっぱりと言った。そうだ。もう我慢するのは止めるんだ。何しろ折角神様がくれた第二の人生なのだ。自分の好きに生きないと、この命をくれた神様に申し訳が立たないわ。

私がそう決心した時だ。


「でもあんたのところの借金、王妃殿下の実家が肩代わりしてくれているんでしょ。それで婚約破棄できるの?」

メラニーが私が忘れたいことを思い出させてくれた。


そうだ。そうなのだ。私が婚約破棄すれば借金が残ってしまう。金を立て替えてくれている王妃の実家の侯爵家は、当然すぐに借金を返せと言うだろう。でも、そんなのすぐに返せる当てはない。我が家は破綻するしかなくなる。

まあ我が家が破綻するのは良いかもしれないが、その後、領民が困るに違いない。税率3割で他の貴族家がやってくれるわけはない。即座に税率は4割以上に上げられるだろう。そうなったら路頭に迷う領民もでてくるはずだ。私の我儘のためにそんなの認めるわけにはいかなかった。

そう、だから絶対に私から婚約破棄するわけにはいかなかったのだった・・・・


「そう、借金があるから出来ない」

私はガックリと肩を落とした。


「そんなにたくさん借りているの?」

「うーん、良くはわからないけれど領地の税収の1年分くらいの借金があるわ」

「あんたところの領地って税率3割なのよね。良くそれでやっていけるわね。普通は4割はとっているのに」

「建国の時からずうーっと守っているのよ。頑なにね」

私は首を振って言った。


「でも、それじゃあ、税率を3年間だけ普通のところと同じ、4割にすれば一発で解消できるんじゃない」

「えっ、そうだっけ」

私は一瞬メラニーの言っていることがよく判らなかった。

確かに領地の税収の1年分ということは3割だから、1割ずつ税金を増やせば3年で解消できるかもしれない。


「そらあ、そうかもしれないけれど、絶対にお父さまは許さないわ」

「でも、公爵家が破綻して領主が変われば、絶対に即座に税率が4割以上になるわよ。下手したら5割になるかもしれない。一度上がったら二度と下げられないわよ。それよりは領民も3年間4割のほうがましじゃない」

「まあ、確かにそうだけど」

「領主というものは領主のメンツより領民のためを考えないといけないと思うんだけど」

「メラニー、あんた凄いわ。たしかに最悪のことを考えたら領民はその方が喜ぶと思うわ」

私はメラニーの考えに感心した。そう、こういうふうに柔軟に考えられないとこれからは生きていけないのかも。こんな事を考えられるメラニーは絶対に手放してはいけないと私は心に決めた。


「まあ、最悪のことを覚悟しておけば、何でも出来るんじゃない」

「まあ、そうね。でも、私の我儘のためだけにそれを認める訳にはいかないわ」

私が諦めていった。


「まあ、でも最悪の選択肢もあると思えればいろんな行動が出来るんじゃない?」

「そうかな」

私にはよくメラニーの言うことが判らなかったが・・・・


「オーレリアン様。殿下にはよろしくお伝え下さいね」

メラニーが何故かどす黒いオーラを発しているんだけど・・・・


「メラニー嬢。感謝する。確かにその点は、はっきりと殿下にお伝えする」

オーレリアンは頭を下げると即座に出ていった。


「メラニー、別に王子とは関わりたくないから、伝えさせなくても良かったのに」

「まあ、でも、フランは怒っていたから。はっきりと伝えることは伝えた方が良いのよ」

そう言うものかなと私は判っていなかったが、この後とんでもないことが起こるのだった


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