第12話 王子は花束をくれて謝罪してきましたが、その後聖女とイチャイチャして私は切れました

前日遅くまでメラニーと断罪対策していた私は、次の日の朝は少し寝ぼけていた。

結局メラニーと思いついたのは、できる限り危険な所には近寄らないということで、アドとピンク頭に近寄らないようにしようということだった。


幸いなことにE組は他の教室からは離れていて、アドの2年生のA組とも、聖女の1年A組とも離れているし、貴族用の食堂と一般食堂も離れているので、会おうとしなければ会わないという結論に達したのだ。


しかし、メラニーとノエルと一般食堂に行くと、一般食堂の入り口に見た顔が花束を抱えて立っていたのだった。アドが花束持っているなんて初めて見た。私には彼岸花しかくれなかったのに、どういう事だ。私は少しムッとした。


そして、完全に頭が起きていたらさっと隠れたのだが、半分寝ぼけていたので、隠れるのが少し遅れた。

慌ててメラニーの影に隠れたのだが、少し遅かった。

アドがこちらに歩いてくるのが目に入った。何故こちらに来る?



「やあ、メラニー・バロー男爵令嬢とノエル・ハーベイ令嬢だよね」

「は、はい」

「左様でございます」

爽やかなアドに二人は完全に呆けていた。まさかアドが名前を知ってくれているとは思ってもいなかったのだろう。アドの記憶力は抜群で、こいつはおそらく生徒全員の顔と名前を一致させているのだ。私には絶対に無理なんだけど・・・・


「いつも婚約者のフランがお世話になっているね」

「いえ、こちらこそ」

二人はアドの笑顔にもうタジタジだった。

何やっているのよ。その笑顔に騙されたらダメだから。私は思わず言いそうになった。



「で、フラン、いつまで隠れているんだ」

アドが私の方を見て言ってきた。折角、メラニーと対策練ってアドには近づかないようにしようと思ったのに、1日目の朝っぱらからそれが出来ないってどういうことなんだろう?


「えっ、私に用なの?」

私は諦めて顔を出した。ピンク頭とでも待ち合わせかとも思っていたんだけど。まあ、一般食堂の前での待ち合わせは無いか。


「婚約者に用があっても問題はないだろう」

アドが私の嫌味にも全く堪えずに健やかな笑みを浮かべる。私相手には胡散臭いんだって。その笑みは。


「婚約者婚約者ってうるさいわね。その婚約者が」

「倒れたのに、見舞いに来なかっただろう」

アドが私の言葉を途中から引き継いで言ってくれた。


「判っていたら・・・・」

言い募ろうとしたその私の目の前にぬうっと花束が差し出された。


「何よこれ?」

「見舞いに行けなかったお詫びだ」

アドがいけしゃあしゃあと言ってくれた。

ええええ! 花束って私にだったの? 私は信じられなかったし、むちゃくちゃ焦った。アドが私に花束くれるの?


「いや、あの、私に?」

私は真っ赤になっていた。アドから花束もらうなんて初めてだし、ヴァンからは一杯もらっているけど、アドは私にくれたこともなかったのだ。それを今頃くれる?


アドは頷いた。


「はんっ?、あんたから花束もらうなんて本当に初めてなんですけど。槍でも降ってくるの?」

私は必死に態勢を立て直そうとした。


「いや、だから悪かったって」

「ふんっ、何よ。それも今頃くれるの? それにいま花束貰っても授業中どこにおいておくのよ?」

私は文句を言った。教室に持っていってもじゃまになるだけじゃないか。でも、顔がにやけているかも。


「えっ、いや、遅くなったのは謝るが、どこか置いておくところくらいあるだろう。ねえ、バロー男爵令嬢」

アドはニコリと笑ってメラニーに同意を求めた。


「いや、まあ、教室の外に水差しにでも入れておけばなんとかなるかと」

メラニーは緊張して答えていた。メラニーでも王子相手だと緊張するんだ。頭の片隅で思った。


「ということで、頼むよ」

何がと言うことだかわからないけれど、

「えええ、面倒くさい」

私は取り敢えず言ってみた。


「そう言わずに、ね」

私はアドの勢いに、仕方なく花束を受け取らせられた体を取った。でも、アドから初花束だ!それは今までのこいつの行いを全てチャラにするほどのインパクトがあったのだ。



でも次の瞬間に受け取ったことを後悔した。

「で、殿下。お待たせしましたーーーー」

そこにピンク頭が駆けてきたのだ。


えっ、こいつ他の女と待ち合わせるついでに婚約者に花束を渡そうとしていたのか。

私は思わず花束を叩き返そうとした。メラニーとノエルも唖然と二人を見ている。


「えっ、いや、約束なんかしていないぞ」

戸惑ったアドの声がするが

「またあ、昨日一緒に食事してくれるっておっしゃいましたよね」

「えっ、いや、またいつか」

「さっ行きましょう」

アドの抵抗虚しくピンク頭はアドの腕を掴むと引っ張っていった。


「何よあれ」

私はそれをプッツン切れて見ていた。

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