第10話 第一王子視点 好きな婚約者が男を周りに侍らせて喜んでいると聞いてその場に乗り込みました。

俺はこのエルグラン王国の第一王子だ。

腹違いで3っつ下の弟がいる。元々弟の母が王妃だったのが、産後の肥立ちが悪くて亡くなって、俺の母が王妃になった経緯があるらしい。

だから、俺と弟の関係は微妙だ。


俺を王太子にしたい母は、俺が6歳の時に1つ下のルブラン公爵家のフランと俺を婚約させた。母は侯爵家の出身だったが、俺が王太子になるために更なる後ろ盾を用意したのだとか。

しかし、どちらかというとルブラン公爵家は落ちこぼれの公爵家で、ラクロワ公爵家のほうが規模も大きくて後ろ盾としては最高だったのだが、母と公爵家の妻が仲が悪くて、ルブラン家の令嬢に決まったそうだ。ルブラン家の当主は温厚で口出しもあまりしないというのも、選出の決め手になったらしいが、6歳の俺にはよく判らなかった。


でも、やって来たフランはその温厚な父と違ってとても我儘だった。見目もよく見ると可愛いのかもしれないが、きつい顔つきだった。わがまま放題に育った俺としては俺に逆らう、初めての同年代の奴だった。


俺にままごとに付き合えだの、女の子は大事にしなければいけないだの、本当に口うるさかった。

最初の頃は無視して、他の側近候補の連中と遊びまくっていた。


しかし、王子としてはいつまでも遊んでいるわけにもいかずに、嫌嫌だが勉強させられようになった。


それも、婚約者のフランとだ。

しかし、1才年上だったせいか、勉強は圧倒的に俺のほうがフランよりも出来た。

フランは悔しがって必死に勉強するのだが、俺の相手にもならなかった。


「教えてやろうか」

と言うと

「良いもん、自分でやるもん」

と口を尖らせて言うさまは可愛かった。俺は初めてフランに対して優越感を感じて嬉しかった。



しかし、魔術の勉強が始まると立場は変わってしまった。ひとつ下の奴がどんどん上達していくのだ。俺はあっという間に抜かれてしまった。


「教えてあげましょうか」

こいつはいつもの仕返しとばかりに尊大な態度で聞いてきやがった。


「自分でやるわ」

1つ下のやつに教えを請うなんて恥ずかしい真似ができるか。


こうして、勉強では俺が勝ち、魔術ではフランが勝つという状況が続いた。


まあ、いけ好かない婚約者だが、俺にとっては一緒にやる戦友って感じには想っていたのだ。

何しろこいつは平気で俺に文句を言ってくる数少ない奴なんだから。




その彼女の誕生日の時だ。俺はいつものように、王宮御用達の店のケーキをフランに贈ったのだ。こいつは食べ物さえ与えておけばご機嫌だったから。


でも、そこに弟が大きなバラの花束を持って現れたのだ。


「義姉上。お誕生日おめでとうございます」

と言って花束を差し出した時のフランの驚いた顔と言ったら無かった。


「ありがとう」

大喜びで花束を受け取ったフランが言ったのだ。


「花束受け取ったのなんて初めて」

満面の笑みを浮かべて言ったのだ。そうか、俺もたまには花束にすれば良かった。

俺は後悔した。


「だって、アドなんて彼岸花しかくれたことは無かったのよ」

「いや、待て、それはお前が欲しいって言ったんじゃないか」

俺が反論する。城の中庭で遊んでいる時に、真っ赤な花が咲いていて、フランがきれいって言うから取って頭に挿してやったのだ。


「その時はきれいだって思ったのよ。でも、婚約者に貰ったのが彼岸花だけなんて恥ずかしくって言えないわよね」

「本当に信じられないですよね」

弟までが私を白い目で見る。


「本当にありがとう、ヴァン」

そう言うとフランは弟を胸に抱きしめたのだった。

いくら弟が10才とは言えそれはまずいんじゃないか。

弟は俺を見ながらフランの胸に顔を擦り寄せやがった。


こいつ、許さん!


俺がきっとして弟を睨むと、

「義姉上、兄上の目が怖いです」

「ちょっとアド、ヴァンに酷い事したら私が許さないからね」

フランがきっとして睨みつけてきた。


いや、ちょっと待て、婚約者でない男を胸に抱くってどうなんだ。俺でさえやったことないのに・・・・。


「兄様は厭らしいですね」

「本当に!」

そう思わず言ったら白い目で二人に見られてしまった。

いや、なんか違うだろう!


中等部に入るとそこは貴族の子弟の巣窟で、どいつもこいつも俺の機嫌を取ってくる。俺に反発する奴なんてどこにもいないのだ。それはそれで鬱陶しかったし、女どもが大挙して俺の周りに寄ってくるのはなんとかしてほしかった。


1年後にフランが入ってきたときはホッとした。

こいつはどこにいても変わらない。俺に平気で意見してくるのだ。

俺はこいつに意見されたいがために、偶にこいつの前で女の子をはべらせてみた。

食って掛かってくるフランもとても可愛いのだ。


でも、中等部では皆の目を気にして、中々フランと一緒にいられなかった。


「殿下、あんまりフランソワーズ嬢を虐めていると、来年入ってくるシルヴァン殿下に取られても知りませんよ」

1年下の母方の親戚で俺の側近のオーレリアンが言ってきた時も無視した。


俺はそれを後悔することになった。


俺が卒業すると弟とフランの弟が一緒に入学してきて、フランにベッタリとくっつくようになっていたのだ。俺には少なくともそう見えた。


二人でフランを取り合っているのだ。まあ、弟目線でしかフランは見ていないのは傍目には判った。実際フランの弟は本当の弟だし。


しかし、フェンス越しに見える隣の学園では良く2人ないし3人で仲良くしているのが見えて俺はおもしろくなかった。


対抗してこっちも女連れでいると、「兄上は女ったらしですから」

嬉しそうに言う弟の声が聞こえて、俺は何しているんだろうと思ってしまった。


俺は高等部にフランが入ったら周りがなんと言おうと絶対に隣りにいさせようと決意したのだ。


その学園入学前にフランが弟と剣の練習していて怪我で気を失ったと聞いた時は慌てて飛んでいった。


怪我自体は大した事はないと言う。


丁度新学年の前で、忙しい時に、隣の帝国の皇女が来訪したりと、もう手が離せなくなって、何回か抜け出して見舞いに行ったのだが、そのたびに弟と側近共に連れ戻されて、結局会えずじまいだった。


俺は婚約者なのに・・・・・


そして、フランはどうした風の吹き回しか、平民クラスに入りたいなんて、学園に頼み込んでいるのだ。

俺は何とか翻意させようとしたが、通じないので、やむを得ず、貴族を何人か強引にそのクラスに放り込んだのだ。でも、フランが自己紹介で彼氏募集中だといったと食堂で食事している時に、フランを守るために同じクラスに入れた女に言われた事に俺はキレた。


俺という婚約者がいるのに、何を言っていると


でも、フランは、「宮廷で倒れたのに、一度も見舞いに来なかった俺なんて婚約者ではない」なんて言ってくれるし、それはないんじゃないか。


でも、まあ、結果的に俺が見舞いに行って会えなかったのは事実なので、そこは皆の前で謝っておいた。


これは効果絶大だったみたいで、頼むから止めてと逆にお願いされてしまった。


陛下の前では、俺たちと違って学園の中では皆平等を実践するために平民とも仲良くなるなんて啖呵切っていたけど、そう簡単にうまくいくはずはない。俺たちは所詮高位貴族で、庶民からしたら別世界の人間なのだ。うまくいくはずはないのだ。


オーレリアンの報告によると、身分が公爵令嬢だとバレて皆に引かれていたらしい。


だから言わんこっちゃないと思った。


まあ、しかし、一人での食事は寂しかろうとオーレリアンを迎えにやったら、今は忙しいから行かないとあっさりと振られてしまった。状況を聞いたら、昨日はクラスの中で引かれていたのに、何故か今日はあっさりひっくり返してうまくやっていると言うではないか。

何故だ。フランの奴、何をしたんだ?

ジャックリーヌ嬢によるとそれも周りを男を侍らせて喜んでいるんだとか。


「殿下。フラン様はほっておきましょうよ」

ローズ嬢の言葉は無視して、俺は憤怒の表情を浮かべて食堂に乗り込んだのだった。


*****************************************************

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

評価フォロー等宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る