第9話 王子の誘いを無視して皆と楽しく話していたら入り口に仁王立ちした王子がいらっしゃいました

メラニーは体は健康体だったけど、入った会社がブラックで過労で死んだそうだ。だから今世はあくせく働くのは嫌だって言っていた。のんびりしたいんだそうだ。


「だからあんたとは面倒になりそうだから、あんまりからみたくない」

と言ってくれた。

しかし、もう遅い。せっかく出来た友達を私が離せる訳はなかった。そのくせ、『エルグランの薔薇』はいやほどやっていたみたいで、私の将来がどうなるかとても気になるみたいなのだ。そのあたりをつついて一生涯傍に置こうと思った事は、今は秘密だ。


そして、翌朝私はメラニーを引き連れて、早速ノエルの部屋を襲撃していた。


「フランソワーズ様」

扉を開けて私を見た時に、ノエルは固まっていた。


「さあ、ノエル。朝食に一緒に行こう」

寝起きであんまり頭の回っていない、ノエルの部屋に入り込んで、無理やり着替えさせる。そして、頭のまだよく回っていないうちに、ドサクサに紛れて私をフランと呼ばせる事にも同意させたのだ。そのまま朝食会場に向かう。


「へえええ、ノエルの家は西地区の閑静な住宅街にあるんだ」

「はい、フラン様」

「フラン。様はいらないわ」

「で、でも」


「あなた、この国で一番偉いの誰か知っている?」

「それは国王陛下ですけど」

「その国王陛下が私の言うことを宜しくって言っておられたでしょ。だから私のことはフランって呼んで」

陛下は私のことを宜しくと頼んでいっただけで、私の言ったことを聞けとは一言もおっしゃられていないけど、多少のことは良いのだ。


「えっ、そんな」

「あなた国王陛下の言う事聞かないの?」

私が畳み掛ける。ノエルは首を振るが少し青ざめている。うーん、たとえが悪かったか。私が戸惑った時だ。


「もう、フランは強引すぎよ」

横からメラニーが助け舟を出してくれた。


「ノエル、このバカどうしてもそう呼んでほしいんですって」

「馬鹿ってメラニー、そんな事言って」

「別に良いのよ。だって私達クラスメートじゃない。クラスメートに敬語で呼びかけられたくないし」

私がメラニーに乗っかって言った。


「不敬にならない?」

ノエルがやっと聞いてきた。


「なるわけないじゃない。私が認めているんだから。そもそも、この学園で私の言うことに反対できる奴なんていないんだから」

そう言いながら、そういえばピンク頭とグレースは私の言うことは聞かないだろうなとは思いついたが、それは黙っていることにした。


「じゃあ、フラン」

やっとノエルは呼んでくれた。

「よろしくね。ノエル」

私はノエルの手を取った。

やった、今度こそ正真正銘の平民の友だちが出来たのだ。


「でも、あなた、貴族食堂で食べなくていいの?」

トレーに朝のメニューを載せながら聞いてきた。


「どうして?」

「だって一般食堂は私達には豪勢でもお貴族様には質素でしょ」

ノエルが言う。


「いや、豪華よ。うちの朝飯なんてパンとミルクとヨーグルトだけなんだから」

「えっ、そうなの? だってあなたのところ恐れ多くも公爵家だし、朝からフルコースなのかと」

驚いてノエルが聞いてきた。


「なわけないじゃない。うちは元々質実剛健の家だから。もっとも貧乏なのもあるけどね」

「貧乏って、公爵家が?」

「うーん、貴族のしがらみとかいろいろあって、中々大変なのよ」

私は笑って誤魔化す。あんまり公爵家が貧乏だって広めるのも良くないような気がするし。


「それに比べてここは卵料理もあるし、果物もいっぱいあるじゃない。とっても豪華よ」

「そ、そうなんだ」

なんか若干引かれているけど、まあ、平民と仲良くなるには貧乏なのは問題ないだろうと勝手に思う。まあ、質実剛健なのは建国からで、我が家は食事にはあんまりお金はかけていないのは事実だ。健康のためにもその方がいいみたいで、年いくと他の貴族たちは皆太ってくるけど、我が家はそれはないし。


「アルマン」

その時アルマンらが入ってきたので私は大声で呼んだ。

アルマンはギョッとした顔で私を見たが、私の周りにノエルとメラニーが居るのを見て、おっかなびっくりでこちらに来た。


「どうかされましたか。フランソワーズ様」

「フラン! 私はフランよ」

私が言い切る。


「いや、しかし」

「ふーん、あんた、国王陛下の言うことに逆らうんだ」

「な、何を言い出すんだ」

ぎょっとしてアルマンが言う。


「だって陛下は私の言うことを聞けっておっしゃったでしょ」

「いやあ、そらあそうだけど」

強引に言えば脳筋のアルマンは頷いてくれた。やっぱり言ったもん勝ちだ。


「じゃあ一緒のクラスメートなんだから私のことはフランで」

「ほ、本当に良いのか」

「良いに決まっているでしょ。何しろ国王陛下が認められたんだから」

そんな事はおっしゃっていないけど、使えるものは何でも使わないと。

なんか、メラニーの視線が冷たいけど、ここは無視だ。こうして、私は大半の生徒を篭絡していったのだ。



そして、昼食時、私はクラスの皆とワイワイやっていた。


「えっ、あんたのところのケーキおいしいの?」

「そう、おふくろの作るケーキは最高だぜ」

私はバンジャマンの家がケーキ屋さんなのを知って俄然興味を持った。昔から甘いものには目がないのだ。我が家ではあまりお菓子は食べられなかったが、王宮のケーキとかも大好きだ。でも、王宮のケーキは私には甘すぎるきらいがあって、庶民の店は甘さ控えめの美味しい店も多いのだ。


「お店はどこにあるの?」

私がその話に食いついて聞き出そうとした時だ。

横からツンツンとメラニーに突かれた。


「えっ、どうしたの? メラニー」

「あそこからオーレリアンが呼んでいるけど」

メラニーが教えてくれた。そちらを見るとオーレリアンが笑みを浮かべている。碌なことがなさそうだ。私は無視することにした。


「で、あんたのお母さんのお店ってどこにあるの?」

「良いのか。お貴族様が呼んでいるけど」

「良いのよ別に」

「でも、殿下絡みじゃないの」

横から余計なことをメラニーが教えてくれる。


「それじゃあ行った方が良いんじゃないか」

皆若干引いて言ってくれた。


あのアドめ、せっかく皆と仲良くなりかけている時にまだ邪魔するか。


私は仕方なしに、オーレリアンの傍に行った。


「公爵令嬢を呼び出すなんてあんたも偉くなったのね」

開口一番いつもなら絶対に言わない地位を笠にきて嫌味を言う。


「いや、あの、殿下が呼んでいらっしゃいまして」

私の悪役令嬢然とした態度に恐れ入って、オーレリアンがしどろもどろで言った。


「私は今忙しいの。用なら前もって言っておいてよね」

そう言うや、皆のところに戻る。

「えっ、いや、そんな」

オーレリアンがまだなにか言いたそうだったが、私は無視した。今は皆と仲良くなるとても大事なときなのだ。それを王子なんかに邪魔されてたまるかという気分だった。



「良かったの?」

「良いの良いの。で、バンジャマンのお母さんのお店ってどこにあるの」

「中央区の噴水の傍なんだ」

「えっ、あの、コイン投げ込む噴水の傍なの」

「そうそう、そこから・・・・」

私はまた話に夢中になった。



そんな時だ、再度メラニーから突かれたのだ。

「えっ、何? メラニー」

「今度は殿下が睨んでおられるけど」

入り口を見ると、怒った表情のアドが立っているのがみえたのだった。


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