第8話 前世も含めて初めての女友達が出来ました。
この日の授業はその授業で終わりで、陛下らは授業の途中まで見学して帰って行かれた。フェリシー先生は珍しく優しくてその点は良かったのだが・・・・
「皆の者。フランソワーズ嬢をよろしく頼むぞ」
という有り難くもない傍迷惑な言葉を残されて行かれたのだ。
私が今までしていた平民の女の子アピールが台無しになってしまったではないか!
放課後、私は必死に言い訳しようとした。
「ノエル。これは理由があって」
「も、申し訳ありません。ルブラン公爵家のお方とは存じ上げず、失礼しました」
私の必死の言い訳にもノエルは体が引けていた。
「え、そんな」
「すいません。失礼します」
私は、なお話しかけようとしたが、さあああっと帰って行った。
「アルマン、ごめん」
「いや、わ、私こそ申し訳ありません。殿下の婚約者様とは露知らず、失礼しました」
そう言ってあの図太いと思われたアルマンまでが去っていく。
他の平民の皆にも声掛けようとしたら、皆私を避けるように帰って行った。
「あああん、最悪じゃん」
私は頭を抱えてしまった。
「まあまあ、フランソワーズ様。平民の反応なんてこんなものですよ」
笑ってオーレリアンが言ってくれた。
「オーレリアン。あなたね。私はこの学園で青春をエンジョイしようとして必死になっていたのに・・・・。皆してそれを壊してくれて」
「とは言っても陛下のあれは仕方がないでしょう。フェリシー先生にでも文句言ってみます?」
「そんなの無理よ。100倍になって返ってくるわよ」
オーレリアンめ。わかりきったことを聞くな。
私はどうしようかと悩んだ。このままだとまた中等部の時と同じだ。それは嫌だ。
そして思い出したのだ。そういえばメラニーが転生者だった事を。
こうなったら、転生者の好でメラニーに頼み込むしか無い。
私は早速メラニーの部屋に突撃することにした。
メラニーの部屋は女子寮の2階で私の隣だ。私の部屋は貴族エリアではなくて、平民エリアにさせたのだ。学園の担当者はぎょっとして、頼むから部屋だけは貴族エリアの部屋にしてほしいと頼んできたが、私は無理を押し通した。だって、折角の夢にまで見た全寮制の学園生活なのだ。夜は他の子の部屋で恋ばなとか、遅くまでいろんな話をするのだ。貴族部屋なんかにしたらお高くとまってそういうことはなかなか出来ないではないか。
メラニーもそうだとは思わなかったが、まあ、男爵家は貴族エリアと平民エリアが半々だし・・・・
ドンドンドンドン
大きな音をたてて思いっきりドアを叩く。
「うるさいわね!」
怒ってメラニーがドアを開けた。
「えっ。さようなら」
しかし、私を見るなりぎょっとして、いきなり扉を閉めようとした。
私はそうはさせじと手を扉の隙間に入れる。
扉が私の指をバシッと挟む。
「ぎゃっ」
私が悲鳴をあげて、みせた。こんなのではびくともしないんだけど・・・・
「えっ、すいません」
慌ててメラニーが扉を開けてくれたので、その瞬間強引に部屋の中に入った。
「えっ、フランソワーズ様!」
メラニーは固まってしまった。
「メラニー、一緒の転生者としてお願いがあるの」
私はメラニーに頼み込んだ。
「転生者ってなんですか?」
白々しく聞いてきたが、そんな態度で騙されないわよ。
「何言っているのよ。信号機知っていたでしょ」
「いや、何の話なのか」
あくまでもメラニーは白を切ろうとした。
「私、埼玉の越谷にいたの。あなたはどこにいたの?」
「えっいや、その」
「東京、それとも名古屋、あるいは関西?」
「なんのことだか」
「私の事を悪役令嬢ってつぶやいいたから『エルグランの薔薇』やったことあるんでしょ。もう誤魔化そうとしても無駄よ」
私は言い切った。
メラニーは私を上からしたまで見て、そして、ため息をついた。
「埼玉の春日部よ」
私は一瞬メラニーが何を言ったか判っていなかった。
「クレヨンしんちゃんと一緒なんだ」
「どいつもこいつも春日部っていったらクレヨンしんちゃんにして。それ以外に知らないのかよ」
メラニーが怒って言うが、
「何言っているのよ。何もない越谷よりもましよ。少なくとも春日部は全国区じゃない」
「まあ、それはそうだけど・・・・」
おいおい、頷くなよ。少なくとも越谷は春日部よりも人口は多かったはずだ!と埼玉県人しかわからないことを思いつつ、
「あんた、何歳の時に、自分が転生者って知ったの?」
私は自分の時みたいにいきなり知るのか、あるいはどんな感じだったのか聞いてみた。
「私は小さい時からよ。別な記憶があって何でだろうってずうーっと不思議だったの」
「そうなんだ。でも、これがゲームの世界っていつ判ったの?」
「この国の名前がエルグラン王国だってわかったときかな。それに王子の名前がアドルフだったから。あんたはいつ判ったの?」
「私は2週間前かな。ヴァンと剣の稽古していて頭を打ってしまったのよね。その瞬間に凄まじい記憶が蘇って3日間寝込んだわ」
「えっ、そうなの? じゃあ最近なんだ。悪役令嬢止めたの」
「悪役令嬢って、別に私、昔から悪役令嬢じゃないわよ」
私がムッとして言うが、
「うそ、ゲームでは我儘三昧の嫌なやつじゃない」
「そらあ、自分のことを知る前はもっと我儘だったかもしれないけれど、アドにケーキを食べに連れていけとか、護衛をまいて下町を散策したとか、はあるけど、そんなに酷いことじゃないわよ」
「侍女とかを虐めていたんじゃないの?」
「虐めるほど侍女はいないわよ。うち貧乏だから」
「えっ、公爵家なのに」
メラニーは驚いて聞いてきた。
「先々代がグレースのとこの公爵家に嵌められて、領地が半減されたのよ。なのに、未だに税率3割しか取っていないから本当にもう火の車。屋敷なんてこの10年間全く修繕していないのよ。その上お金もないのに、お父様もお母様も人が良くって、すぐにお金を他人のために使ってしまうのよね。だから本当にお金がなくて。借金で首が回らないほどよ。だから私がアドの婚約者になったんだから」
「えっ、あんたの我儘で王子の婚約者になったんじゃなくて」
「なわけ無いでしょ。何であんな陰険な腹黒王子の婚約者に進んでならないといけないのよ。婚約者になるならヴァンのほうが100倍はましよ」
「ヴァン?」
「シルヴァン第2王子よ」
「ああ、攻略対象者のね」
「ヴァンも攻略対象者なんだ」
私は知らなかった。
「あんたそんなのも知らないの。シルヴァン王子は腹黒だけど、見た目は良いから2番人気よ」
「えええ、あんた何言っているのよ。ヴァンは腹黒じゃないわよ。私にとって天使よ。ジェラルドと並んで」
「あんたの弟の。ジェラルドも攻略対象者よね」
「そ、そうなんだ」
私はそれも知らなかった。
「ちょっとあんた本当に『エルグランの薔薇』やったことあるの?」
疑り深そうにメラニーが聞いてきた。
「あるわよ」
「本当に」
「ええ、でも、いつもフランソワーズに虐められて自殺していたけど」
「それって最初の最初じゃない」
呆れてメラニーが言った。
「だってそれ以上進めなかったんだもの」
「判った。だから悪役令嬢のフランソワーズがこんなふうになっているんだ。あんたじゃ悪役にはなれないわよ」
なんとも失礼なことをメラニーが言ってくれた。
「いや、私も少しくらい悪役になれるわよ」
「ムリムリ、あんたじゃ絶対に無理だわ。悪役令嬢がこんなに単純で、やっていけるわけないじゃない」
「どういうことよそれは」
私はムッとして言った。
「まあ、あんたがこんなだからこのゲームおかしくなっているのね」
一人納得したようにメラニーが頷いている。
「そうかあんたがバグだったんだ」
思いついたように言ってくれた。
「ちょっとメラニー、人を勝手に虫にしないでよ」
「えっ、虫って、まあそうなんだけど、虫じゃなくてゲームのプログラムにひそむ間違いのことよ。エラーかな」
「えええ、なんかそれも酷くない」
「まあ良いわ。で、何で平民と仲良くしたいの。あんた公爵令嬢だから貴族の中で威張っていたら良いじゃない」
「それじゃあ面白くないじゃない。あんたも知っているように貴族なんて足の引っ張り合いじゃない。私前世は病弱で学校も満足に行けなかったのよ。だから今世は絶対に学生生活をエンジョイしたいのよ」
私は昔病弱でほとんど寝たきりだった体験をメラニーに話した。
「でも、貴族の荒波に揉まれるのも青春だと思うけど」
「そんなの大人になってからでいいじゃない。私はクラスの皆といろんなことを協力しながらやりたいの。やったこと無いから」
悲しそうに私が言うと、
「わかったわ。協力するから。悪役令嬢のあんたが悲しそうに言うの止めてよ。本当に調子狂うんだから」
「本当に? ありがとう。よろしくね」
私は喜んで思わずメラニーの手を握っていた。若干メラニーは引いていたが、そんなのは知ったことではなかった。
私達二人はその日遅くまで、過去のこと含めていろんなことを話し合ったのだ。
私は生まれて初めて本当の女友達が出来たのだった。
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