第5話 婚約者と食堂で喧嘩して、陛下に呼ばれました

食堂に飛び込んできたアドの腕をつかんで食堂の端へ連れていく。

何が起こったのかと興味津々の皆の視線が痛い。流石に生徒会長で第一王子の顔はみんな知っている。


「どういう事だ? フラン。俺という婚約者がいる身で、恋人募集中って」

アドはいきなり私に食って掛かってきた。見舞いに来なかったくせに、こういうところだけうるさいのだ。こいつは・・・・。

バラしたのは誰だと私は私の近くに座ってご飯を食べていた王子の側近のオーレリアンを睨みつけたら、必死に首を振ってきた。


「シャモニ伯爵令嬢がわざわざ教えてくれたんだ」

そうか、あの娘か、余計なことをしてくれて。もう少し仲良くなってから身分がバレてほしかったのに。こんなんじゃ、皆にバレてしまうじゃない!


「ふんっ。人が王宮で倒れた時も一度も見舞いに来てくれなかったアドに、婚約者だなんて言われたくない」

私がぶすっとして言うと、


「いや、フラン、ここのところずうーっと帝国の皇女殿下がいらしていたから忙しくて。それに新たな聖女が見つかって学園に入ってくるっていうので、更に忙しくなって」

「私も学園に新たに入りましたけど、アドは何も構ってくれないし・・・・」

嫌味を言う。別に構ってほしいわけじゃないけど・・・・文句を言ってくるなら私も言い返したい。


「いや、フランが、平民と一緒のクラスになりたいなんて言うからその調整も大変で」

やっぱりこいつか、余計なことをしたのは。周りは全部平民だけでも良かったのに、王子の側近とか貴族たちがいるのはこいつの差し金か。


「ふーん、ヴァンからはあなたがその帝国の皇女殿下とイチャイチャしていたって聞いていますけど」

私が白い目で見ると


「あのやろう。余計なことを・・・・いや、そんなことはないぞ。傍目にはそう見えたが、違うんだ」

言ってからまずいと思ったのか、慌てて言い換えているけれど・・・・。


「傍目からそう見えたんならそうでしょ。そもそも王宮で倒れたのに、一度も見舞いに来ないって、婚約者としてはあり得ないんじゃない? ヴァンなんてずうーーーと一緒にいてくれたのよ」

「いや、俺も何回も行ったけど、フランは寝ていてだな、そのたびにヴァンとあそこにいるオーレリアンに邪魔されて」

「言い訳は結構。来なかったのは事実じゃない」

アドの言い訳に私が白い目で言うと


「いや、それは本当に悪かった」

アドは頭を下げたのだ。あのプライドの高いアドが。それも皆の前で。第一王子に頭を下げさすなんて、これじゃあ悪役令嬢そのままではないか。



「ええええ!、止めてよ」

こんなところで第一王子に頭を下げさすなんてもう終わりだ。私の身分がバレてしまうじゃない。こいつ絶対にわざとやっていやがる。私の今までの努力が・・・・・


「じゃあ許してくれる?」

腹黒い笑みを浮かべてアドが言った。


「判った、許すから、頭を下げるのだけはやめて」

はあはあ言いながら何とかアドに頭を下げさすのを止めさせた。


「じゃあ、そう言うことでさようなら」

すぐに皆のところに帰って誤魔化さないと。


私がアドから戻ろうとした所で手を掴まれた。

「何・・・・」

すんのよと叫ぼうとした所で近寄ったアドから

「父が呼んでいる」

と耳元で囁かれた。


「へ、陛下が?」

私は驚いた。私は日頃は王妃殿下と接することが圧倒的に多くて、陛下は基本的には私にかんでこない。その陛下が私に用があるということは余程のことではないか?


まだ、別に何もやらかしていないはずだけど、平民と一緒のクラスにしろと学園に圧力かけたのが、バレたのだろうか? でも、元々建学の精神、「学園に在学中は親の地位に関係なく、すべての生徒は平等である」に則ってやっただけで、文句を言われる筋合いはないはずだし・・・・。王宮の屋内で剣の稽古をした点については、すでに礼儀作法のフェリシー先生に2時間にわたって怒られたし、これ以上怒られる要素はないだろう。


「私は何も悪い事していないわよ。アドはなんかしたの?」

「恋人募集中なんて皆の前でいうからじゃないのか」

「それ言うなら担任のアラン先生に言ってよね。先生がそう言ったからのりで言っただけだし」

「のりで言うな」

「帝国の王女と抱き合っていたアドに言われたくないわよ。ヴァンも言っていたわよ。あれはない。義姉上は可哀そうだって」

「いや、違うぞ、虫がいて皇女が驚いたあまり、俺に抱きついただけで」

「やっぱり抱きつかれていたんじゃない。最低」

「いや、だから・・・・」


「あのう」

後ろから騎士が声をかけてきた。


「うるさいわね」

「黙っていろ」

私達二人に言われて騎士はビクッとする。


「皆見てますけど」

「えっ」

戸惑った声で指摘されて私達二人は固まった。


そういえばここは昼の食堂だった。みんな食事の手を止めて私達を見ている。皆の生温かい視線が痛い。ノエルらは私を見て固まっていた。


うっそーーー、第一王子と大声出して喧嘩してしまったじゃない。もうどう考えても身分がバレたに違いない・・・・。

私は頭を抱えてしまった。


「それに陛下がお待ちなんですけど・・・・」

私はその言葉に更に固まってしまった。


固まった私はアドに腕を引っ張られて食堂を後にしたのだった。


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