第4話 自己紹介で恋人募集中って言ったら血相変えた婚約者が飛んできました

しばらく経ってから教室に体格のいい先生が入ってきた。見た目ゴリラに似ていると思ったのはここだけの秘密だ。


「みんな、おはよう」

「おはようございます」

先生の挨拶に皆返す。流石に一年生。元気が良い。一番声が大きかったのはおそらく私だが。


「ん、元気だな。元気が良いのは良いことだ」

と言ってクラスを見渡しつつ、何故か私を見てぎょっとした顔をするのは止めてほしいんだけど。元々、私がいるのは知っているはずだし。何故驚く?


「今日から1年間このE組の担任をすることになったベルタンだ。科目は魔導実技を教えている・・・・」

それからしばらくはこの学園の注意事項だった。まあ、この学園はこの高等部から全寮制で入寮の時にも色々説明があったのだが、被ることもあって退屈だった。


私が大きな欠伸をしたときだった。

もろに担任と目が合ってしまった。

流石にやばい。


「そこ、そんなに退屈か」

「いえ、そのような」

担任は更に何か言いたそうだったが、私の地位を考えたのか首を振って


「まあ、つまらんことはここで終わる。では順番に自己紹介をしていってくれ」

先生は皆を見渡すと、


「じゃあまず俺から、名前はアラン・ベルタン。花の独身30歳だ。現在嫁さん募集中。一応親は男爵だが、三男なので爵位を継ぐ予定は無いが、職業は魔術実技の教師なので収入はある程度はある。皆のお姉さんで婿探ししている人はぜひとも紹介してほしい。以上」

なんとも型破りな自己紹介だ。これで皆緊張が溶けたのか、次々に自己紹介していく。

私は必死にメモを取り出した。

なんとしても、早死した前世の分まで今世は青春をエンジョイするのだ。


「私はジャクリーヌ・シャモニ、伯爵家の令嬢です」

自分のことを令嬢というかと突っ込みたかったが、余計なことを言うとバレるので黙っていた。余計なことはバラスなオーラで見ていると

「配属されたクラスがEクラスでどうなる事かと思いましたけど、皆さんとご一緒できて嬉しいです」

最後は私を見てニコリと笑った。


うーん、上の学年は身分順で私の婚約者のアドがAクラスでそこに子爵までの貴族の子弟がいて、Bクラスは残りの子爵と男爵、となっていてEクラスは平民しかいないのだ。今年の一年は私の圧力でバラけさせたのだが、それでもなぜか貴族が半分くらいいるのだけれどなんでだろう?


「俺はアルマン・ルール。父は中央師団で騎士をやっていて、自分も将来騎士を目指しています。俺も先生と一緒で彼女募集中です」

私の前のアルマンが自己紹介した。元気があって宜しい。中等部は本当に貴族が多くて腹の探り合いみたいな感じで自己紹介も面白くもなんとも無かったんだけど、高等部は平民も一定割合入ってきていて、結構バラエティに富んでいる。で、私の番だ。


「名前はフランソワでフランって呼んでもらえたら有り難いです。父は王宮に出入りしています。勉強は苦手で、出来たらやりたくないです」

そう言って笑うと、皆笑ってくれた。よし、笑いを取った。


「この学園では思いっきり青春をエンジョイしたいです。ちなみに私も先生とおんなじで彼氏募集中です」

こう言ってニコっと笑うと、半分くらいの男の子がこっちをほおけて見てくれた。


左横と前の先生はぎょっとしてこちらを見ていたが、人が寝込んでいるのに見舞いにも来なかった婚約者なんか知ったことではなかった。



食事はメラニーらと大食堂で取ることにした。

メニューを見ると今日のB定食は魚のムニエルだった。私はそれにする。デザートのプチケーキに釣られたというのもあるが。メラニーとノエルは肉のA定食だった。

「このSってすごくない」

「本当ね」

ノエルがその横のスペシャルメニューを指していった。なんか値段が10倍くらいしていてフルコースのメニューになっていた。こんな食堂でフルコース食べてどうするんだ。


「何でも今年から出来たみたいよ。貴族食堂のメニューの一部をこちらでも提供するようにしたんですって」

何故か意味深に私を見てメラニーが言う。えっ、私のせいだって言うの? 貴族は基本的に寮の上にある貴族専用食堂で食べているのだ。学園皆平等を標榜する割には貴族専用食堂があったり、貴族の部屋が豪勢だったり偏りがあるのだ。


「そうなんだ。こんなところに出しても食べる人なんていないのにね」

何も知らないノエルが笑って言う。

「本当よね」

私も当然とばかりに頷いたんだけど、メラニーが変な顔して見てくるのは止めてほしかった。


「うーん、美味しい」

私は定食に舌鼓をうっていた。庶民の食堂でも美味しいものは美味しいのだ。この熱々のご飯も良い。

「あんた、変な令嬢よね」

私を見てメラニーがボソリといった。


「えっ、フランってやっぱりお貴族様なの」

ノエルが驚いて言った。


「違うわよ。貴族の娘は女の子のことを令嬢って呼ぶのよ。だからあなたも令嬢よ。そうよねメラニー」

私がガン飛ばして言うと、


「ま、そう言うことにしておくわ」

サラリとメラニーには流されてしまった。


「じきにバレるのに」

なんかブツブツ言っている。

疑い深そうなノエルの視線が痛いけど、適当に誤魔化そうとした時だ。


「フラン、恋人募集中ってどういう事だ」

そこに血相変えた第一王子が飛び込んできて、私の庶民と仲良く計画をぶっ潰してくれた。


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