第3話 クラスで貴族たちを脅しながら必死に友達作りました

そこからの入学式はとても退屈だった。学園長の長ったらしい話のあとは、生徒会長が檀上に上がった。


「きゃああ、殿下よ」

「第一王子様だ」

「アドルフ様!」


女生徒が黄色い声をあげる。

二年生の生徒会長は婚約者のアドルフだった。こいつは見た目だけは麗しいのだ。見た目だけは。女の子の悲鳴に喜んでいるのが分かる。

しかし、私も人の事は言えないが、頭は悪いし、女たらしだし、婚約者としては最悪だった。でも女達はその見た目に騙されるのだ。

私も最初は騙されたもの。

それにこいつは腹黒だ。何度こいつのせいで煮え湯を飲まされたことか。

せっかくサボろうとしたのに、こいつがチクってくれたせいで、礼儀作法の時間が倍になったり、王妃様が苦手だとぽろりとこいつの前で言ってしまったら、それが100倍くらいに大きくされて伝わってお茶会の時間にブツブツ言われたりして、それはもう大変だった。


だからこいつの前ではできる限り本音を言わないようにしていたのだ。

でも、見た目だけは良いからいろんな女がキャーキャー言っている。

私からしたら、「現実は違うわよ」と声を大にして言いたかった。


「新入生の皆さん。この学園に入学おめでとう」

王子が話し出すと皆、目をランランとして話を聞き出した。どの道こいつのことだから、どうやったら女の子に受けるかしか考えてないのだ。


「この学園に入学できたということは皆さんは今後この国を支えてくれる重要な人物であるということです。自分に自信を持って下さい。そして、外に出れば身分の差というものもあるかもしれませんが、この学園の中では皆平等です。貴族の方も平民の方も皆ここでは平等なのです」

えええ!王子も偶に良いこと言うじゃない。私は少しだけ王子を見直した。


「そんなの建前よ」

隣のメラニーがボソリといった。小さな声だったので、聞こえたのは私だけだった。

そうか、建前なのね。危うく騙されるところだったわ。


メラニーに頷いた私を見て、メラニーはこちらを胡散臭そうに見てくる。


私は日本にいたから身分なんてあんまり考えていないんだって・・・・そう言いたかったが、皆の目があるのでここでは言えなかった。


私のクラスはE組だった。そうそう、身分差でクラス分けは良くない。私の意向に沿っているではないか。私は嬉しくなった。私の左横はオーレリアン・ブルボ子爵令息だ。えええ!、こいつ王子の側近の一人じゃなかったっけ? なぜこいつがいる?

私は白い目でオーレリアンを見た。しかし、オーレリアンはこちらに会釈してきた。私は無視することにした。後ろはメラニーがいて右横はノエルだ。前はがたいのでかい男がいた。こいつおそらく騎士を目指している。


「あなた体格良いわね」

私は早速前の男に声をかけた。左横と後ろの視線が痛いような気がするが私は無視した。前世で出来なかった青春するのだ。そのために転生してきたのだから、と私は勝手に思うことにしたのだ。

「えっ、そうだな一応騎士目指しているから」

「騎士学校じゃあなくて何で学園なの?」

「剣聖と呼ばれているクレール・デュポア様がこちらで教えられてるって聞いたからこっちを選んだんだ」

「ああ、クレール様ね」

私は嫌なことを思い出していた。このクレール、剣の腕は最高だが性格が悪いのだ。私なんかいつも立ち上がれなくなるまで叩き潰されるのだ。女だからって一切手加減してくれない。まあ、そこは良いんだけど・・・・。

「えっお前、クレール様の事知っているのか?」

「名前だけ聞いた事があるのよ。私、フラン。宜しくね」

「俺はアルマン・ルールだ。父親は騎士をやっている」

「へええ、そうなんだ。どこにいるの?」

「知ってるか判らないけど中央騎士団だ」

「えっ、それってルール第一騎士隊長の事」

結構強い騎士だ。二、三回手合わせしたことがある。その息子か。なんだなんだ。関係者の子弟が多いんだけど。

「えっお前、親父の事知っているのか?」

アルマンは喜んで言ってきた。

「うーん、名前を聞いたことあるだけよ」

「そうか。フランの親父さんは何してるんだ?」

「うーん、王宮に出入りしてるんだけど、」

私は口を濁す。


「商人か何かか」

「うーん良く判ってないのよね」

失敗した。設定考えてなかった。


「お前、それは親に失礼だろう」

「あ、あんたね」

その前から令嬢が怒りの声をあげた。こいつはジャクリーヌ・シャモニ伯爵令嬢だ。

「あああ」

私は慌ててジャクリーヌに駆け寄ると、

「良いこと。私が公爵令嬢だとは絶対にばらさないで」

低い声で警告する。

「は、はい」

「宜しくね」

にこりと笑うとあっという間に戻った。

何故かオーレリアンとメラニーが頭を押さえている。私は知っている高位貴族は無視して、いや、脅して黙らせて、必死に平民の友達を作る努力をしたのだった。

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