第6話 ムカつく聖女と公爵令嬢に逆襲しました
私はアドに連れられて、学園の寮の特別室に入った。
中に入ると国王陛下夫妻が既に腰掛けておられた。そして、その向かいには最近勢力を伸ばしているやり手のデボア伯爵とピンク頭の女の子、その横にグレース・ラクロワ筆頭公爵家令嬢が座っていた。
げっ、グレースが居る!
グレースのラクロワ筆頭公爵家と我が家は仲が良くない。父親同士も犬猿の仲だ。何でも、先々代の時に我が家が領地半減になったのは、ラクロワ公爵家の陰謀のせいだそうで、それ以来、我が家はラクロワ家を毛嫌いしている。父親同士が仲が悪いのはうちの母を巡って二人で色々あったらしい。負け犬の遠吠えだと、父はラクロワ公爵の事を話す時は言っているが、私から見たらどっこいどっこいだ。私はグレースのことをなんとも思っていないのだけど、父の件があるのか、グレースはいつも私に突っかかってくるのだ。正直相手するのも面倒くさいし、出来たら避けたい。そんな事言ったらまた何言ってくるかわからないので言わないけれど・・・・。元々、アドの婚約者を決める時も、アドを取り合って私が勝ったらしい。前世の記憶が蘇る前だし、小さい時のことだからよくおぼえていないけど。
元々、王妃様のお茶会の時に、私がグレースの頬をつついて「プヨンプヨンしている」って言ってしまったらしい。そう少しグレースはふくよかなのだ。我が家は皆痩せていて、というか、公爵家なのに、貧乏で、父が言うにはこれも全てラクロワ家のせいで領地が半減したのが悪いそうだが、食事の量もどちらかというと少ないのだ。食いっぱぐれることは無いのだが、必然的に皆痩せている。前世の私から見ても決してグレースは太っていることはないし、ただ、ほっぺが少し丸みを帯びているだけで、私にとって珍しかったのだろう。でも、それがグレースにとっては許せなかったみたいで、それ以来、グレースは何やるにしても私に突っかかってくるのだ。
でも、『プヨンプヨン』は流石に令嬢に言うべきことではなかったと今では反省している。でも、小さい時の過ちをいつまでも根に持つのは止めてほしいのだけど・・・・。
「遅くなりました」
「申し訳ありません」
アドに続いて私も慌てて頭を下げる。
「おお、よく来たの。さっ席に座ってくれ」
陛下の声に私は戸惑った。
空いている椅子は机を挟んで両横にある一人用の椅子が2脚だった。
「どこでも良いわ。座って頂戴」
早くしろと言外に王妃様に注意されて私は下座の椅子に座ってアドは向かいの公爵令嬢の傍の椅子に腰掛けた。
改めて3人を見て、真ん中のピンク頭の女の子は見たことがなかったが、デボア伯爵が孤児院にいた聖女を養女にしたとの事だったので、彼女がおそらくその聖女だろう。こいつが私が断罪される元凶か。
目はタレ目で男好きしそうな目をしていると勝手に思っていると
「突然呼び立てて悪かったな。食事中だったか」
陛下が謝ってきてくれた。
「いえ、そのような」
まだ、食事には口もほとんどつけられていなかったし・・・・陛下が食事のことに言われたので、まだほとんど何も食べていない事を思い出していた。
グーーー。
そう思うと少しお腹がなった。えええ! 今鳴るか?
私は真っ赤になった。
「何ですか、フランソワーズ、はしたない」
妃殿下に注意される。アドも笑っている。普通婚約者ならフォローしろよ。まあ、見舞いに来ないくらいだからこんなものかもしれないが・・・・。
「まあ、良いではないか王妃。フランソワーズ嬢も育ち盛りなのだから」
「しかし、淑女としてはどうかと思いますが、ねえ、グレース」
「まあ、王妃様。フランソワーズ嬢は文武両道のご令嬢です。食事量も人の2倍食べられると聞いていますし、多少のことはお目をつぶっていただくしか無いのではありませんか」
私はその言葉にプッツンキレた。こいつ、いつもいつも私に突っかかってきてくれて。
ここでご夫妻がいらっしゃらなければ喧嘩していたところだ。
「まあ、この前とあるカフェで少食のくせに2個もケーキを食べて倒れられたご令嬢に比べたら、たしかに食事の量は多いかもしれませんが」
「な、何故その事を・・・・・」
グレースが慌てた。
ふふんっ、ルブラン家の情報収集能力を馬鹿にするなよ。王都で有名なラブーというケーキ屋があって、グレースはそこで食べ過ぎで気分が悪くなって医者を呼んだと聞いている。あそこのケーキはそれでなくても大きいのだ。そらあ、2つも食べたら気分が悪くなるわよ。
「まあ、そんなことよりも、今日二人を呼んだのは新しい聖女を紹介しようと思ったのだ。彼女が聖女のローズ・デボア伯爵令嬢だ」
陛下が話題を変えて聖女を紹介してくれた。
やっぱりこのピンク頭か。こいつのせいで3ヶ月後に断罪されるのね。私はまじまじと聖女を見つめた。
「ローズ・デボアと申します」
ピンク頭は私を無視して、アドに向かってカーテシーをした。
「アドルフです。どうぞよろしく」
アドが如才なく頭を下げた。
「そして、彼女が私の婚約者のフランソワーズ・ルブラン公爵令嬢だ」
アドが私を紹介してくれた。
「フランソワーズ・ルブランです」
私がカーテシーをした。
「ローズ・デボアです」
ローズは私に頭を下げた。おいおい、カーテシーしたんだからお前も返せよ。私は言いそうになって慌てて口を閉じる。
それを見て横でグレースがニヤリとしている。
このピンク頭、孤児院出身で礼儀作法が出来ていないのは判るが、絶対にわざとやっていやがる。
私は少しムッとした。何でわざわざこんな奴のためにここに来ないといけないのだ。今はクラスメートと懇親を深める大切な時なのに。私はもう帰りたくなった。
「まあ、まだまだ、ローズ嬢は慣れていない面も多々あると思うのだ。一応学園で一番高い身分のお前たち3人に聖女のことを頼もうと思って、今日は忙しいところに集まって貰ったのだ。3人共聖女をよろしく頼むぞ」
「かしこまりました」
3人は頷いた。
「クラスはグレース嬢と同じAクラスだったか」
「はい」
「グレース嬢、くれぐれもよろしく頼むぞ」
「お任せ下さい」
陛下のお願いにグレースが頭を下げた。
「アドルフ様は何クラスなのですか」
ローズがいきなり聞いていた。それもいきなり名前呼びかよ、と私は思わないでもなかったが、平民たちにフラン呼びを強制しようとしている手前何も言えないんだけど、なんか少しムカつく。
「私はA組だけど」
「あ、じゃあ私と一緒ですね」
嬉しそうにローズが言う。学年が違うっていうのに。
でも、同じクラス名で嬉しいのだそうだ。
「そういえばフランソワーズ嬢は何クラスでしたかしら」
白々しくグレースが聞いてきた。
「私はEクラスよ」
「えっ、そんなクラスあるんですか」
「本当にね」
聖女とグレースの二人で馬鹿にしてきた。
「本当じゃな。フランソワーズ嬢よ。今度は何をしたのだ。この前は宮殿の中で剣術稽古をして、怪我をしたと聞いて心配したのだが、」
陛下までが心配されて聞いてこられた。学園皆平等で、何クラスでも関係ないと思うんですけど、クラス分けの基準が成績順でないことは確かだ。
「陛下、私めはせっかくこのいろんな優秀な方々が集っている学園なのに、お三方のように貴族だけで固まっているなんて、もったいないことはしたくないのです。学園は皆平等と建前上は言いますが、Aクラスは代々伯爵以上の貴族の子弟しかおりません。貴族だけで固まることなんて卒業したら自動的にそうなってしまいます。でも、始祖のお考えになられた『学園は基本皆平等』というお考えは、学園にいる間は色んな方々と交流を持つ事こそが、この国の今後の発展に繋がっていくと言うことではないかと私は思ったのです」
「そうか、さすが公平を重んじるルブランの血よの。それでわざわざ一番下のEクラスにしたのか」
感心したように、陛下がおっしゃった。いやまあ、そんな高尚な理由じゃないんだけど。動かすなら一番下のEクラスが簡単で楽だと思っただけなんだけど。
「はい」
私はそんな考えはお首にも出さずに頷いた。
「そうか。今後の国の発展のために考えてくれているのか。そのような者が未来の王妃とはこの国もますます発展していくだろう。なあ、王妃よ」
「左様でございますね」
王妃は仕方なさそうに頷いた。よし、釘をさせた。これがバレたら王妃が色々文句を言ってきそうだと思ったんだけど、陛下のお墨付きは貰ったし。
「フランソワーズ嬢よ。これからもよろしく頼むぞ」
「はい。精一杯努めます」
うーん、ピンク頭らにムカついたから言っただけなのに、陛下にここまで褒められるとは思っていなかった。私が前世で経験できなかった青春を今楽しむためにやっているだけなのに・・・・。
悔しそうにこちらを見ているピンク頭とグレースにざまーみろと私は心のなかで思ったのだ。
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