第3話 訪ねてきた騎士
「何をしたんだ?」
怒りすら滲ませて、その男、国王は呼び出した少女へ問いかけた。
「別になにも。
他のお妃様たちからお茶の誘いを受け、その席で余興を命じられたので私が知る物語をお話ししただけですが」
それがなにか?
とちょっとだけ国王を、自分の旦那でもある男へ向けてからかうように少女は言い返す。
少女の名前はアナスターシャ。
銀色の髪と同色の瞳をした、まだまだあどけなさが残る少女である。
つい最近、様々な事情が絡んで側室の一人として召し上げられた男爵家の令嬢だ。
歳は他の側室と比べると、身分もそうだが一番低い十五歳だ。
対する国王は彼女より五つ上の二十歳である。
ナターシャの兄イクスと義姉のミズキと同年代である。
少々、人間性に問題はあるものの、王としての人気はとても高い。
「ただの物語で妃たちが泣くと?」
「泣くんじゃないですかね?
耐性があればたぶんつまんないって言う程度のお話でしたよ。
まぁ、私も友人に聞いた話をしただけですが」
「……質問を変えよう。
いったいどんな物語を彼女たちに話したんだ」
「怪談、怖い話ですよ。
ゴーストテイルってやつです」
とは言っても、中中刺激の強い話が多く、ロマンス小説ですら下世話なものとみられている貴族階級ではドマイナーといえるジャンルだ。
無いわけではないが、そのほとんどが子供に言うことをきかせるための脅しとして使われる。
言うことをきかなかったら、お化けがきて食べられちゃうよ、とかそういうレベルのものだ。
そんな子供騙しな話をお茶の席でされて、側室たちが怖くて泣いたとでも言うのだろうか、と国王は不思議で仕方がなかった。
学生時代にもそういった類の話は耳にしていたが、どれも信ぴょう性にかけていた。
「興味、ありますか?」
アナスターシャが挑戦するように言ってきた。
国王はそれを小娘の挑発だと受け取った。
興味を惹かれたというのもそうだが、たかが子供だましのおとぎ話で妃たちがあのようにおびえるとは到底思えなかったのだ。
「ではどんなお話を聞きたいですか?」
聞いてそのうえで鼻で笑ってやろう。
国王はそう考えていた。
そして、本当の事を聞き出して叱らないといけない。
「どんな?」
国王が首を傾げる。
「ええ、まぁ、友人ほどうまくは話せませんが。
ただ、独身時代には暇つぶしにその友人からいろんな話を聞いていたので、ネタだけならあります」
そう淡々と言われるが、そもそもドマイナーなジャンルである。
そこまで話の種類があるとは思っていなかったのだ。
「どうせなら、とある貴族のお話でもしましょうか」
「貴族?
恋愛小説ならわかるが、ゴーストテイルでも扱っているのか?」
「そうみたいですね」
アナスターシャはどこまでも他人事だった。
ふと、王は思いついた。
「貴族の話は、今回は遠慮しておこう。
その代わり、アナスターシャ、お前がその友人から聞いて、お前が一番怖いと感じた話をしてくれ」
国王の提案に、アナスターシャの人形のような表情がぴくりと動いた。
「いいですけど。
それ、私が一番好きなお話ということになりますよ」
「構わない」
怖いと感じた話をさせる。
それはそれで趣味のわるいことだ。
しかし、アナスターシャは動じなかった。
なぜなら彼女の中では、怖い=面白い話なのだから。
「わかりました」
頷いて、アナスターシャは話し始めた。
それは友人から聞いた、そしてその友人がアナスターシャのために色々設定などを受け入れやすいように変えた話である。
それを、語り始めた。
その様子を受けて、控えていたメイドがお茶を入れる。
なんなら茶菓子も用意してくれた。
そして、心なしかメイドの表情が楽しそうなのである。
じつは、先日の茶会からアナスターシャの話は一部のメイドやそのほかの城で働く者たちには有名なのだ。
「これは、今から七百年ほど前のお話です。
とある、盲目の青年のお話です。
友人の話では、この青年、盲目の詩人であり、僧であり、芸人だったとか。
盲目でありながら、楽器を奏で、古い昔話を語っていたそうです」
国王は、おそらく主人公らしきキャラの登場に、設定盛りすぎじゃね?
と思いながら、しかし黙って話を聞いている。
「その方は、とある教会に身を寄せておりました。
他の僧侶たちと違い、目が不自由なものだからできることも限られておりました。
そのため、身寄りのない子供たちのために楽器を使い物語を語ってきかせていました。
その弾き語りはやがて評判になり、休息日には町中から人が集まってくるほどでした」
子供へ読み聞かせるかのように、アナスターシャはスラスラとその物語を紡いでいく。
アナスターシャが無邪気な子供の表情になり、目をキラキラさせて国王を見つめたかと思うと、
「お兄ちゃん、すごいねぇ!!
もっとお話し聞かせてよ!!」
そこで、国王は飲まれた。
アナスターシャが無邪気に盲目の詩人へ物語をせがむ子供、そのものに見えたのだ。
「子供たちの声援に応えるために、大人にもとても人気な物語を青年は語り始めました。
それは、とある国が亡ぶ悲しい悲しいお話でした。
しかし、あまりにも弾き語りが上手で、上手過ぎて聞いた者は感動のあまり涙を流すほどでした。
ある日の夜。青年が教会にて一人祈りをささげていたところ、人が訊ねてきました。
しかし、目の見えない青年にはそれがどんな人なのかまるでわかりませんでした。
いえ、まるで分らない、というには語弊があります。
ガシャガシャと鎧の音が聞こえたので、おそらくさぞかし名のある騎士様なのだろうと青年は考えました。
祈りを捧げていた青年に、騎士様が声をかけました」
ここまで聞いていて、全然怖くない。
むしろ、眠くなってきた。
そう思った時、アナスターシャが
「フォーチ、貴方が噂に名高いフォーチ殿だろうか?」
どうやら、フォーチというのが青年の名前のようだ。
邪悪な笑みはそのままだ。
口角を上げただけじゃない。
目の奥に狂気すら宿しているんじゃないかと思うほど、底冷えのする笑みで、アナスターシャが国王を見つめる。
まるで国王をフォーチのように、見つめる。
しかし、基本一人芝居だ。
今度はころっとアナスターシャは青年フォーチになりきる。
「はい、はい、私がフォーチです。
しかし、すみません。私はこのように目が見えません。
はて? 騎士様、噂とはなんのことでしょう?
貴方様の声は初めて聞く声です。
休息日に来ていただいている方々の誰か、ではないですね?
このような夜更けに、何用でしょうか?
もしや、神父様へ御用でしょうか?
フォーチは答えながら困ってしまいました。
なぜならこの教会の主人である神父様は、とある家でご不幸があり、その葬儀の打ち合わせのために出かけていたからです」
盲目の青年フォーチはむしろ穏やかな笑みを浮かべて、騎士に問いかける。
すると騎士は、またもフォーチとは逆の笑みを深くする。
そこには邪悪しかない、ように国王は感じた。
「いいや、フォーチ殿。実は我が主があなたの弾き語りの腕を見込んで、是非とも物語を聞かせてほしいと言われたのだ。
その主とはとても高貴なお方である」
身分が高い、という部分で今度はアナスターシャ自身の表情が国王に向けられる。
少なくともこの国で一番身分が高い人の前で、設定でしかないが身分が高い、高貴なと表現されているキャラクターの話をしているのだ。
とても奇妙な感じに違いない。
「フォーチの問いに、騎士は穏やかに答えます。
この近くにその主が足をお止めになっているのだ。
そして、フォーチ殿、貴方の噂を耳にしたのだ。
是非とも噂に名高い弾き語りを所望しておるのだ。
フォーチはまさか自分の弾き語りを、高貴なお方に所望されるなんて、と驚きました。
たしかに、子供たちにも大人たちにもとても楽しんで貰えていました。
しかし、下手の横好きの芸と言ってしまえばそれまでです。
だからこそ、認められた!!
そう天にも昇る気持ちが湧き上がり、興奮気味にフォーチは快諾しました。
すると、それまでどこか重々しかった騎士の空気が軽くなり、フォーチの手へ触れました。
そして、フォーチを立たせてこう言いました。
そうか、そうか。良かった良かった!
ではすぐにお願いしよう。案内仕る」
心の底から良かったと言う騎士、しかし、その声にはやはり狂気めいたものが滲んでいる。
(設定されている時代が七百年も前だからだろうか?
だいぶ口調も古いような?)
時代が違うから、当時の人たちが受けた感動を現代の自分が受けるとは限らない。
それに加え、まるで何かに取り憑かれたようにアナスターシャが目を爛々と輝かせて騎士になりきっている。
それは、本当に取り憑かれているんじゃないかというほど、リアルだった。
そのリアルさがじわじわとした恐怖を煽る。
(しかし、いったいなにに?
何に取り憑かれるというんだ??
現状、子供向けの絵本に出てくるようなお化けは一切、登場していないし)
国王はそもそも、童心を忘れていた。
だから、こんなにも不思議そうにしている。
無理はない。
しかし、その中にジメジメとした恐れが広がっていく。
「フォーチは、急かされ、疑問に思いながらも騎士の手を取り、高貴なお方が足をお止めになっているという、屋敷まで案内されました。
ダンスパーティーができるほどの、とても広いホールに案内されたのでしょう。
あちこちから衣擦れの音と、フォーチを案内した騎士と同じように鎧を来ている者が大勢いるのか、ホールはザワザワとしています」
国王の幻視している風景も、それ相応の物に変わる。
華やかなパーティー。その余興として、盲目の詩人が芸を披露する。
飛び込みだ。現実ではそんなのはありえない。
(やはり、子供向けだな)
そう思うのに、幻視はそのまま続いた。
「では、騎士様、騎士様の主様はどのような物語をお望みでしょうか?
フォーチが騎士へ訊ねます。騎士はそれを受けて侍女へ目配せします。
なにしろフォーチは目が見えないので、そのやり取りすら分かりませんでした。
少しして、凛とした女性の声が返ります。
我が主は、トランヴァール興亡記を所望しておる。
それを受けて、さらにフォーチは返しました。
なるほど、そうしますと国興しの場面でしょうか?」
トランヴァール興亡記は知っている。
現在この城が建っている国、アルファーベル国が滅ぼした国の名前だ。
正確には、滅ぼしたとされている、いわゆる【伝説の国】というやつで、実在は怪しまれている。
しかし、物語としては受けが良いらしく、度々創作物のネタになっていた。
そしてフォーチが口にした【国興し】というのはその通り、平民だった主人公が国を興すまでの苦労話である。
一番人気の話だから、おそらくフォーチもそれをわかっていて、この場面を提案したのだろう。
「またも凛とした女性の声が答えます。
いいえ。我らが殿は、最後の城塞防衛のくだりをご所望です。
これを聞いて、フォーチは珍しいこともあるものだ、と思いながら、しかし余計なことは口にせず言われた通りの場面、その弾き語りを開始しました」
(人気な場面ではなく、滅んでいく様を望んだ?)
ここで国王は首を傾げて、物語を紡ぐアナスターシャを見る。
まだ十五歳の少女は、楽器を弾きならす真似をして、語り続けている。
はたから見れば滑稽だが、しかしそれを気にしていられないほど、国王は話に飲まれていく。
何かがおかしい、そう思うもののどこがどう
細かい話の矛盾点などではなく、この登場人物たちのやり取りに気味悪さを感じ始めていた。
そう、それこそが、ゴーストテイルが持つ【恐怖】がもつ魅力であり、おそろしさなのだ。
人は、わからないことを怖がる性質がある。
アナスターシャの友人はこの性質を利用した話を語るのが実に上手いのである。
「楽器が奏でる音が、城に残り国を起こした王が病死し、残された忘れ形見を守る者たちの悲鳴と、叫びを表現します。
砲弾の音、敵軍の咆哮、それすらも音で表現しました。
フォーチの弾き語りに、いつしかそのホールに集まっていた人々はすすり泣きをしていました。
滅んでいく国、閉じていくかつて確かにあった悲惨な出来事。
それに対する、すすり泣きでした」
伝説では、この物語の主人公が死亡したあと、あちこちの国から攻め込まれあっという間に滅亡してしまったらしい。
残された幼い王子は母親とともに城から身を投げたとされている。
ちなみに、その場所は現代にまで残っていて、心霊スポット扱いになっていたりする。
実際、その場所では自殺者が多いのだ。
「ここでようやく、フォーチを呼び出した高貴なお方が彼に声をかけました。
見事であった。余は満足じゃ。これから七日七晩ここにきてそなたの弾き語りを披露せい。
それなりの褒美をとらせるぞ。
どうやら満足してもらえたようで、それだけでフォーチは安心していました。
しかし、その申し出にさすがに驚きます。
だからといって、無下にはできません。
それに、褒美、というのもとても魅力的でした。
がめつい、金に汚い、そんな誹りを受けようとも、その褒美があれば、教会で面倒を見ている子たちに甘いお菓子をご馳走できる、フォーチはそう考えたのです。
そのため、その申し出を快諾しました
しかし、三日目にもなると子供たちが、フォーチのことに気づいてしまいました。
そして、心配のあまり神父様に告げ口してしいまったのです。
話を聞いた神父様は、三日目の昼にフォーチを問いただしました。
しかし、フォーチはなにも言いません。言えなかったのです。
何故なら、初日の時に騎士様から、このことは誰にも話すな、と言い含められていたのですから」
(律儀にそれを守った、と。
もしかしたら、お忍びで物見遊山でもしていたのだろうか?)
じわっとする嫌な予感。それをごまかすように国王はそう考える。
「神父様は何も言わないフォーチに、さぞかし深い理由があるのだろうと考え、それ以上には追求しませんでした。
その代わり、知人に頼んでその日の夜も一人出歩くフォーチの後をつけさせました。
本当は神父がやるべきことなのですが、立て続けに仕事が入ったためそれも叶いません。
そのために知人に助けを求めたのです。
神父の知人はフォーチの後を追います。
盲目だというのに、フォーチの足はふらつくこともなくしっかりとした足取りで夜道を進んでいきます。
教会は周囲を鬱蒼とした木々に囲まれており、あちこちに古い時代からある墓が点在しておりました。と言っても森、というほど深くはありません。
なんなら子供たちがかくれんぼをして遊べる程度には安全な場所でした。
神父の知人も子供の頃に、この場所で遊んだことがありました。
なので土地勘はあったのです。
そのため、懐かしいな等と思いながら視線をフォーチから一瞬外した時です
なんとフォーチの姿を見失ってしまいました。
大慌てで知人は、盲目の詩人を探します。
するとどこからともなく、フォーチの持つ楽器の音が響いてきました。
その音を頼りに、神父の知人はフォーチを探し当てました。
そして、知人はその光景にわが目を疑いました」
そこで、じぃっと語り部であるアナスターシャは国王を見た。
なんだ、神父の知人はいったいなにを見たんだ、そう逸る国王をアナスターシャは見つめている。
反応を確認しているようだ。
いやそれにしては、視線がずれているような?
背後にだれかいるのか?
そんな気配はない。
無い、はずだ。
少し離れたところに給仕のメイドが控えているくらいだ。
真後ろに誰かいるなどありえない。
「どうした?」
国王はアナスターシャへ問う。
すると、彼女はあいまいな笑みを浮かべて、
「いいえ、なんでもありません」
そう答え、続けた。
「神父の知人が目にしたのは、粗末な石が並ぶそれはそれはとても古い墓地でした」
(は?どういうことだ??
フォーチが呼ばれたのは高貴なものが主催しているパーティー会場だったのでは??)
国王は訳が分からず混乱する。
そして幻視している映像は華やかなパーティー会場と、不気味な夜の墓地とを交互に映し出す。
幻想と、現実。
その光景がチカチカと瞬くように映し出される。
「そこでは青白い火の玉がフォーチを囲んで飛び、あるいはゆらゆらと揺れていました。
その青白い火の玉の中心で、フォーチは弾き語りをしていました。
そして、あちこちからすすり泣く声が、神父の知人の耳にも届きました。
すぐに、神父の知人は悟りました。
フォーチは霊に取りつかれている。このままでは取り殺されてしまう。
そこでわざと神父の知人は大きな声を出して、フォーチを呼びました。
すると、たちまちフォーチを取り囲んでいた火の玉は消えてしまったのです。
そして、無理やり神父の知人はフォーチを教会に連れ帰りました。
朝になって帰ってきた神父様に知人は自分が目にしたことを話します。
神父様は顔を青ざめさせました。
このままではいけない。
そう考え、フォーチにすべてを伝えました。
霊に魅入られ、いずれ取り殺されるだろうこと。
だから、もう騎士の手をとってはいけない。
弾き語りに行ってはいけない。
そう伝えました。
そして、フォーチを霊から守るために知恵をしぼりました。
聖典、それを燃やし灰にしたものに聖水を含ませたものを彼のからだ中に塗りたくりました。
神の聖なる言葉がお前を守ってくれる。
これを塗ることで、お前は霊たちには見えなくなる。
しかし、決して声を発してはいけないよ。そうすればたちまちこの守りは無意味なものになるからね。
神父様はそう言い含めました。
そして、その夜も騎士の霊は現れました。
昨日の邪魔が入ったことには触れず、フォーチの名前を呼んでいます。
フォーチ殿、フォーチ殿ぉぉおお??
どこにいるぅぅ?」
呼ぶ声が不気味さを増している。
背筋がぞわぞわと寒くなる、そんな声だ。
「亡霊の騎士は教会、その礼拝堂をうろつき、フォーチを探します。
しかし、見つかりません。
と、その時でした。亡霊の騎士は見つけたのです。
見つけてしまったのです。
宙に浮かぶ、二つの耳を」
「えっ」
自分でも情けないと思うほどの声が国王の口から洩れる。
しかし、物語は終盤も終盤だ。
こんな中途半端なところで終わることはできない。
「そう、そうなのです。
神父様のミスでそこだけ灰を塗り忘れてしまっていたのです。
体も顔もない。口もない。
口がないなら返事はできないな。
騎士はそう口にしました。
しかし、子供のお使いではないのです。
せめてここにフォーチを迎えに来た、という証拠を持ち帰らなければ彼の仕える主に申し訳が立ちません」
「え、おい、まさか」
国王の顔がこの先の展開を予想して、ますます悪くなる。
給仕の侍女はむしろワクワクしながら聞いている。
国王の言葉には答えず、アナスターシャは続けた。
何なら座っていた席から立ちあがり、語りはそのままに国王の背後に立つ。
「騎士は、フォーチの耳に触れ、こう言いました」
騎士の行動を再現しているのだろう。
アナスターシャは国王の耳に触れてくる。
そして、
「しかとこの場にフォーチ殿を迎えに参った証拠として、この耳を持ち帰ろう。
さすれば、我が主もお許しくださることだろう。
そして、思いっきりフォーチの耳を引きちぎったのでした」
アナスターシャが国王の耳を掴んで、左右に引っ張る。
そして、叫んだ。
フォーチの耳が引きちぎられたがため、その痛みによる絶叫を再現したのだ。
「ああああああああああああ!??」
アナスターシャがフォーチの絶叫を再現すると同時に、自分とフォーチを重ねていた国王も叫び声を上げた。
「ぎゃぁああああああああああ!!??」
そして、ぱっとアナスターシャは国王の耳から指を離してクスクスと笑い始めた。
「そうそう、このお話、元は私の友人の故郷のお話をこの国向けにしたものらしいんですよ」
思わず耳がちゃんとついてるかどうか確認している国王へ、アナスターシャはそう説明する。
「友人に比べればまだまだですが、それでも陛下に楽しんでもらえたようで良かったです。
あ、これを言うのを忘れてました。
このあと、二度と亡霊がフォーチの前に現れることはありませんでした。
そして後で調べてわかったのですが、どうやらフォーチが亡霊の騎士に連れられ招かれた墓地は、トランヴァール国の者が埋葬されている、という記録が出てきたのです。
おしまい」
これで、どうやら本当に物語は終わりのようだった。
しかし、最後の最後でアナスターシャは怖がっている人間をつき落とすことを忘れない。
「そういえば、陛下はご存知ですか?
こういう怪談話、怖い話をしているとですね。
それが作り話であれ、実話であれ寄ってくるらしいですよ、幽霊」
そして、パンパンと彼女は手を叩いてみせた。
その音が、少し鈍く響いた。
「な、なにをしてるんだ、ナターシャ」
愛称で国王に呼ばれる。
よほど動揺しているようだ。
「いえ、これも友人から聞いたんですけどね。
確認の方法なんだそうです。
手を叩いて響かないと、
そして、アナスターシャはあの嫌な笑みを浮かべて、こう忠告してきた。
「夜、なにも来ないといいですね、陛下??」
その視線はやはり、国王から外れその背後へと向けられていた。
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