第2話 城を彷徨う侍女
「へ? 王家に輿入れ? 私がですか??」
ミズキとミズキの語る物語に出会ってから五年。
ナターシャとミズキは、身分こそ違うものの友人と呼べる関係になっていた。
イクスとミズキの関係も良好で、昨年式を挙げた。
そのため、ナターシャとミズキの関係は義姉妹というのが正しいが、お互いが友人と認識しているため、誰がなんと言おうと友人である。
元々、庶民との距離が近かったし、何より両親が恋愛結婚だったため、自分もそうなるんだろうなぁ、とナターシャは考えていた。
そんなナターシャに持ち上がった王家からの縁談の打診。
「んー、男爵家には特に王家が欲しがるような、めぼしい物は無いですよね?
借金をしてるわけでもなし、私が王家に入るメリットも無ければデメリットもないのでは??」
既に現王にはお妃様がたくさんいる。
十人だったか、二十人だったか。
あいにく、ナターシャは興味がないのでわからない。
しかし、あちこちの有力そうな家から令嬢が嫁いでいたはずである。
男爵家が、というよりも男爵領が誇れるもの、というとやはり創作物だろうか?
「それが、どうも今のお妃様たちの誰かが、ウチの領の創作物のファンみたいで。
ほら、王都だと描写とか表現に対する風当たりがキツイだろ。
過激な表現扱いされて向こうじゃ読めないものも多いんだ。
でも、とにかくそのお妃様がいかに、男爵領産というか出身の作者の作品が素晴らしいかをプレゼンして、男爵家の娘を嫁にして、巷では読めない作品を後宮に入れろと直談判したみたいで。
話によると、正室のアザリーナ様も説得に参加したとかなんとか」
そんな説明をするイクスの横で、何故かミズキが引き攣った笑顔を張り付かせている。
かと思いきや、手を挙げて、
「ごめん、それ、私のせいかも」
と、白状してきた。
聞けば、ミズキは男爵領だけではなくあちこちの領で、あの芸、紙芝居を披露していた。
当然、王都も例外ではなかった。
基本的にミズキは全国を転々としていた。
男爵領にいないことも多かったのである。
王都では、ナターシャ達や男爵領に住む人達に好評だった胸糞話や怪談は描写が過激すぎる、子供に悪影響を及ぼすとして大人たちの不評を買っていた。
しかし、どうやらお忍びでミズキの紙芝居を見に来ていたお妃様達には大好評だったとか。
そうと知らず、男爵領では今やミズキの披露したお話は本になっていて、普通に読めると言ってしまったのだ。
そう、あまりに好評だったために出版社からミズキに本を出さないかと話が来たのだ。
打診はそれだけではなかった。
おそらく領民たちもナターシャと同じで既存の物語に飽き始めていたのだろう。
とある劇団からも舞台化しないかという話が来ていた。
ミズキはいくつか条件を出すことでこれらを承諾した。
いまや、新しいジャンルとしてホラーは、男爵領限定だがあちこちの書店でその棚を広げつつある。
なにしろ、今までマイナーで不人気、子供への教育の為だけのお話とされていたジャンルだった。
しかし、やり方次第で娯楽となり得るとわかったのだ。
そんなわけで数年前から男爵領でしか読めない物語として、ホラーはその知名度を地味にじわじわと広げつつあった。
しかし、おそらく目的はホラーではないだろうと思われる。
というのも、規制とかの関係で男爵領でしか読めないものは他にもあるからだ。
「え、ええー、そんなことありえますか?」
話を聞いて、戸惑ったのはナターシャだった。
物語が読みたいなら、もっとやりようはあるだろうに。
たとえば表現の規制を緩くするとか。
ゾーニングとかそういうのの整備を徹底するとか。
わざわざナターシャを嫁に迎えるという選択肢以外にもありそうなものだが。
「あー、有り得るかも。
陛下もかかわってるの、アザリーナ様の説得もそうなんだろうけど。
俺も原因かも。あと
と、今度はイクスが白状した。
先日、ナターシャが成人したということもありイクスとミズキは正直に白状した。
それによると、おそらく正室含めた一部の妃たちの目的は、女性向けのウフフな作品。
そして、正室たちに説得されているふりをしているが、国王の目的は男性向けのウフフな作品だろうと思われるのだ。
というのも、ミズキは王都で深夜の紙芝居を女性向けで公演しており、イクスはイクスで学院時代に王都では規制の関係で中々お目にかかれないエッチな本を当時の仲間たちに回していた。
国王の目的もおそらくそれではないか、とのことだった。
(……
しかし、王家からの打診ということもあり無下に断れないのも事実だ。
嫌だったが、仕方ない。
この話を断って男爵家が目をつけられても困る。
(でも政略結婚なんて珍しくもないですし)
これが政略になるのかどうか、いやたぶんならないだろう。
家格があがるわけでもないし。
色々考えた結果、話を受けることになった。
そこにはナターシャなりの打算もあった。
目的が結婚ではなく、男爵領の創作物が目的なら子作りはしなくていいだろうし。
爵位も他のお妃さま達に比べれば一番低い。
さらにさらに、正室もそうだが側室のほかに寵姫がいるとかいないとか。
となれば、ナターシャがお手付きになる可能性はかなり低い。
ゼロと言ってもいいだろう。
実家から離れるデメリットと言えば、最新作をすぐに手に入れられない、舞台なら見に行けないことくらいだ。
まぁ、それこそ他のお妃様たちが望んでいるように後宮に送ってもらえればいいだけだろうし。
そんなこんなで、ナターシャは後宮へ入ることになったのだった。
***
後宮へ来てその日のうちにナターシャは正室に呼びつけられた。
そして、歓迎された。
よほど彼女たちも飢えていたようだ。
ナターシャの義姉が広めてしまった衆道、つまりBLというジャンルに。
手土産に薄いが厚い本を持参したのだが、まぁ、それはそれは喜んでくれた。
しかし正室に可愛がられている、というのは、陰謀が渦巻いている後宮では正室と対立している側室、第二妃に目をつけられやすくなるということで。
第二妃カトリーナは正室と同じ家格である公爵家の出身だ。
そのカトリーナによる嫌がらせが始まったのだ。
たとえば侍女がつかなかったり、そのため食事が出てこなかったり。
ちょっと割り当てられた部屋を出たら、物がなくなったり、壊されたり。
まぁ色々あったのだが。
幸いにして、持ち込んだ本が傷つくことはなかったが。
おそらく国王の目的が創作物だったからだろう。
わからない、微妙な嫌がらせが続いていた。
しかし、そもそもナターシャは本を読めれば、物語に触れられていれば幸せな人間なので、嫌がらせに気づくのに二ヶ月ほどかかってしまった。
しかも嫌がらせを受けている、と知ったのも見かねた正室であるアザリーナ派の他の側室からの助言でだった。
ミズキのホラー話にどっぷりつかりすぎていて、きっと幽霊の仕業に違いないと期待していたのだ。
むしろ、幽霊の正体見たり枯れ尾花でがっかりしたくらいである。
さて、そんなナターシャにしびれを切らしたのか、カタリーナから茶会の誘いが来た。
辱めようという魂胆である。
ちなみにこのころには正室のアザリーナの手配によってナターシャ付きの侍女がちゃんと手配されていた。
そのため、読書に夢中で茶会をすっぽかすということはなかった。
いや、もしかしたらナターシャが茶会をすっぽかしていたほうが、第二妃とその取り巻きの側室たちにとっては幸せだったのかもしれない。
まぁ、でもそれは後の祭りというやつだ。
「余興、ですか」
カタリーナに何か面白い話をしろ、と言われてついそう返してしまった。
下世話な話しかできないだろう、と言わんばかりの嫌な笑みがカタリーナだけではなくその場にいる他の側室達から向けられている。
「どのようなお話がお好みでしょうか?」
少し考えたあと、ナターシャはそう訊ねた。
求められたのだから、なるべく好みに合う話を、と考えての返しだった。
しかし、鼻で笑われてしまう。
話の内容など、彼女たちにはどうでもいいのだ。
ただナターシャに身の程をわからせて泣かせることができればそれでいい。
そう考えていたのだ。
そのため、
「好きな話をしてみなさいな」
なんて言われてしまう。
ナターシャの好きな話、となると【訪ねてきた騎士】だが。
あれは、なんというか王都では残酷描写が過激な部類に入るので、話したらここにいる妃たちはショック死するかもしれない。
身近なものをネタにして、なるべく残酷描写が少ないやつがいいかもしれない。
(そうですねぇ。あの話でしょうか?)
「わかりました。
それでは、こんな話はいかがでしょう?
タイトルは【城を彷徨う侍女】と言います」
一応タイトルを口にしてから、ナターシャは語り始めた。
「昔々、ある王様とお妃様に仕える侍女がおりました。
この侍女、たいそうな働き者で、王様もお妃様もとてもかわいがっておりました」
そんな出だしに、カタリーナ含めた側室達がクスクスと馬鹿にした笑いを浮かべ始める。
子供だましの昔話だ。
馬鹿にしてやろう、そう思いながら話の先を待つ。
ナターシャはナターシャで、
(ミズキに、お話のやりかた聞いておいてよかったです)
そう内心で呟いていた。
「さてさて、この侍女、名前をアイリスと言いました。
アイリスは雇い主である国王夫婦には好かれておりましたが、仕事仲間達からはそのことで嫌われておりました。
ふん、なにさ。アイリスのやつ調子に乗っちゃってさ。
王様たちは騙されてるのよ。
そうだ、ねぇ、皆でアイリスを懲らしめましょう??」
ナターシャが、アイリスを懲らしめるための算段を提案した侍女達のセリフを言った時だった。
リアルで、とても嫌な言い方だった。
その演技に、舞台などの観劇でプロの演技を見慣れているはずの側室たちの笑みが固まった。
凍りついた、と言った方がいいかも知れない。
さきほどまでの大人しそうな男爵令嬢の空気が消えていた。
役に取りつかれている、とでも言えばいいのだろうか?
とにかく、ナターシャではないと感じてしまったのだ。
「ちょっと身の程を思知らせてやる。
侍女たちのたくらみはその程度のものでした。
さて、どうしようか?
どうやって、アイリスを懲らしめようか?
侍女たちは計画を立てます。
誰も止めるものなどおりません。
何故なら今の彼女たちにとっては、アイリスを困らせて懲らしめることこそが正義だったのですから」
ここで茶会に参加していた側室達が顔色悪くして、目配せし始める。
本能的なものが、この話はヤバい、と感じ始めているのだ。
しかし、ナターシャはここで逃げ出す可能性のある側室へ向けてこんな事を言った。
「あ、怖くなったらいつでも言ってください。
途中だろうとやめますから。
でもこの話、うちの領だと幼児にとても人気なんですよ。
親御さんたちにも人気ですが、教育にとても良いって。
だけど、怖い、嫌だという方に無理やり話しても楽しくありませんからね」
にっこり、と笑み付きで言われてしまう。
こうなってしまっては逃げられない。
この茶会の主催者であるカタリーナの顔に泥を塗ることになってしまう。
集められた側室達は黙って話を聞くしか選択肢がなかった。
見る人が見ればナターシャが喧嘩を売ったように見えなくもないが、この提案はむしろ親切心から来ていた。
嫌がるものを無理やり紹介したところで、好きになどなってくれないのだから。
怖いを楽しんでもらおう、がナターシャのモットーだったりする。
「あ、お茶ありがとうございます」
微妙な空気になりつつあった茶会だが、そこでナターシャにお茶の給仕をする者が現れた。
とても楽しそうに、ニコニコと茶と茶菓子を用意してくれた。
その紅茶に口をつけ、ナターシャは話を再開する。
「さて、正義に燃える侍女たちが考えたのは、王家に伝わる宝石を隠して、それをアイリスのせいにしてしまおうというものでした。
えん罪というやつです。
この宝石は代々、王妃様が管理しておりました。
国の大事な催しの時に身に着けていました。
だから、王妃様付きの侍女はその場所がどこかもよく知っていました。
ええ、もちろんアイリスもその場所をしっておりました。
アイリスとは別の王妃様付きの侍女も、アイリスが可愛がられているのを気に食わないと思っていたので、侍女たちの計画に賛同、参加したのです。
そして、計画は実行に移されました。
ある日のこと、傍仕えの侍女たちの報告によって、王妃様は宝石がなくなっていることを知りました。
そして、これまた侍女たちの言葉を信じ、王妃様のみならず王様までもがアイリスが宝石を盗んだ犯人だとして責め立てたのでした。
アイリスの部屋から宝石が見つかったことも決定打となりました。
当然身に覚えのないアイリスは無実を主張します。
信じてください、信じてください、王様、王妃様。
私は決して決してそのようなことはしておりませぬ。
泣きながら、頭を地面にこすり付け、アイリスは必死に訴えます。
その様子を、アイリスを嵌めた侍女たちはクスクス笑いながら見ておりました。
いい気味。
ざまぁみろ。
あはは、みっともないったらありゃしない。
口々に、そして実に楽しそうに侍女たちはアイリスの可哀そうな姿を見て笑いました」
役に合わせてコロコロとナターシャの表情が変わる。
その演技に、物語に側室達は飲まれていた。
彼女たちが、自分を投影しているのはどのキャラだろうか?
哀れなヒロインのアイリスか、それとも側室ではあるが妻という立場にある王妃か。
はたまた、醜く嘲笑し続けている侍女たちか。
こればかりは確認しないとわからない。
ただひとつ言えることがあるとするなら、人の内面の醜さを扱った作品は王都には少なく。
ましてや、基本的に貴族社会では一部の物語作品が下世話とされているのである。
つまり、ここに集まっている妃たちには、そういった作品への耐性がゼロだったのである。
自分たちがやっていることを物語を通してぶつけられる。
よほど頭がお花畑でないかぎり、気分は良くならないだろう。
ましてや、彼女たちは知らなかったのだ。
ナターシャが、義姉によって胸糞エンドの作品をはじめとしたホラー作品の世界にドハマりして五年になるということを。
「さて、そんなアイリスには王妃様と国王様からの酷い折檻がまっていました。
いいえ、それはもう拷問と言っても差し支えのないものでした。
鞭で打たれ、冷たい井戸の水をぶっかけられ、殴りつけられます。
しかし、アイリスは自分の無実を訴えつづけました。
わかりました。
王妃様がそういって、提案しました。
そんなに認めたくないのなら、しかたありません。
ですが、貴方の部屋から宝石が見つかったのも事実です。
罰としてアイリス、貴方には今日から三日間の城の掃除を命じます。
その間、傷の手当ても食事も無しです。
いいですね、アイリス。
はい、はい、わかりました。王妃様。
アイリスは泣きながら承諾しました。
無実を訴えても信じてくれるつもりはかけらもないのだ。
えん罪を被ったまま罰を受けるしかない。
そう泣きながら、哀しさと悔しさで、アイリスの頭はどうにかなってしまいそうでした。
それから三日間、アイリスはボロボロの姿でお城を掃除して回りました。
その姿を見て侍女たちは満足していました。
三日目のことです。
食事もまともにとれなかったアイリスはふらふらと井戸へ近づいていきました。
汚れてしまった手を清めるためです。
しかしまともに食事もとれず、折檻による傷すら手当てしていなかった彼女は、その時、とうとう力尽きてしまったのです。
少しして、どぼんっという音が響きました。
しかし、城で働く者はみんな忙しくしておりその音に気づきませんでした。
さて、その日の夜のことです。
朝から姿の見えないアイリスに気づく者がおりました。
アイリスを嵌めた侍女たちです。
今日はまだ、あの情けない姿を笑っていませんでした。
きっとどこかでサボっているに違いないわ。
侍女の一人がそんなことを口にしました。
きっとそうに違いない、王妃様に言いつけてもっと折檻してもらいましょうと、侍女たちは意気込みました。
王妃様に言いつけにいこうとした時でした。
お城を守る警備兵がバタバタと国王様の部屋に駆け込んで行くではないですか。
それも必死の形相で、駆け込んでいくのです。
そして、その報せが国王に、王妃様に、そして侍女達にもたらされました。
アイリスが井戸の中で死んでいる!!
ここでようやく、侍女達の笑顔が消えました。
みんなが皆、アイリスは井戸に身を投げたのだと言いました。
そこに真実はありませんでした。
あるのは、ただ事実のみです。
さて、その日の夜のことです。
とある侍女の部屋の扉が、コンコン、コンコン、とノックされました。
昼間のこともあり、寝付けなかったその侍女は深夜にも関わらず起きていたのです。
そして不思議そうに来客へ声をかけました。
同時刻。
夜の闇を切り裂くかのような悲鳴があがりました。
城中のみんなが、なんだなんだと起きてきます。
すると、部屋に来客のあった侍女が果物ナイフを手に暴れているではありませんか。
くるな!! 来るな!!
違う、私のせいじゃない!!
だって、お前が!!
お前が悪いんだ!!
アイリス!! お前が全部悪いんだ!!」
そう叫んでねめつける演技で、ナターシャがテーブルを囲んでいる妃たちを見た。
(うーん、やはり耐性がないようですね)
プロどころか、義姉にも劣る演技を披露しているのに、涙目で耳を塞いでいる妃が何人かいた。
演技ではあるが、ナターシャと目があったとある妃は顔を真っ青にして視線を逸らしてしまった。
(しかたありません、巻きで行きましょう)
義姉から聞いた話ではまだまだ恐怖は続くのだが、ここは簡略版の胸糞エンドにして早々に終わらせてしまおうとナターシャは考えたのだ。
最初の予定では救済エンドにするつもりだったが、ここまでおびえているのだ。
「果物ナイフを持って見えない場所に切りかかり、わけのわからない獣じみた叫びをあげていた侍女でしたが、どうしたことでしょう。
いきなり自分の喉をそのナイフで突いて死んでしまいました。
その日からです。
一人、また一人と、アイリスを嵌めて嘲笑っていた侍女が次々に気が触れて暴れ、そして自ら死んでいったのです。
だれからともなく言い出しました。
これはアイリスの呪いなのだ、と。
中には城内を彷徨いあるく、幽鬼となったアイリスを見た者すら出てきました。
お城は呪われている、という噂も立ち始めていました。
それらが王様と王妃様の心を蝕んだのでしょう。
とうとうこの二人も気が触れてしまいました。
訳の分からないことを口走り、まるで獣のように叫び、次々とお城に仕えていた人たちを殺して回りました。
実は気が触れてしまった人には、殺した人たちがアイリスに見えていたのです。
幻影でした。
しかし、そんなこと気が触れた者には気づく手立てがありませんでした。
さて、そんな彼女たちにしか見えていなかったアイリスの幻影ですが、実はこんなことを訴えていました。
信じて、ねぇ、信じて。私じゃない。
犯人は、貴方??
と。
そんな幻影に苦しみ人を手にかけていく様を、ほくそ笑みながら見つめている存在がありました。
えぇ、そうです。
誰よりも、何よりも彼女たちを憎み、恨んでいたアイリス自身でした。
彼女は自分に折檻した国王夫妻が互いに殺しあって死んでいく様を見て、実に満足そうに微笑みましたとさ。
おしまい」
そこで話は終わりだった。
その合図なのだろう、ナターシャは手をパンパンと打ち鳴らした。
良く響く。
そのことに、ナターシャは少しだけ残念そうな顔になった。
しかし、すぐに思い出したようにこう、付け加えた。
「身分もなにもなくなった死後だと、妙な仕返しをされてしまうかもしれないので。
皆さん、他者への厳しめな対応はほどほどにしたほうがいいですよ。
でないと、気が触れてしまうかもしれませんからね。」
ナターシャは笑顔で冗談を言ったつもりだったが、それを笑い飛ばせるほどの耐性を持つ人間は生憎この場にはいなかった。
ふと見ると、何人かはすでにカタカタと震え、または涙を流していた。
(うーん、こんな温い話、泣く要素ありましたかね?)
口に出すとそれはそれで問題なので、ナターシャは何も言わなかった。
第二妃も顔を青くするだけで何も言ってこなかった。
(機会があればちゃんとロングバージョンで、この話を紹介したいものです)
なんてことを考えつつ、ナターシャは紅茶を口にしたのだった。
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