Case.1 探偵なのに盗むんだゆ ➎

 暗い廊下を進んでいると、ヨーグルがそういえば、口を開く。


「さて、今回のミッションについてですが」

「もう知ってるゆ」

「いや、俺は知らないから」

「そう。良成よしなり様はまだ何も知らないにもかかわらず、勇敢ゆうかんにもこの場所へ自分の足でおもむいたのです」

「さすが地球生まれの伝説の勇者ゆ」

「平凡な高校生だからね!? ……確かに自分の足で来たのかもしれないけど、そこに自分の意思はありませんから」

「で、そんな良成様のために説明を。今回は怪盗かいとうをやって頂きます」


 は?


「あるものを盗み出すのです」

「盗み出すんだゆ」

「いやいやいや、ちょっと待て。君達、俺達の事務所の名前覚えてます?」

「『やま田”探偵”事務所』ゆ」

「そう、探偵! 俺とやま田とヨーグルさんはた・ん・て・い! いわば怪盗の宿敵ライバルたる存在なわけですよ!」

「そうでございますな」

「じゃあなんて怪盗?! WHY?! あれか、実は探偵が犯人だったみたいな最近よく見かけるアレ!?」


 錯乱さくらんする俺に、やま田は優しく微笑ほほえむ。


「それはないゆ」

「ああああ、もう、分かるように説明を! この愚かな地球人に!」

「はっはっは。良成様、あまりの動転ぶりにタスマニア星のデビル族みたいな顔になっておりますぞ」


 なんだ、その異星人。

 というか、俺にはお前達が悪魔デビルに見えているよ。


「1週間ほど前、英国に住むとある宇宙人の元に一人の男が現れました。良成様もご存じのあの怪盗です」

「まさか、……ソトス」


 ソトスは伝説の宇宙怪盗と呼ばれる存在で、この銀河の様々な場所に現れては希少レアな鉱石や強大な力を秘めた武器、宝飾品等を狙うぞくだ。

 彼は怪盗らしく事前に予告状を出し、標的ターゲットとなった相手も当然十分な警戒けいかいをするのだが、気がついたらお宝はられてしまうのだ。


「彼が盗み出したのは、『赤皇石こうせき』と呼ばれるもの。一見するとルビーのような見た目ですが、凄まじいエネルギーを秘めており、『正しく』使用すれば」

「すれば?」

「地球は真っ二つでございます」

「不正利用だと思いますね!!」


 地球を真っ二つが正しい利用とかいうヨーグルも大概たいがいである。

 だが、は「嘘を言わない」存在である。

 だから、その言葉は実に重たい。


「より正確には、正しい利用の副作用として、きちんとした処理がされなければ、この地球はおしまい、となりますな」

「何にせよ、この星のピンチゆ」

「そんな石が存在すること自体が問題だけどね。にしても……」


 俺は、ふと気づいたことを口にする。


「それなら取り返すわけだから、俺たち別に盗むことにはならないのでは」

「……」

「……ゆ」

「え、何、この沈黙。取り返すんじゃないの? 元の持ち主にお返しするんじゃないの?」

「はっはっは」

「ゆっゆっゆ」


 ほがらかに笑う宇宙人二名を見て、俺は気づいた。

 こいつら……、そのままパクる気だ!!!!

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