Case.1 探偵なのに盗むんだゆ ⑨

 それが出来るのを知ったのはいつの頃だったか。

 物心はついていたように思える。

 確か、正月三が日の頃だったはずだ。

 久々に父親が帰ってきて、一家だんらんの時間を迎えていた俺は、生まれて初めておしるこ、というものを飲んでいた。


「おいしい! あ、でももっとこの白いの欲しい!」

「あー、でもねえ、白玉もうなくなっちゃったのよ。また今度ね」

「やだ、もっと食べたい! 白玉!」

「そうは言ってもねえ」


 まだ生まれて半年の妹をあやしながら母親は困り、父親はわれ関せずとテレビを見ていた。

 白玉、白玉、とわめく俺は急に静かになったかと思うと、


「白玉ー!!!!!!!!!」


 と、大きな声で叫んでみた。

 だからといって、普通、それで何か起こるなんてことは、ない。

 だが、俺の場合は……、それが起こった。


「うわあ、指からなんか出てきた?!」

「えっ、ええっ?!」


 さすがの母親も目を見開いてのぞき込む。

 指先から、ぽこ、ぽこと先程食べたものと同じ大きさの白玉が次々と出現するではないか。


「ちょっと何、これどうしたの?!」

「分からない! いっぱい出ちゃう!!」

「……ほう」

「ふんぎゃああああああ、うんぎいいいいいいい!!!」


 母親は驚愕きょうがくし、俺は困惑こんわくし、父親は一瞬だけこちらを見、妹はガン泣きした。

 正月は平穏へいおんたれという地球ちきゅう法則ほうそくが乱れ、場は一気にカオスと化した。


 その後、この白玉っぽい正体不明の物体をありがたく頂く――、なんてことはせず、厳重に保管され、母親のつてで、とある研究所に運び込まれ徹底的にその正体を調べ上げられた。


 結果的に、それはまごうことなき白玉であった。


 強いてあげるなら、ミネラルの一種であるモリブデン(元素記号Mo)という栄養素の値が異様に高かったくらいである。

 何はともあれ、俺は指先から白玉を製造出来るという、日常でほぼ使い物にならない、もし使ったら使ったで大騒動になる、はた迷惑で謎過ぎる能力を手に入れてしまったのだった。

 なお、生み出す時、疲労するので、俺も回復するためにある物が必要となるのだが。

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