第104話
「改めて、私は聖女をしているシャナネットと申します。来て早々こんなことになって申し訳ございません」
日を改めて、私は教皇聖下とウィルフレッド様同伴の元、再びシャナネット様と挨拶を交わした。
まだ弱々しいが、これでもだいぶ楽になったという。
聖女様は活動を控えていると聞いていたので、力の証明の患者が聖女であるシャナネット様だったことに驚いたことを伝えると、「聖女が病に倒れたなどと噂になったらまずいでしょう?」とシャナネット様は笑った。
体調が悪くなると自分で回復をかけていたそうだが、かけては悪くなり、かけては悪くなりを繰り返し、気がついた頃には病魔が全身に広がっていたそうだ。
「全身に強い回復魔法が必要になった頃には私にもそれをかけるだけの体力がなかったの。神官や修道女達が回復魔法をかけ続けてどうにかもたせてくれていたけれど、もう限界だった。そのうち時期を見て聖女の死を発表する予定だったけれど、そんな時にパーフェクトヒールを使える聖女が現れるなんて、そんなことってあるのね」
聖女様はまだまだ聖女としての活動を控える気はないようで、これからリハビリをして復帰するのだと意気込んでいる。
あの後すぐにダルトン邸の調査が行われて、に隷属の首輪がダルトンが使用した物だと判明した。
やはり他の部屋からも隷属の首輪をつけた人が見つかり、その他にも寄付金の着服やらいろいろと証拠がでてきたようだ。
ダルトンはもう流石に逃れられないと分かったのか、別人のように大人しくなり取り調べを
受けているという。
「あの子も枢機卿にまでなっただけあって、昔は熱心に修行をする良い神官だったのだけれどね……」
そう言ったシャナネット様の瞳には、少しだけ悲しみが浮かんでいた。
聖騎士団の取り調べによってわかったのは、ダルトンからセサルさんへの異様な嫉妬心であった。
まずはじめの私への敵対心はセサルさんが見つけてきた聖女だから。そしてその後はセサルさんでもできなかったこと、年に一度の生誕祭しか活動しない私を教国に留めておけば手柄になり、セサルさんの上にいけるから。
回復魔法の名門貴族家出身で回復魔法の才能のあったダルトンは幼い頃から神殿で神官として修行を受けていたらしい。
一族の期待を一身に受け、幼いながらも修行に全てを燃やし過ごしていたダルトンの前に現れたのが、セサルさんだった。
セサルさんは貧しい平民の出で、身体の弱いお母様の看病をしていた際に回復魔法に目覚めた。残念ながらお母様は亡くなってしまったが、その後母親のような人達を助けたいと神官になったという。
「ダルトンがおかしくなったのはその頃からだと前教皇に聞いている。初めはセサルに負けまいとそれまで以上に修行に明け暮れたが、ダルトンが枢機卿になり、後を追うようにセサルも枢機卿になり、そしてセサルが私に次ぐナンバー2だと言われるようになってからは、あれだけ熱心だった修行もやめ、だんだんと様子が変わっていったんだ。あれから回復魔法の腕が上がっていないどころか、腕は落ち、よくない噂も絶えなかった。それも噂でしかなく、どうすることもできない状況のままこんなことにまでなってしまった」
「教皇聖下の方がダルトン卿より年下だと思うんですけど、それは……?」
「私もダルトン卿の家に負けず劣らずの回復魔法の名門出だからね。それよりもセサルに意識がいっていたからなんともなかったのかな」
ダルトン卿は破門の末、生涯幽閉。これまでとは比べ物にならないほどの質素な生活をしながら回復魔法を使うためだけに生きていくことになる。
これは処刑になるところを誘拐された本人である私が望んだから通ったことだ。
腕が落ちたとはいえ枢機卿になるほどの回復魔法の腕、使わないと勿体無いではないか。
刺されたセサルさんもせっかくの回復魔法、使えるものは使いましょうと同義だった。
そして、今回のことは公には発表しないこととなった。セサルさんが身を挺して庇ってくれたことも大きいが、私が聖女になった途端にこんなことが起こったなんて縁起も悪いし。
ダルトンは亡くなったことになり、私にはダルトンから没収した財産にプラスで充分な賠償金をもらうことになった。それによってダルトンの邸も私のものになり、普段は教皇聖下が手入れをしてくれるらしい。こんなことならば、あんなに壊さなければよかった……。
「色々と証拠も出てきていることで、これを機にダルトンに追従していた者たちもまとめて取り調べることができる。来年来ていただく時までに膿を出し切ると約束する。本当に、申し訳なかった」
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