第103話


 この人は……。


 ホールの入り口から車椅子を押され入ってきた女性は、私が回復魔法の力の証明で治療した女性だった


 「聖女様……」


 「聖女様だ……!」


 「あぁ、こんなにも元気になられて……!!」


 皆感動したような顔で、中には涙ぐむ神官もいる。

 元気になったと言っても車椅子にのる女性は痩せ細って力もなく、まだしばらくは寝ていたほうが良いような状態だ。


 「聖女様……?」


 「……はじめまして、新しい聖女を歓迎します。このような姿で申し訳ございません。私も聖女に任命されております、シャナネットと申します」


 聖女……。そういえば、教国にはもう1人聖女がいたはずだ。歳をとって活動を少なくしていると言われていたが、本当は病気だったのか。


 「ダルトン卿。あなたは神に誓って、隷属の首輪を使っていないと、自分のものではないと誓えますか」


 「もちろんです! オレリア様はなにか勘違いをしているようでして……」


 そう言ったダルトンをじっと見つめるシャナネット様の瞳は、この弱り切った体からは考えられないほど鋭い。

 

 「では、聖騎士団の調査を受けすべてを明らかになさい」


「なっ、なぜ私がそのようなものを受けねばならないのですか! 私はなにもしていないし、なんの証拠もない!!」


 「確かにあなたが隷属の首輪を使ったという証拠はありません。でも、教国が、教皇聖下が任命した聖女をかどわしたのは事実です。それについて、あなたは調査を受けなければならない」


 「ち、違います! 私は聖女様を保護したのです! 我が国の聖女が帝国に連れ去られるのを防ぐために……!! 私はっ! 私はっ!! 私はっ!!! 取られるくらい、なら……、取られるくらいならっ!!」


 目を血走らせブツブツと何かを呟いたと思うと、懐から銀色に輝く何かを取り出しこちらに駆け出した。


 「っ、【障壁】っ!」


 「聖女様危ないっ!!」


 咄嗟に障壁を展開したが、その私をウィルフレッド様が抱きしめ、さらにその前に私を庇うようにセサルさんが飛び出してきた。


 「セサルさんっ!!」


 「セサルッ!」


 「ぐっ……!!!」


 セサルさんは胸元を刺され、真っ白な祭服に真っ赤な血が広がっていく。

 枢機卿が持つ高価な美しく磨がれた刃物なのが良くなかったのだろう。

 刃物は根元まで胸に吸い込まれていた。


「オレリアっ! 早くっ!!」


 ウィルフレッド様の呼びかけでハッと気がつくと、セサルさんの元へ駆け寄って膝をつき、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。


「【パーフェクトヒール】!!」


目を開けられない程の光が落ち着くと、セサルさんの胸元に突き刺さっていた刃がカランッ、と大理石の床に抜け落ちる。


 間に、あった……?


  傷は消え、赤く染まった胸元と避けた服以外は元通りだ。


 「セサルさん……、セサルさんっ?」


「……っ、連れて行け」


 教皇聖下のその一言で、ダルトンは聖騎士団に左右を押さえられ引きずられるように部屋を出て行く。


 「セサルさんっ! 目を開けてください……!」


 どうしよう……! 私を庇ったせいで、セサルさんが……!!


 焦る私の肩に手を置き、私を落ち着かせるようにウィルフレッド様が声をかける。


 「オレリア、落ち着いて。ほら」


 ウィルフレッド様が指した先に目を向ける。


 「……あぁ、聖女様の……でん、せつの、パーフェクトヒール、を、この身に受け、る、ことが……できるなんて……。横か、ら、みる、パ……フェクト、ヒールよりも格別に素晴らしく、美し……。この身……が、洗われる、ようで……」


 セサルさんは、こんな時までいつも通りだった。

 でも、いつもは気持ちわるく感じるこのセサルさんの語りも、この時ばかりは嬉しかった。







 ダルトンは結局こんなことになっても弁明し続けていたようだが、調査が入れば明らかになる。

 これでダルトンは終わりだ。


 なぜなら、地下室に向かうため探知をかけた時、反応はディックのものだけじゃなかったのだ。そしてダルトンの私室がある最上階も、ダルトンとクラーラの反応だけではなかった。


 これら全てが自ら望んでダルトン邸にいるわけではないだろう。

 あとは調査が終わるのを待つだけだ。 

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