第92話
「お久しぶりでございます、教皇聖下。母上の治療の件、本当に感謝しています。こちらは私の婚約者のオレリア・アールグレーン公爵令嬢です」
「初めまして。ルボワール王国アールグレーン公爵家のオレリアと申します」
淑女の礼をとると教皇聖下はニコリと優しげな笑みを浮かべ私の手を取った。
「この国の教皇をしているミッシェル・アンヘルと申します。セサルが言うには素晴らしい回復魔法の使い手だとか。こちらこそよろしくお願いします」
そうして今後についての話が始まった。
教国ナンバー2のセサルさんが私の実力を保証しているので聖女に任命して問題ないだろうが、一応形式的に確認はしなくてはいけないらしい。
「申し訳ないがうるさく言う人もいるのでね。アールグレーン嬢には皆の前で回復魔法を見せてもらいたい」
うーん、皆んなの前でかぁ。
というかそもそも聖女って絶対ならなくてはいけないのだろうか?
私教国の人間じゃないしなぁ……。
「あの、私教国にずっといることはできませんし、聖女としての活動などもできません。なので今回の話は無かったこと……「いけませんっ!」
ひっ……!
いきなりに大声に心臓が止まるかと思った……。
「リア様のあの御力は聖女で間違いありません! あのような素晴らしい力を持つリア様を聖女として任命しないなど、罰があたりますっ!」
セサルさんがクワッ! っと限界まで見開いた目でこっちを見ながら言う。
「うーん、まぁ、……確かに教皇で活動できないというのもわかるし、実際罰が当たるかどうかはわからないけれど、こちらにも聖女に任命しないわけにもいかない事情があってね」
そう言った教皇聖下は困った顔でコチラを見る。
「セサルが帝国から帰った後、それはそれは素晴らしい回復魔法を使う聖女様を見つけたと騒ぎになってね。教国ナンバー2であるセサルが治せなかった病をあっという間に治したということだったからね。だからそんな存在がいると知られていながら聖女に任命しないというのは難しいんだ」
セーサールウゥうぅぅー!!!!!
「まあ、確かにアールグレーン嬢の意向も聞かず勝手に騒ぎ立てたセサルは悪いが、実はセサルのことがなくても遅かれ早かれ任命は避けられなかったんだ。セサルが治せなかった皇妃様を治したのはいったい誰だ? という話になっだろうからね」
うーん、確かに。
私がやったと言わなくても、皇妃様の治療をということで教国ナンバー2のセサルさんを派遣してたのに、そのセサルさんにずっと治せなかった皇妃様が急に治ったらおかしいもんね。
「しかし、聖女として任命されたというのに全く聖務をしないわけにもいかないでしょう。それなのに話を聞いている限りこちらには利がない」
ウィルフレッド様が言うと、教皇聖下はそう言われることがわかっていたようにニコリと微笑み1枚の紙を手渡す。
「それはこちらに。アールグレーン城はこのままならいずれ帝国の皇妃になるでしょうからね」
紙には教国が帝国に卸しているポーションの値引きやら回復魔法の使える神官の派遣についてなど色々書いてある。
「ここまでしてしまって、そちらに利があるのですか?」
「私達にとって、パーフェクトヒールの使える聖女の出現というのは重要なのです。優秀な回復魔法の使い手が聖女に選ばれることはまぁありますが、パーフェクトヒールの使える聖女は別格。事実、前回パーフェクトヒールの使える者が現れたのは二百年前です。しかもこれまでの聖女はパーフェクトヒールを使った後は魔力切れになり倒れたと。しかしセサルに聞く限りはアールグレーン嬢はパーフェクトヒールを使用した後もピンピンしていたと。歴代最高の聖女! そんな聖女がこの時代に現れたということがどれだけ大きいか」
うーん、このパーフェクトヒールを使える聖女がほとんどいないってこともなんかなぁ。
私がアデライト・アールグレーンだった時代も確かにパーフェクトヒールはすごい魔法だったけど、数百年に1人レベルの魔法ではなかった。
世界に数人レベルではあったけどね。
きっと今の状況は回復魔法の才能がある人を神殿が囲い、魔物を倒してのレベリングや回復魔法の修練をさせてこなかったせいだ。
聖女に任命されたら回復魔法をかける相手も国が決めるだろうし、機会も減るだろう。
「しかし、彼女の利は? ここに書いてあるのは帝国の利ばかりだ」
ウィルフレッド様がそう言うと聖下はもう一度紙を取り出し、今度は私に渡してくる。そこには聖女としての年俸と年に一度の生誕祭への参加について書かれていた。
白金貨百枚……? ということは、ね、年俸一億リル!?
多すぎやしませんかっ!?
だって聖女として働くのが年に一度でしょう!? 生誕祭で聖女の力を見せるために回復魔法を使うらしいけど、一回なんだよね!?
「生誕祭は数多くの国から要人がきます。そこにこれだけの力のある聖女がいるというのは国立ち位置にも関わる。商人も旅人も今まで以上に集まり経済効果もあるでしょう。聖女がいることでお布施も増える。歴代最高の聖女が国にもたらす利を考えたら妥当ですよ。もし生誕祭とは別で回復魔法を使っていただくことがあれば、また別でお支払いします」
にこやかな表情だが瞳に真剣な光が見えて、頷かないわけにはいかなかった。
この人はきっと本当に国のことを思っている人だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます