第91話


 宮殿に着くと見覚えのある人がバタバタとこちらに向かって走ってきた。


 「港までお迎えに行けず申し訳ございませんっ!」


 どうやら治療があったらしく騎士団の出発に間に合わなかったらしい。 


 「セサル様、お久しぶりです」


 「セサル殿。改めて母上の件、ありがとうございました。あれから順調に回復しております」


「いえっ! 私では根治させることができませんでした。 あの件は聖女様のお力によるものでございます」


 私が治療できたのもそれまでセサルさんが進行を遅らせてくれていたからだ。そうでなければきっと間に合っていなかっただろう。……が、それを伝えてもセサルさんはまったく聞いてくれない。


 「いえいえ、聖女様がいなければ結局は苦しみを引き延ばすだけという結果に終わっていたことでしょう」


 「あの、聖女というのはちょっと……。まだ任命をされたわけでもありませんし」


 そう言うとセサルさんはスイッチが入ったように、あの時の私のパーフェクトヒールについて語り出す。


 「そんなっ! リア様が聖女様と言うのは間違いありません! あの後国に帰ってすぐに聖女に任命した方が良いと教皇様に伝えましたっ! あの時のパーフェクトヒールの美しさと言ったらっ! あの時の聖女様は聖女というより女神と見紛うかのような美しさでございましたっ!」


 あぁ……、しくじった……。

 

 「あの…。待っ……」


「あの聖女様のお手元から溢れた優しい金色の輝きっ! そして教国No.2の私でも進行を遅らせることしかできなかった不治の病を一瞬で治癒させたお力の強さ!」


あぁ……、止まらない……。


 ウィルフレッド様、ごめんなさい。私にも止めることができませんっ!


 そう思いウィルフレッド様をチラリと見ると

、いつもと変わらない笑みを浮かべ頷きながらセサルさんの話を聞いている。


 内心この様子のおかしいセサルさんをどう思っているかわからないが、流石の皇太子殿下フェイスである。

 

 しばらくの間セサルさんの話を聞き流していると、部屋の扉が開きコツコツとこちらに向かって歩いてくる音が聞こえてきた。


 「セサル、その辺にしておきなさい。アールグレーン嬢が困っているよ」


 そう言ってセサルさんの肩を叩いたのは長い白髪を銀の留飾りで横に纏め、豪華な白い祭服を着た男性だった。

 長く白いまつ毛が薄金の瞳を縁取っている。


 ……ほわぁ! なんて美しい人なんだろう。というか、男性? で合ってる、よね?


 美しすぎて男性とも女性ともとれる見た目をしているけれど、細身ながらしっかりとした体つきをしている。


 ウィルフレッド様も美しいけれど、この方はまた違った美しさね。


「教皇様! ……ハッ! 申し訳ありません聖女様。ついあの時のことを思い出すと興奮してしまい、語りすぎてしまいました」


 この方がセフィーロ神聖教国の教皇……!

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