第67話

「サ、サミュエルさん……?」


声をかけるとハッとしたようにこちらを向き、恥ずかしげにコホンと咳払いをする。


「失礼いたしました。本日ご案内させていただくサミュエルと申します。よろしくお願いいたします」


 ノアとネージュにそう挨拶をするも、皆からの視線に耐えきれなくなったのか自ら話し始める。


「実は昔、父の後を継ぐため商業の道へ進むのが嫌になった時期がありまして。反抗で冒険者をしていた時期があるのです」


 え!? サミュエルさんが冒険者!?

 申し訳ないがそう言われた後でも冒険者をしていたことが信じられないほど似合わない。


「まぁご想像通り冒険者には全く向いておらずランクも上がりませんでしたがね。でもやはり今でも高ランク冒険者や伝説の魔物を前にすると心が躍りますね」


 ほへぇ〜、意外だ。

 でもまぁ将来を自分で決められないことの辛さは私にもわかる。

 

「お前弱そうだもんな。まぁ俺の凄さをわかる奴だしいいか」


「私の羽をもっと近くで見るか?」


 ネージュ! 失礼だよ!


 ノアとネージュはサミュエルさんにキラキラとした瞳を向けられてご機嫌で近くで羽や毛を見せたり、触らせたりしている。


 冒険者でもないサミュエルさんをノアとネージュと一緒に行動させるのは不安だったが、この感じなら問題なさそうだ。


 気を良くしたノアとネージュにサミュエルさんが色々と質問しながら町の中心に向かって歩くこと15分。

 候補の土地が見えてくる。


「1ヶ所目はあそこです」


サミュエルさんが指す先には一般的な平民の家なら4軒くらいは建つかな?という広さの土地が見える。


「ここは商業ギルドや冒険者ギルドよりもさらに町の中心に近いです。辺境伯に仕えている貴族や富豪が多く住むため道や建物は美しく整えられております」


 たしかにぐるっと周りを見回してみると、道もしっかりと石畳が整備されておりどの家も美しい。

 けど貴族がいるのはどうなのかな。

 ノアとネージュが問題を起こさなければいいんだけど。


 2ヶ所目の土地は1ヶ所目とは逆で冒険者ギルドや商業ギルドから町の外側へ少し向かったところにあった。


「2ヶ所目はこちらです。1ヶ所目よりはやはり周囲が雑多な感じがしますが、土地はこちらの方が広いです」


 たしかに一般的な平民の家なら6〜7軒は入りそうな広さだ。しかもそれでいて値段は1ヶ所目と同じくらい。中心部は高いからね。


 ここならノアとネージュがゆっくり過ごせるように大きめの家を建てても庭が作れそう。

 しかも大森林側の門と冒険者ギルドの間くらいの場所にあるという好立地!


「ここにします!」


 お金もアイテムボックスに入っているし、他の人に取られないうちに! とさっそく商業ギルドへ戻り契約をすることにした。











「こちらにご署名をお願いします」


 契約書にしっかりと目を通しサインをする。

 

「ありがとうございます。こちらでお手続きは以上です」


 やったー! 念願の土地が手に入った!


 土地を買うことに意識が向きすぎて、お金を払う時になってお金が皇帝陛下にもらったキラキラの箱に5億リル入ったままなのに気がついた時は焦ったが、なんとか全て終えることができた。

 しかたなくそのまま出したが、いきなり何もないところから宝石箱が現れ中から大量の白金貨が出て来たのを見たサミュエルさんは目が点になっていた。


 まぁとりあえず無事に終わったしよしとしよう!


「リア、終わったのか? あの場所はリアのものになったのか!?」


「家はいつできるのだ?」


 ギルドから出るとノアとネージュが待ちきれないと言うようにこちらに詰め寄ってくる。


「無事に買えたよ! 明日からは家を建てるための大工さん探しだよ!」


 やった! やった! とはしゃぐノアとネージュがかわいい。


「落ち着いて落ち着いて! 今日はもう遅いから大工さん探しは明日だよ」


 2匹はええー! と不満げだったが、すぐにじゃあどういう家にするのか考えておく! と、いつものように「俺の方が良いデザインを思いつく!」、「俺の方が!」と戯れながら厩舎へと入っていった。

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