第66話
商業ギルドも冒険者ギルドと同じく町の中心部にあるので、歩いてそう時間がかからずに到着する。
「へぇ。ギルドによってこんなに違うのね」
いつも通りノアとネージュには外で待っててもらい1人で中へ入ると、そこには冒険者ギルドとは違ったスッキリ洗練された空間が広がっていた。
両ギルドとも奥にカウンターがあるのは一緒だが、冒険者ギルドは木でできた温かみのある建物で、中では冒険者達が掲示板の前に集まって依頼を探したり酒場で酒を飲んだりしているが、商業ギルドは木だけではなくタイルや金属なんかも使ってオシャレに仕上げてあり、中にいる人も商人らしくカッチリとした雰囲気だ。
「こんにちは! 本日はどういったご用件でしょうか?」
「家か土地の購入を考えています」
そう言いながら紹介状をカウンターへ出すと、受付嬢が「失礼します」と言って紹介状を確認する。
ニッコリ落ち着いて対応してくれていた受付嬢さんは紹介状の中を見ると驚いたような顔をして「少々お待ちください」と言ってどこかへ行ってしまった。
本当になんて書いたのナディアさん……。
そのまま5分ほど待っていると、さっきの受付嬢と一緒に高価な服を身に纏い髪を後ろにピシッと撫でつけた男性が現れる。
70代くらいに見えるが背筋はピンと伸びていて凛とした雰囲気の人だ。
「はじめまして。クレンセシアの商業ギルドマスター、クレマンと申します」
ギルマス!? なぜいきなり!? 私まだ何もしてないよ!
「はじめまして。Aランク冒険者のリアともうします」
「よろしくお願いいたします。さて、本日はこの町で家か土地の購入を考えて来ていただいたそうで。商業ギルドとしても大変嬉しく思います」
「えーと、なんででしょう?」
初めて商業ギルドに来たのに。
「最近この町で話題になっているグリフォンとフェンリルを連れた冒険者というのはリア様ですね。リア様が冒険者ギルドへ売った質の良い大森林の魔物は、うちも冒険者ギルドから購入しておりますから。リア様のお陰で普段はなかなか手に入らない大森林の奥に住む魔物がたくさん手に入りました」
ほうほう、そういう繋がりがあったのか。
「なのでリア様がこの町を拠点にしていただけたら冒険者ギルドだけでなく商業ギルドとしてもありがたいのです」
そう言ってギルドマスターは奥から1人の男性を呼ぶ。
「サミュエル、こちらです」
そうギルドマスターに呼ばれてきたこの男性も、ギルドマスターと同じく髪をピシッと後ろへ撫でつけている。
ギルドマスターを若くしてもっと堅くしたらこうなるだろうなという印象だ。
「息子のサミュエルです。土地や建物の買取販売のまとめ役をしております」
「サミュエルと申します。よろしくお願いいたします」
おおぅ。息子さんだったのか。どうりで似ていると思った。
「リア様にはこのサミュエルをお付けいたします。当ギルドの中でこの町の土地と建物については1番です」
ギルドマスターはそう言ってサミュエルの肩をポンとたたき、「頼んだぞ」と言って去っていった。
「まず建物や土地についてリア様の希望をお聞かせ願えますか」
「あ、はい! 私の従魔は2匹ともとても大きいので宿ではストレスが溜まるようで、従魔もゆっくりと過ごせる家か、それが見つからなければ土地を購入したいです」
サミュエルさんは「なるほど」と頷く。
「グリフォンとフェンリルでしたね。となると家で探すとかなり限られてきますね。部屋の広さだけでなく、廊下や扉や階段も大きくなくては入れませんから」
サミュエルさんに何枚か資料を見せてもらうが、廊下や扉や階段も広くそのままで使えるような家はかなりの豪邸でお手伝いさんやら庭師を雇えるような人が住む家に見える。
だからと言って狭いところを広く作り直すとなるとそれなりにお金がかかる。
だったら土地だけ買って好きなように家を建てた方がいいかもしれない。
「改装なしで従魔様も住める家となるとかなりの大きさになりますし、選択肢も限られます。普通の家ですと大規模な改装が必要です。となると土地を購入して新しく建てるのが良いと思います」
「そうですよね。……うん、じゃあそうします!」
この町へ来る時は冒険者ギルドに用がある時だし、出来るだけ冒険者ギルドに近いところで探してもらう。
冒険者ギルドは町の中でも中心部にあるから、その近くになるとその分値段は上がってしまうようだが今は報酬があるのでお金より距離をとる。
「条件に合うのはこの3つですね。1つは少し小さいのですが、建物の階数を増やせば従魔様がいても住めると思います」
たしかに他の候補と比べるとだいぶ小さそうだ。1番広い土地の3分の1くらいに見える。
うーん、狭いのはなぁ……。せっかく家を建てるんだったら広い方がいいな。
「1番狭いところはなしで、他の2つを見せてください」
「かしこまりました」
外に出てノアとネージュを呼ぶ。ノアとネージュのための家だし、せっかくなので一緒に選んでもらおう。
「リア! 家は決まったのか!?」
「家はまだよ。条件に合うところがないから土地を買って建てることにしたの。今から土地を見にいくんだけど一緒にどう?」
ノアとネージュは「俺が1番いいところを選んでやるぜ!」、「俺の方がいいところを選べる!」と戯れあっている。
ハッ、サミュエルさんは!?
ノアとネージュに会うのは屈強な冒険者でも気絶するほどだ。戦いに無縁そうなサミュエルさんではひとたまりもないだろうと急いで振り向くと、さっきまでピッシリカッチリしていたサミュエルさんは、キラキラと輝く少年のような瞳でノアとネージュを見ていた。
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