第68話


「おはよー!」


 朝食を食べて厩舎へ向かうと既にノアもネージュも起きていた。

 これから家が建つと思うと楽しみすぎて早く目が覚めてしまったらしい。


「さて、大工さん探しに行きますか!」


「「おー!!」」


 と言っても私全然大工さんに詳しくないのよね。

 腕のいい大工さんを探すどころか、まずこの町の大工さんを1人も知らないのだ。


 いろんな人に聞いてみて評判の良さそうな人を見つけるしかないか。

 とりあえずまずは宿の女将さんに聞いてから出発しよう。


「女将さん! この町で1番の大工って誰?」


「そりゃロドリグだよ!」


 ロドリグさんね。


「おじさん、この町で1番の大工って誰?」


 買い物ついでにノアとネージュお気に入りの屋台のおじさんにも聞く。


「ロドリグに決まってるさ!」


 またまたロドリグさん。


「ナディアさーん! おかげで無事に土地が購入できました! それで家を建ててもらう大工さんを探しているんですけど、この町で1番の大工って誰ですか?」


 土地を購入したという報告ついでにナディアさんにも聞いてみる。


「ロドリグさんですね」


 またロドリグさん!! こんなに名前が出るなんてどれだけ腕が良いのだろう。


「でもロドリグさんはこだわりが強い方ですからね。気に入った仕事じゃないと受けてくれません」


 そうなのか……。でもせっかく家を建てるなら1番腕のいい大工さんにお願いしたい。


「そのロドリグさんのお店を教えてもらえませんか?」


 ダメかもしれないけど頼むだけ頼んでみたい。


 ナディアさんも「リアさんなら受けてもらえるかもしれませんね!」と心よく教えてくれた。


「ノア! ネージュ! 行くよー!」


「なんだ? 頼む大工は決まったのか?」


「やっぱりロドリグさんて人が1番腕がいいみたい。でも気に入った仕事しか受けてくれないんだって」


 まぁ一応行ってみるけど。と歩き出す。


「なんだと? じゃあ行ったとしても受けても得るかわからないと言うことか」


「俺たちの家だぞ! 1番のやつじゃないとダメだ!」


 後ろからついてくる2匹がロドリグさんにどう仕事を受けさせるか何やら話し合っている。

 ネージュ! 威圧するのはナシだからね!


ロドリグさんのお店は町のはずれにあった。


「……ここかな?」


 お店と言うより工房のような建物だ。建物の造りは周りの建物よりしっかりしており、奥には建築に使う素材が入ってそうな大きな倉庫が建っている。


「ノアとネージュは外で待っててね」


 ズッシリとした扉を開けると、中からはカンカンと金属を叩くような音が聞こえる。

 奥が作業部屋になっているようだ。


「すみませーん!」


 カンカンという音は鳴り止まず、誰も出てこない。


「すみませーーーん!!!」


 奥まで聞こえるようにさっきよりも声を張り上げると、奥から「なんだ!! さっきから作業の邪魔をしおって!!」、と髪を後ろでくくり汗を流した髭モジャな漢が現れる。


 ド、ドワーフだ!!


 全体的に筋肉質でガッチリとしていて、仕事で使うであろう腕は太くて丸太のようだ。年齢は50代くらいだろうか? 子供ではないのに背丈は私よりも小さい。


「なんだ? ボーっとしおって」


「……あ、失礼しました。ドワーフの方にお会いするのは初めてなもので」


「初めて? この国にいるドワーフが少ねぇとはいえ、初めてってこたぁねぇだろ」


 ラルージュ帝国ではドワーフもそれなりにいるらしい。

 王国では見たことがなかったから少し驚いてしまった。


「この国に来たのは最近なんです。前に住んでいたルボワール王国ではドワーフを見たことがありませんでした」


 それを聞いたドワーフさんはフンッと不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「ルボワール王国から来たのか。あの国の王族は人族が1番偉くて優れてると思ってやがる。人族以外は住みづらくて仕方ねぇ。あの国にいたのならドワーフを見たことないのも納得だ」


 たしかにルボワール王国にいた時はドワーフだけでなく獣人やエルフも見たことがなかった。

 私が貴族街で生活していたからだと思っていたけれどそうじゃなかったなのね。


「私は冒険者のリアと申します。ロドリグさんでお間違い無いでしょうか?」


「あぁ、そうだ」


「この町に土地を買ったので家を建ててくれる大工を探していて、ロドリグさんがこの町で1番腕の良い大工だと伺いました。私の家を建ててはいただけませんか?」


ロドリグさんは端にあるソファへ座ると腕を組み、私へ対面に座るようにと視線を送る。


「……どんな家だ?」


 ルボワール王国に住んでいたと聞いて気を悪くしてしまったかと思ったが、話は聞いてくれるようだ。


「土地はこの辺りの家なら7軒入るくらいの広さはあります。庭も少し欲しいので、5軒くらいを家に使って、2軒分を庭に残したいです。それと大型の従魔がいるので扉や廊下、階段を広く造っていただきたいんです」


「従魔だぁ!? 厩舎を用意するんじゃダメなのか?」


「はい。一緒に家で住むつもりです」


「やめだやめだ! ルボワール王国の奴にしちゃあドワーフを下に見ねぇから話を聞いて考えようと思ったが、従魔と住むなんてお断りだ!」


 ロドリグさんは従魔と住むと聞いた途端に態度が変わる。


「なぜ従魔も一緒だと受けていただけないんですか?」


 ロドリグさんはこちらをジロリと見て口を開いた。


「俺は自分の仕事に誇りを持ってやってる。素材からデザイン、細部まで全部だ。それを従魔と住んで傷なんかつけられたらたまらねぇ」


 普通に住んで経年劣化で痛む分には仕方ねぇがな。とため息をつく。


 ノアとネージュは家に傷をつけるようなことはしない。が、普通の魔物はそこまで知能が高く無いのでそう思うのは当たり前だろう。


「私の従魔は人語も理解できるほど知能が高いので家に傷をつけるようなことは絶対にしません」


 そう伝えてもロドリグさんはあまり信じていないようだ。


「もし信じられないようなら外に従魔を連れてきているので会ってみてください」


 それを聞いたロドリグさんは真偽を確かめるようにこちらをジッと見る。


「……そこまで言うのなら本当なんだろう。だが、もしそうだとしても俺がやりたいと思うほどの仕事じゃねぇな」


 ぐぬぬぬぬ……。

 ロドリグさんが仕事を受けたいと思うような何かを……、あ。


「もし私の家を建てていただけるのなら、最高級の素材を準備いたします!」


「最高級の素材??」


「はい! 大森林の素材です!」


 これだっ!と思い伝えたが、それを聞いたロドリグさんは余裕そうにフッと笑う。


「俺は素材にもこだわっている。元々俺が使っているのも大森林の木だ」


 私の伝え方が悪かったわね。

 私は胸を張りニッと笑った。


「違いますよ。私が用意すると言っているのは大森林の奥地の素材です!」

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