第50話
「今日1日の成果を報告しよう」
まずは私と騎士団長が冒険者ギルドで聞いたことを報告する。
「そのゴンザレスという冒険者は聞いたことがあります。
ずっとこの町で活動している者で、世話焼きでよく新人冒険者の面倒を見たり絡まれている者を助けたりしていると。兵にも知り合いが多いようです」
領主である辺境伯も知っているなら冒険者なら信用できそうだ。とてもそうは見えない風貌だったがな。
「大森林に住んでいて家に帰ったということがわかったのは本当によかったですな」
本当にそうだ。本当にいるのか分からない者を探すのとでは精神的な負担が全く違うだろう。
「私たちは魔女がこの町に入る時に知り合いの冒険者と話していたと言うのをドナートさんから聞き、その冒険者パーティーについて調べておりました。
ルボワール王国から来たパーティーで大森林での野営中に魔女と知り合ったそうです。
銀色の刃という4人組のBランクパーティーで素行についても問題はありません。
Bランクだと大森林の奥地に行くのには少々厳しいですが、 魔女の知り合いがいた方が交流しやすいかと思いますのでメンバーとして雇うのも良いかと」
たしかに見ず知らずの者がいきなり助けてくれと言っても聞き入れてもらえないかもしれない。
その冒険者パーティーと魔女がどれほどの仲なのかはわからないが、いないよりは良いだろう。
「そうだな。ではその冒険者パーティーに依頼を出そう。
大森林の奥に行くことを考えたら強いパーティーがあともうひとパーティーくらいいた方が良いと思うが、騎士団長はどう思う?」
騎士団長は辺境伯の用意した冒険者のリストを見る。
「そうですね。大森林では皆でまとまって動く必要がありますからあまり人数が多いと動きづらくなると言う難点がありますが、強い魔物が出た時のことを考えてAランクパーティーがあと1パーティーいたら良いかと思います」
Aランクパーティか。
ここクレンセシアは大森林と接していて強い冒険者が多いとは言うが、Aランクパーティーとなると帝国全体で見ても数は少ない。冒険者は土地に縛られない者も多いからハッキリとは分からないが国内で活動しているAランクパーティーはたしか10から20パーティーだったと思う。
今回父上が金色の逆鱗に依頼を出してくださったが、Sランクパーティーも国内には2パーティーしかいないのだ。
「この町で活動するAランクパーティーは2パーティー、今すぐ依頼を出せるのは1パーティーか」
1パーティーしかいないとなると選択肢がないな。
「このナイトクレッセントというパーティーはどんなパーティーだ?」
「問題を起こしたことはないですし素行は悪くないはずです。
ただこのパーティーはどちらかというと偵察や奇襲が得意なパーティーですので、大森林の魔物とは相性は良くないでしょう」
「そうか……」
性格に問題がないのは良いが、戦闘スタイルが惜しいな。
「代わりに直接の戦闘に強いBランクパーティを雇うのはどうだ?」
「AランクとBランクではそれなりに実力に差がありますから、流石にBランクよりはナイトクレッセントの方が戦えると思います」
「決まりだな。ナイトクレッセントに依頼を出そう」
それから2日間、ナイトクレッセントと銀色の刃に依頼を出し、しばらく大森林で過ごすのに必要なものを揃えて過ごした。
後は金色の逆鱗の到着を待つだけ。
準備も終わりここ数日の疲れを取るため辺境伯邸で休んでいると、辺境伯が部屋に飛び込んでくる。
「失礼いたします! 金色の逆鱗のメンバーが先程この町に到着したと知らせが入りました!」
「来たか! 思っていたよりも早かったな。」
きっと父上が急ぎでと依頼を出してくれたのだろう。
「さっそく明日全員を集めて顔合わせをしよう。
今日はこのまま休んで明日の昼過ぎに辺境伯邸まで来るよう金色の逆鱗に伝えてくれ」
「かしこまりました」
次の日の昼、辺境伯邸で待っているとまずは銀色の刃が、そしてその後にナイトクレッセントがやってきた。
「あと1パーティ来ますのでこちらでお掛けになってお待ちください」
皇太子である私が関わっているためまだこの2パーティーには詳しい依頼内容は説明していない。
依頼も辺境伯から出してもらっており、期間はハッキリしていないが長期で大森林に入ってもらうとだけ伝えてある。金色の逆鱗には父上が依頼を出しているのでどこまで話しているか分からないがな。
部屋にいる騎士団員を見て銀色の刃は思ったより大掛かりな依頼だと気がついたのか顔を青くしている。
ナイトクレッセントは顔には現れていないが椅子に座りながらもさりげなく周囲を確認し警戒をしている。さすがAランクパーティーだ。
誰も何も発さないという異様な雰囲気のまま10数分。
コンコンッと扉をノックし屋敷の使用人が入ってくる。
「失礼いたします。金色の逆鱗が到着いたしました」
金色の逆鱗。その言葉を聞いた瞬間銀色の刃は青かった顔色が白くなり、ナイトクレッセントは驚きで目を丸くし立ち上がる。
「ほ、本当に金色の逆鱗だ……」
1番に部屋に入ってきたリーダーの頬には竜人の証である鱗が輝いてある。パーティー名の通り金色の美しい鱗。
皆ところどころ金色の入った揃いの装備を身につけており、後ろから入ってきた4人も堂々とした佇まいだ。
「全員揃ったな。
今回は急な依頼だったにもかかわらず受けていただき感謝する。もう察しているとは思うが今回の依頼には極秘事項も含まれる。くれぐれも話を漏らさないようによろしく頼む。
そして今回銀色の刃とナイトクレッセントには私から依頼をかけたのだが、本当の依頼主はこちらにいる」
辺境伯から視線を向けられ前に出る。
「私の名前はウィルフレッド・ラルージュ。この国皇太子だ」
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