第42話

「なあ、詫びに酒を奢らせてもらえないか??」


 まだ言ってるのか……。


「もういいって言ってもらっても、勘違いで迷惑かけちまったってのがどうしても自分の中で気持ち悪いんだよ〜!」


「はぁ、わかりました。そのかわりノアとネージュも一緒ですよ」


 しつこいけどナディアさんやソビェスさんと仲の良いところをみると良い人らしいし、これからも大森林から1番近いここのギルドを使うことになるだろうし。

 少しお酒を飲むくらいならいいか。


「ノアとネージュってあの従魔達か!?

貯金使っても金が足りるかどうか……」


 ノアとネージュも一緒にと聞いて急に青ざめる蛮族おじさん改めゴンザレスさん。

 まぁあの2匹の大きさを見たらそりゃそうなるわよね。


「そんなに食べないから大丈夫ですよ」


 冒険者ギルドの扉を開けて周りを見るが、ノアとネージュが見当たらない。

 人混みはそのままだから近くにいるんだろうけど。


「ノアー! ネージュー!!」


 入り口から名前を呼ぶと人混みをピョンと飛びこえてノアとネージュが現れる。


「遅かったぞー!」


「ネージュ、これもうまい肉を手に入れるためだ。」


「待たせちゃってごめんね。これからこの人がギルドの中の酒場でご馳走してくれるみたいなんだけど」


 ご馳走と聞いた瞬間2匹の目がキラキラ輝きだす。


「おおおお! さっき白目を剥いて泡を噴いて倒れたやつじゃないか! 情けないやつだと思ったがなかなか良いやつだ!!」


 ネージュ、本人にそれは失礼だよ。

 まぁゴンザレスさんはノアとネージュにも奢ることになってしまったことに青ざめててネージュの発言は気にしてないみたいだけど。


「じゃ、中に入るから小さくなれる?」


 そういうとあっという間に鳥と犬の姿になる。


「んおぅ!? なんだ!? なにがおきた!?」


「この子達は魔法で小さくなれるんですよ」


 周りで見ていた人たちからも驚きの声と可愛いと言う声が上がってきる。


そうでしょう! うちの子達可愛いでしょう!!

大きい姿ももっふもふで可愛いけどね!!


 小さくなった姿を見て顔色の戻ったゴンザレスさんと席に着く。


「ノアとネージュにはお肉を焼いたものを。後はお任せします」


 少しして飲み物と食べ物がテーブルに並ぶ。

 それなりに人が入ってるだけあってどれも美味しそうだ。

 ノアとネージュももう我慢できない! と言う顔でよだれを垂らしている。


「ガハハ! どんどん食べてくれ!

ギルドの酒場だけど、ここは料理も結構美味いんだぜ!」

 

 そう言われた2匹はすぐにお肉にかぶりつきはじめる。


「おっと、まずは自己紹介だな!

さっき聞いたとは思うが、俺はゴンザレスってんだ。この町はで生まれ育ってずっとここで冒険者をしている。よろしくな!」


「リアです。生まれはルボワール王国で、ラルージュ帝国には今日来ました」


「今日来たのか。

まぁあんなすごい従魔連れてるのに今まで噂も聞いたことなかったから他からきたんだろうとは思ったが。

それで、これからは帝国に住む予定なのか?」


 うーん、こらからよくクレンセシアに来る予定ではあるんだけど住みはしないんだよね。

 説明しづらいなぁ。


「大森林に住んでるんだ」

「そうだ! 俺たちは大森林に家があるんだ!」


 あぁ! ステーキに夢中だと思ってた2匹が余計なことを!


「住んでる!? 大森林に!? ど、どういうことだ!?」


「そのままだ」

「そうだ! そのままだ!」


 ゴンザレスさんは本当なのか!? という顔でこちらを見る。


「……まぁ、そういうことです」


「す、住んでるのか ? あの大森林に?? 本当に??」


 信じられないものを見るような目でこちらを見るゴンザレスさん。

 周りで聞き耳を立てていた冒険者達もざわついている。

 大森林に面しているこの町の冒険者は特に大森林の危険さをよく知っているからね。


「本当ですよ。もともとこの子達が大森林に住んでいた魔物なので、そのまま一緒に大森林に住むことにしたんです。

町中だとこの子達は制限されることも多いし」


 ゴンザレスさんも周りで飲んでいる冒険者達も静かになってしまって気まずい。


「まぁ、そういうことも、ある……か?」


 と、ゴンザレスさんはなんとか無理矢理自分を納得させることにしたらしい。


 最初はめんどくさい人だと思ったけど、話してみるとこの町でずっと冒険者をしているだけあって色んなことを知っていて意外とタメになる話が多い。

 ギルドスタッフと仲が良くて新人の世話を焼いているというのもわかる気がする。


「それだけ強い魔物が従魔だったら大丈夫そうだが、この町で困ったことがあったら聞いてくれ。出来るかぎり力になるぜ」


 じゃあさっそく、とノアとネージュも泊まれる宿を教えてもらおうと思ったが、さすがにグリフォンとフェンリルが入れる厩舎がある宿はないという。

 仕方がないけど宿にいる間は鳥と犬に擬態してもらうしかないわね。


 大森林に住むことになったから帝国で家は買わなくていいやと思ったけど、これからこの町に何回も来ることを考えるとこの町にも家が必要かもしれない。

 私1人なら宿で十分だけど、宿に泊まるたびに擬態した姿で過ごさせるのはノアとネージュがかわいそうだもの。


 まぁ、まずは大森林の家に必要なものを揃えなきゃね。

 この町に家を買うのはその後また考えよう。

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