第43話

「あっ! 大森林の魔女がきた」

「えっ!? あれが噂の!?」

「聞いた話では大森林の魔物達を従えて、大森林の奥地で魔物達に囲まれて暮らしているらしい。大森林の主だ」

「魔女っていうからどんなばーさんかと思ったら、全然若いじゃねーか!」

「いや、魔女だって話だから見た目くらい魔法でどうにかしてるんだよ、きっと!」


 いいえ。正真正銘、ピチピチの18歳でございます。


 昨日は1日かけて必要なものの買い出しをして、今日は頼んでいた魔物の解体が終わっている日なのでギルドに来たらものすごい噂になっていた。

 しかもいろいろと話が大きくなっているし。


「おう! ずいぶん有名になったじゃねぇか。」


「ゴンザレスさん!

なんだか噂になってるみたいですけど、だいぶ事実と違うんですけど……」


「ガッハッハッ! まぁこんな騒がれるのも今だけさ。

何回もギルドに来るうちに周りも慣れるだろうよ」


 はぁ。最初は我慢するしかないってことね。


 倉庫に入るとなんだか二日前よりだいぶやつれたソビェスさんが出迎えてくれた。


「おお〜、来たか。全部解体終わってるぞ。

ほら、肉はそこにまとめてあるからしまってくれ。金は受付で用意してるから受付に行って詳細を聞いて受け取ってくれ。

さすが大森林の魔物なだけあってかなりの金額になってたぞ」


「ありがとうございます!」


 これでノアとネージュがたくさん食べてもしばらく肉に困ることはないわね。


「あ、あと前回言ってた残りも解体お願いします!」


 まだアイテムボックスには2日前にお願いした分の倍以上の魔物が入っている。

 本当は前回一緒に出しちゃおうと思ったんだけどこれ以上は無理だって断られたのよね。

 クレンセシアにいる間にアイテムボックスに入ってる分は全部解体してもらいたい。どうせ大森林に戻ったらまたノアとネージュが山ほど狩ってくるんだもの。

 できる時に買取に出さないとアイテムボックスに貯まるばっかりになってしまうわ!


 肉をしまって空いたスペースに今度はアイテムボックスから魔物を次々出していく。


 うーん、前回よりちょっと多いけど、大丈夫よね?


「ふぅ。これで全部です。これも肉以外は買取でお願いします!」


 返事がなかなかない。


「ソビェスさん??」


「お、おぉ、お前は……!俺たちを殺す気か!!!」


 えぇー!!? どうしてそうなるの!!?

 

「殺すなんてとんでもない!! ただ解体をお願いしようと思っただけで……」


「見ろ! 俺たちを!!

この2日間寝る間も惜しんで朝も昼も夜も解体をしてやっと解放されたと思ったのに!!! 思ったのに!!!

今日はゆっくり、とっておきの酒でも飲んで寝ようと思ったのに!!! くっそぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!!」


 頼りになるマッチョのイケオジだと思っていたソビェスさんが、目を血走らせて叫ぶ。

 倉庫をぐるっと見回すと、ソビェスさん以外の解体スタッフさん達もなんだかやつれてクマのできた目を見開いてこちらを見ている。人によっては刃物を持った利き手の手首に布のようなものを巻いて支えにしている人も。あら、腱鞘炎かしら??

2日前に初めて会った時はみんなムキっとシャキッとしてたはずなんだけど……。

 あれ、もしかして私のせいでみんな2日間徹夜でした??


「ア、アイテムボックスに入れておけば悪くならないので、また少ししたら持ってきますね。ははは」


 そう言って出した魔物をアイテムボックスにしまおうとした手を掴まれる。


「いや、いい! やってやろうじゃねぇか!

また2日後に肉を取りに来な!

クレンセシアの解体チームの底力を見せてやるぜ!」


「「「「うおおーーー!!!」」」」


 なんだか異様な雰囲気でに私は「ア、じゃあお願いしますね、ハイ」とそそくさと倉庫から逃げ出してきた。

 結局ソビェスさんの勢いに負けてそのままお願いしてきてしまった。

 前回よりも多いんだけど、同じ2日間でできるのだろうか?

 クマができた目をギラギラさせたソビェスさん達解体チームは完全に徹夜明けのテンションと勢いで引き受けた気がするが、私のお肉とお金のためにぜひ頑張ってほしい。

 そしてこのままのテンションと勢いで2日間を乗り切っていただきたい。


 倉庫から出て受付のナディアさんのところに行くと、待ってましたと言わんばかりのとってもいい笑顔でお出迎えしてくれた。

 さっそく査定の詳細を聞こうとすると、思っていたよりも大きくずっしり重い皮袋が奥から運ばれてくる。大森林の魔物だし量も量なので今回の買取額は期待できるなと思っていたけれど、思っていたよりかなり高く買い取ってくれたみたい。

 ナディアさん曰く、この町は大森林に面しているとはいえ大森林は強い魔物が多いから森の奥まで入って狩りをする人はなかなかいないという。

 なのでギルドに売られるのも門の近くまで飛び出してきたような大森林の浅い場所にいる魔物ばかりらしい。

 私が持ってきた魔物のほとんどは家のある大森林の奥で狩った強力な魔物が多いものね。既に噂を聞いた人から問い合わせが何件も入っているそうだ。

 量は多いがあっという間に卸先が決まりそうだと受付嬢のナディアさんは解体チームのみんなとは逆で艶々ほくほくだった。


 クレンセシアの家は大森林の内装が完成したら考えようと思っていたけど、正直すぐにでも買えちゃうお金が貯まってしまった。

 ノアとネージュにもクレンセシアで早くゆったり滞在できるようにしてあげたいな。


 そしてCランクだった冒険者ランクもBランクへ。


「グリフォンとフェンリルを従魔にしてる上に魔法も使えるなんて本当はSランクにしたいところなんですけど、1つずつしかランクを上げられない決まりで。申し訳ありません」、とナディアさんには言われたが、お金と解体の手間をなくすために冒険者になっているだけなので全く気にならない。

 どんどんピカピカキラキラになっていくギルドカードを見ると嬉しいのは嬉しいけどね!


 ナディアさんには、そんなことを言うのはリアさんだけですよ! なんて笑われてしまった。

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