第41話
「いや〜、ガッハッハッ!!! 疑って悪かったなぁ!!!」
そう言いながら大きな木製のジョッキを持ち頭をかく蛮族おじさん。
あの後白目を剥き泡を噴いてひっくり返ったおじさんは、つついても水をかけても全然起きなかった。
外に置いたままでは邪魔になり迷惑をかけてしまうということで、しかたなく受付のお姉さんがギルド内にいる冒険者達に頼みみんなで持ち上げてギルドの中に運んだのだった。
私? 私は手伝わなかったよ。魔法を使えばすぐだけど、わざわざ私に突っかかってきたおじさんを運んであげる優しさは持ち合わせていない。
おじさんを運ぶために出てきた冒険者達がノアとネージュを見てパニックを起こすという騒ぎもあったが、受付のお姉さんが声を張り上げ私の従魔だと言うことを説明してくれたのでなんとか騒ぎは収まった。
お姉さんもいきなりグリフォンとフェンリルを見て驚いたはずなのにテキパキとみんなに指示を出していた。
このお姉さんはナディアさんと言って成績優秀で受付嬢をまとめるような立ち位置の人らしい。
普段から荒くれ者の冒険者達と接する受付嬢の中のトップ。道理で肝が据わっているはずだ。
騒ぎになって少しナディアさんには迷惑をかけたけれど他の冒険者にも私がグリフォンとフェンリルを従魔にしているという証拠を見せられたのでよしとしましょう。
ギルド内に戻りナディアさんにノアとネージュの従魔登録をしてもらっていると、気がついたらしい蛮族おじさんがこちらに向かってきた。
「すまない! 疑って悪かった!」
おじさんがこちらに向かってガバッと頭を下げる。
「もういいですよ。信じてもらえたようですし」
従魔登録をしながらナディアさんに聞いたのだがこのおじさんはずっとこの町で冒険者をしている古株らしく、新人冒険者の面倒を見たり素行の悪い冒険者から受付嬢を助けたりしてるいい人らしい。
今回もきっとナディアさんを助けようと思っての行動だろう。
「こちらで従魔登録ができました。
新たな従魔としてフェンリルを登録して、小型の鳥魔物で登録してあったグリフォンも登録変更しておきました」
「ありがとうございます」
素材も買取してもらおうと思って買取カウンターに向かうが、なぜか後をついてくる蛮族おじさん。
「詫びにそこで酒を奢らせてもらえないだろうか!」
「もう気にしていないので結構です。
あ、魔物の買取お願いします。ここのカウンターには置ききれそうにないので倉庫に案内してもらってもいいですか?」
「いや、それじゃあ俺の気がすまねぇ! 奢らせてくれ!」
いいって言ってるのになぜか後をついてくる蛮族おじさん。
そしてグリフォンとフェンリルを連れた私の狩った魔物を見たいのかぞろぞろと後をついてくる冒険者たち。
案内されて倉庫に入ると中で解体作業をしているスタッフさん達が何事かと驚いている。
もう国を出たから実力を隠す必要はなくなったんだけどここまでの騒ぎは予想外だったわ。
「ソビェスさん! 買取希望の方です!」
「はいよー!
ん? 嬢ちゃん、買取希望の魔物はどこだ?」
「ここにあります」
そう言ってアイテムボックスから魔物を1匹出して見せる。
「おおお!! アイテムボックスか!? 久しぶりに見たぜ!!」
この町クレンセシアは大森林に面しているから帝国の中でも強い冒険者の集まる町なはずなんだけれど、それでもやっぱりアイテムボックスは珍しいみたいね。
後ろから見ていた冒険者達からも「アイテムボックスだって!?」「本当か!?」と声が上がっている。
「この辺りに置いてくれ!」
「はーい!」
それなりのスペースがあったけれど、ノアとネージュが毎日のように大森林で狩をしていたのであっという間に埋まってしまう。
うーん、まだまだたくさんアイテムボックスに入ってるんだけど。
いいや、上に積んでいこう!
「ま、待ってくれ! まだあるのか!?」
魔物の山が頭を越す高さになったところでソビェスさんが声を上げた。
周りがどうも静かだと思ったらどうやらアイテムボックスからどんどん出てくる魔物に驚いて固まっていただけだったらしい。
周りを見ると冒険者達も口をぽかんと開けたり目を見開いたり面白い顔をして驚いている。
「まだ倍はあります」
「そ、それは無理だ! 解体する前に悪くなっちまう。
とりあえず今出てる分だけで勘弁してくれ!」
アイテムボックスに入れておけば悪くならないし、今出してる分が終わったらまた持ってくればいいか。
「それで大丈夫です。食べられる肉以外は買取でお願いします!」
「おう! 肉以外買取だな!
それにしても見事にどれも強い魔物ばかりだな。こりゃ過去最高額の買取金額になるかもしれねぇな!! 冒険者ランクもグンと上がるんじゃねえか?
もしやこれを狩ったのは大森林か? こんなに強い魔物ばかりいるのはこの辺じゃ大森林だけだもんなぁ。アイテムボックスがあるって言ったってよくこんなに狩れるまで大森林で過ごせたな。
あそこはビックリするくらい強い魔物ばかりだろうに」
確かに普通に考えたら大森林の魔物をこんなに狩るにはものすごい期間大森林にいないと無理だよね。
大森林で野営するって考えると危険も多いし。
「私には可愛くてもふもふで頼りになる従魔が2匹もいるんですよ」
「従魔? 強い従魔がいるって言っても、大森林だぞ?よく生きて帰ってこれたなぁ」
そっか、この人倉庫にいたからノアとネージュのこと知らないもんね。
強い従魔がいるって言われてもグリフォンとフェンリルほどだとは思っていないだろう。
「ソビェス! この嬢ちゃんの言ってることは本当だぜ!
この嬢ちゃんはグリフォンとフェンリルを従魔にしてるんだよ!!」
ここで急に入ってくる蛮族おじさん。
「……ん? 聞き間違えか??
今グリフォンとフェンリルって聞こえた気がするんだが。」
「そう言ったんだよ!
俺は嘘言ってねぇよ。確かにこの目で見たんだからな!」
そうそう。それで白目剥いて泡吹いて倒れたのよね。
「ほ、本当か……?」
「本当ですよ。今ならギルドの外に出ればいますし」
「まぁ俺は見て気絶したんだけどなぁ! ガハハハハッ!」
「そ、そうなのか。
俺は今日は見るのをやめとくよ。ゴンザレスが気絶したなら俺はどうなるのかわからん。仕事にならなくなるかもしれないしな」
この蛮族みたいなおじさんはゴンザレスさんって言うのか。見た目にピッタリすぎる。
「それじゃ、2日後には解体と査定を済ませとくからまた2日後にきてくれ!
解体スタッフみんなでがんばるからよ!」
「わかりました。よろしくお願いします」
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