第38話

「おーい! 来たぞー!!」


え? ネージュ? もう来たの!? まだかなり早い時間だよ!


 朝ご飯の準備を始めた頃、ネージュがアイテムバッグを咥えて家に来た。

 昨日帰ってからすぐに引っ越しの準備をはじめて今日朝一で家を出てきたらしい。


「それで? 今日の朝飯はなんなんだ?? 」


 家に入ったネージュは鼻をヒクヒク動かしてキッチンに来るとソワソワしながら朝食の準備をする私の手元を覗き込む。

 朝ご飯が目的で朝一で家を出たんだな。

 ずっと生肉を食べて生活していたネージュは昨日のピザで人間の食事の虜になったようだ。

 ノアも初めはそうだったのが懐かしい。


「今日はサンドイッチとスープだよ!

サンドイッチはパンにいろんな具を挟んだやつで、スープはいろんな具材をお水で煮込んだやつね」


 スープは鍋ごとアイテムボックスに入っているし、サンドイッチは元々ノアがいっぱい食べるから卵系やお肉系やサラダ系などいろんな種類を沢山作ってある。

 ネージュに分けても足りるだろう。


 大皿にサンドイッチとスープをよそると2人の元へ持っていく。


 ご飯を前にした2人はものすごく腹ペコのようで、2人の口からは涎がポタポタ。ネージュはさっきから鼻のヒクヒクが止まらないようだ。


 これ以上は2人が待てそうにないので自分の分の皿を持つと急いでテーブルにつく。


「いただきます」


「「いただきます!」」


 ノアとネージュは待っていましたと言わんばかりにサンドイッチにかぶりつく。


「うまいっ! うまいっ!」


「相変わらずリアの作る食事は美味いなぁ」


 2人とも大森林で育った魔物で友達同士なのに、食べ方にも性格が出るなぁ〜。

 ノアは基本落ち着いていてキリッとしているけど、ネージュはなんだかフェンリルというよりワンちゃんみたいだ。


げふっ。

「はぁ、うまかった!」


「ネージュ! 行儀が悪いぞ! リア、ご馳走様」


 2人ともお腹がポンポンになるまで食べて寝床でゴロゴロ。


「いやぁ、ここは住み心地がいいなぁ。

飯はうまいし、寝床はふかふかで柔らかいし。本当にこんなに良い住処を捨てて隣国に行くのか?」


 うーん、それもそうなんだよね。

 ここでちょっと狩りしたら隣国行って家を買って生活するつもりだったんだけど、予定よりも家をしっかり作っちゃったんだよね。

 わざわざ隣国に行ってお金を出して家を買わなくてもいい気がしてきてしまった。

 それに隣国だとノアとネージュがそのままの姿で過ごせないからなぁ。

 もう王国を出たからノアとネージュの正体を隠す必要はないけど、さすがにこんな大きいの2匹がそのままの姿で過ごせるほど広い場所ばかりじゃないからなぁ。大森林と同じように毎日自由に駆け回って過ごすことはできないだろう。


「このままで問題ないのならここに住めば良いのではないか?」


「そうだ! 何か用事がある時だけ隣国に行けばいいんじゃないか!?」


 ウンウン言って悩んでいたら、ノアもネージュの意見を後押ししてくる。


 たしかにここの生活には何の問題もない。

 大森林は魔物が強いけれど、ノアもネージュも元々ここに住んでいたから問題なし。私も魔法が使えるから問題なし。

 家も快適。狩りもできる。ノアもネージュも擬態せず過ごせる。

 問題は肉以外の食材が手に入らないことだけど、それはたまに隣国に言ってまとめ買いしてアイテムボックスに入れておけば問題なし。


「じゃあこのままここに住んじゃう?」


 そういうと2人とも目をキラキラさせてこちらをバッと見る。


「おぉ! そうだな! そうしよう!」


「やったぞーーー!!」


 そんなにここに住みたかったのか。


「でもいろいろ必要なものを買わないといけないからとりあえず近々隣国には行くよ?」


 買い物以外にも今まで狩った魔物がいっぱいアイテムボックスに眠っているから売って整理しないとね。


「わかっている! うまい飯を作るにはいろいろ必要なんだろう!?」


 ご飯以外にもいろいろ必要なんだよ……。ずっと生肉を食べていたネージュは色々作って調理する過程を見てびっくりしていたからなぁ。


「よし! じゃあとりあえずネージュが今日ここに引っ越して来たばかりだからしばらくここで狩りをしつつ生活に慣れて、その後隣国に向かおう!

で、隣国で今まで狩った魔物やお宝部屋の不用品を売ってそのお金でしばらく大森林で暮らせるように買い物をしよう!」


「「おーーー!」」


 とりあえずこれからしばらくの予定は決まった。

 これで一安心! と思ったのに、次の日に気合が入りすぎたノアとネージュの狩ってきた魔物の山を見て頭を抱えるのであった。

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