第37話

 ええーーー!!? どうして!? 従魔になるの!? フェンリルが!?


「あの、本当にそこまで気にしなくていいです!

ノアが居なくなって心配していたところに急に主ができただなんて言われたらそうなるのもわかりますし!」


 大森林の奥地で縄張りまで持っている立派なフェンリルにこんな事で従魔になってもらうなんて申し訳なさすぎる!!


「おお! それは良いな!」


 ノ、ノアーーー!?


「そうなれば白銀とも一緒にいられるな!」


 そっか。ずっと隣の縄張りで仲良しだったのに急に襲われて私の従魔になることになったんだもんね。

 ノアもお友達が一緒だと嬉しいよね。


「本当に私の従魔になってもいいの?」


 最後にもう一度確認するが、フェンリルの意志は固いようだ。


「もちろんだ。これからよろしく頼む」

    






「うっまーーーい! なんだこれは!!」


 結局フェンリルは私の従魔になることになったのでそのまま帰ってもらうわけにはいかず、食べている途中だったピザを一緒に食べることになった。


 この子もノアと同じでずっと自分で狩りをして生肉を食べてきたのでこういった食べ物は初めてだったみたい。


「お前はっ! 私が心配していたというのにこんな美味いものを食べていたのか!!」


「ふふん、うまい食べ物はこれだけではないぞ! 私たちが食べていたのと同じ肉でもステーキという食べ方もまたうまいのだ」


 私と旅をしている間に知ったことをあれもこれもといつもよりもはしゃいで話すノアが可愛い。


「そうだ! リア、こいつにも名前をつけてやってくれ!」


フェンリルは「名前?」と首を傾げキョトンとしている。


「そうだね! 呼ぶ時にも困るし、1人だけ名前がないのは悲しいよね!」


 うーん、どうしようかな。

 ノアは空を自由に飛び回るという意味でノアとつけたのよね。

 この子が攻撃に使っている鋭い牙からつけるのもいいし、美しい金色の瞳からつけるのもいいわね。

 ツァンナだと女の子っぽいかしら? コルドだとちょっと厳つすぎてこの美しいフェンリルには合わないわね。

 そうだ! ノアが白銀って呼んでるからそこから名前をつけるのもいいかも。

 シルヴァ? それともアルジャン?


うーん、よし! 決めたわ。


「ネージュはどう? 外国の言葉で雪って意味なんだけれど。ほら、雪って白いし銀世界って言うでしょう?

ノアも白銀って呼んでいるからそこからとったの」


 そういうとフェンリルは何度か名前を呟き、「うん! 美しい響きだ。気に入ったぞ!」と喜ぶ。

 気に入ってくれてよかった。


 食事が食べ終わるとネージュは一旦自分の縄張りへ帰って行った。

 これから私たちと一緒に行動するために自分の住処を片付けてくるそうだ。なにやら持ってきたいものがあるらしく、ノアのお宝部屋からマジックバッグを持って行った。


 帰り際に「明日からここで一緒に住むからよろしくなっ!」と言って出て行ったので、私は大急ぎでノアと色違いのネージュ用寝床クッションを作製した。









「アンドレさまぁ! お庭の薔薇がとっても綺麗に咲いていますよ。一緒にお庭でお茶しませんかぁ?」


 そう言って腕に絡みついてくるシャルロッテの手を払う。


「すまないが今から約束がある。また今度な」


 そう言うとシャルロッテは「アンドレさま最近いっつもそう! 少しはシャルのことも構ってくださいっ!」と頬を膨らましもうっ! とこちらを見上げる。


「すまないな」


 シャルロッテの頭をポンポンと撫でると、「もうっ! 撫で撫でで許してあげますね」とにこりと笑った。


 無能のオレリアを捨ててシャルロッテと婚約した時は爵位は低いが魔法が使えて可愛げのあるやつだと思っていたが、最近は婚約者になったからか我が物顔で王城を歩き回りいちいち俺のやることに口を出してくる。

 許してあげるとはなんなんだ! 俺はこの国の王子だぞ!!


 父親のシフォンヌ男爵も婚約段階にかかわらずもう親族になったつもりであちこちで威張った顔をしていると聞く。


「クソっ!」


アンドレはイラつきからかテーブルの上にある細工の美しい高価なグラスを掴み取ると壁に投げつける。


 こんなことオレリアの時にはなかったというのに!!

 あいつは魔法に関しては無能だったがその他は完璧だった。

 まぁ俺の妻にするにはその魔法が重要だったから国外追放までして婚約破棄をしたんだがな。

 だがオレリアは実は魔法が使えたという。しかもかなり強力な魔法だ。さらにグリフォンまで……!


 今日明日には国境に出した使いが戻ってくる頃だ。

 オレリアも国外追放の犯罪者から妃になれるというのだ、涙を流し喜んで戻ってきているところだろう。

 そうなればあんな下級貴族の女、今までの俺への馴れ馴れしい態度で不敬罪にしてくれる!!


「アンドレ殿下。国境へ出した使いが戻りました。

そのことについて国王陛下がお呼びです」


 おお! 来たか!

 この俺が直々に出迎えてやろう。

 俺のものとなるグリフォンを確認しなくてはな!!


「すぐに向かう!」


 アンドレはメイドに粉々に割れたグラスを片付けるように言いつけると部屋を後にした。









「父上! お待たせいたしました!

それで、オレリアとグリフォンはどこに!?」


 部屋に入ると父上と使いに出した騎士達はいるがオレリアとグリフォンが見当たらない。


「うぅむ。それがな、騎士達がアールグレーン嬢を見つけた時には既に国境を越えた後でな。

アールグレーン嬢はグリフォンに乗って大森林へと向かっていったそうだ」


 なんだと!? オレリアとグリフォンを逃したというのか!!


 「ふざけるな!! 私のオレリアとグリフォンを目の前で逃すとは!! 父上、オレリアの国外追放を撤回し私の婚約者に戻すという話はどうなるのですか!!」


 父上はうんうん言って考え込む。協力な魔法使いとグリフォンだぞ!? 父上はこの損失をわかっているのか!?


 「父上! どうにかしてください! このままでは我が国の魔法使いとグリフォンが帝国に奪われてしまう!!」


「……そう、だな。では帝国の皇帝に向けて手紙を出そう。

 アールグレーン嬢も公爵令嬢として育ったのだから平民としては生きていけまい。帝国で名乗り出るかもしれん。罪が冤罪であったことと国外追放の撤回を知らせ、戻ってくるよう手紙に記そう」


 そうだ! オレリアは私の元へ戻れると知らずに帝国に行ったのだから、全て元に戻れると知ったら喜んで帰ってくるだろう。


「ありがとうございます、父上!」


 まったく! いくら魔法が使えてグリフォンを従えたからといって、父上と私にこんな面倒をかけるなんて。

 前は大人しくて従順だったのに。帰ってきたらキチンと自分の立場をわからせてやらなくては。


「そうだ! グリフォンを入れる檻を注文しておかなければ!」


 グリフォンが入るほどの檻となると今から準備しておかなければ間に合うまい!


「おい! 王国一の鍛治師を呼べ!」


「はい! すぐに呼んで参ります!」


 私のグリフォンを入れるのだから美しく華やかな檻でなくてはな!


 魔法使いの妃にグリフォンがいれば、あの陰気な兄上ではなく私が国王になれるはず! これで父上も兄上より私のほうが国王にふさわしいとわかるはずだ!


 「アハハハハッ! アハハハハハハハッ!!」



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